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冷静な判断と、医師に相談する勇気を持って
補完代替医療との後悔しない上手な付き合い方

監修:内布敦子 兵庫県立大学看護学部看護学研究科教授
取材・文:増山育子
発行:2009年8月
更新:2013年4月

  
内布敦子さん
兵庫県立大学看護学部
看護学研究科教授の
内布敦子さん

がん患者にとって、民間療法をはじめとする補完代替医療を利用してよくなりたいと思うのは当然の気持ち。
ただ効果や安全性、費用などの面で問題も多く、溢れる情報に翻弄され、大切な時間やお金を無駄にしてしまう危険性もはらんでいる。
では一体、自分にあった補完代替医療を選ぶためには、どうすればいいのだろうか――。

補完代替医療の利用実態調査

[補完代替医療の利用頻度の高い患者]
図:補完代替医療の利用頻度の高い患者

厚生労働省がん研究助成金「我が国におけるがんの代替療法に関する研究」班 主任研究者:兵頭一之介、出典:Journal of Clinical Oncology 23;2645-54,2005一部改変

「補完代替医療」という言葉からどんなものや方法を連想するだろうか。健康食品やサプリメント、鍼灸や整体、音楽療法やイメージ療法など多種多様なものが思い浮かぶ。

ここで、2005年に発表された補完代替医療の利用実態を紹介しよう。それによると、がん患者の44.6パーセントが補完代替医療を利用しており、女性、60歳以下、高学歴、化学療法経験者、緩和ケア病棟患者などの利用頻度が高いことがわかっている。

とはいえ、半数以上の患者が、補完代替医療を利用するにあたって正しい情報を得ておらず、またその利用について医療者に相談したり、医師から問診を受けたりしていない患者が多数を占めることも明らかになった。

このような調査で浮かび上がった日本の利用実態から、補完代替医療について、標準的な考え方を患者・家族や一般の人たちに示す必要性が指摘されている。

兵庫県立大学看護学部看護学研究科教授の内布敦子さんは「現実的に西洋医学的な治療を一切やめてしまって補完代替医療のみという人はまれです。たとえば気功や玄米食、ご自身で調合した野菜ジュースを飲むなど自分なりに何かやっているということまで含めたら、ほとんどの患者さんが何らかの補完代替医療を行っているのではないでしょうか」と話す。

[補完代替医療の分類]

分類と名称 内容
代替医療体系 伝統医学系統、民族療法(東洋伝統医学、アーユルベーダ、ユナニ医学など)
精神・身体インターベンション 瞑想、祈り、心理・精神療法、芸術療法、音楽療法、ダンス療法など
生物学に基づく療法 ハーブ、食品、ビタミン、ミネラル、生理活性分子など
整体や身体を基礎とした方法 脊椎指圧療法、整骨療法、マッサージなど
エネルギー療法 気功、レイキ、セラピューティックタッチ、電磁療法など
出典:「がんの補完代替医療ガイドブック」一部改変(厚生労働省がん研究助成金研究班作成)

ガイドブックの活用を

補完代替医療が医療機関で受ける治療と大きく異なる点は、その治療を選ぶかどうかを「全て、患者自らの意思で決めること」だ。だからこそ患者自身の心構えが大切だし、補完代替医療のとらえ方、利用の仕方について知っておく必要がある。そこで内布さんは補完代替医療を活用するためのガイドブックに目を通すことを勧めている。

ガイドブックは個人の責任で受けるさまざまな治療を制限したり、特定のものを推奨するのではなく、専門雑誌に発表された論文や研究機関の見解などを整理した一般向けのパンフレットで、治療を選ぶときの考え方、判断材料を提供するものだ。

「補完代替医療の情報の集め方や注意点、確認事項、主な治療法の科学的検証についても載っています。患者さんやご家族が藁をも掴む思いで衝動的に始めてしまい、身体的、経済的に大きな負担を抱え込むといった事態を避けるため、事前に読んでおくと納得できる選択の助けになるでしょう」

まずは冷静に判断

日本補完代替医療学会では補完代替医療を「現代西洋医学領域において、科学的未検証および臨床未応用の医学・医療体系の総称」と定義している。つまり補完代替医療のほとんどは安全性や効果が明らかになっておらず、医学的に効くという証拠がないということだ。

ものによっては高額な費用がかかるだけでなく、体に有害な場合さえありうる。

「明らかに治療上よくないことを患者さんがそうとは知らずに行うのが危険なのです。患者さんから補完代替医療の利用について相談を受けたときは、できるだけ多くの論文や文献などを検索して医学的に効果が証明されていないことをデータで示します。患者さんの選択を誘導したりはしません。それでもやるとおっしゃる場合、その患者さんが冷静に判断できる精神状態なのかということを見る必要があるでしょう」

ポイントとなるのは冷静な判断能力のあるときに客観的な目で見るということだ。患者が再発や死の恐怖でパニックになっているときに客観的な判断は望めない。また本人は落ち着いていても家族が感情的になって強く勧めることもよくある。そんなときは正常な心の状態で決められるようになるまで時間をおくことも重要だ。

「患者さんは『生きていたい』という気持ちからさまざまな補完代替医療を試みるわけで、生き延びるために一生懸命になり、医学に頼るだけではなく自分自身が生活を変えたりすることで何かできないかと探るのです。そういった努力は素晴らしいことです。家族の方の強い勧めもその人を失いたくないという気持ちが大きいからであって、決して異常ではありません」

内布さんはがん患者が補完代替医療を求めるのは当たり前で、むしろ健康的な心の動きだと強調する。

「治りたいという思いは当然だし、あなたの意思決定は尊重されるのだと伝え、本人の気持ちや考え方、ありようを認める適切なサポートを受けたら、患者さんもご家族も数日で落ち着いてこられます。そして自分で判断できるようになっていくわけです。患者さんは皆さんそういう力を持っておられます」

[補完代替医療の利用実態]
図:補完代替医療の利用実態

厚生労働省がん研究助成金「我が国におけるがんの代替療法に関する研究」班 主任研究者:兵頭一之介、出典:Journal of Clinical Oncology 23;2645-54,2005一部改変

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