玉石混交の情報に振り回されないために
統合医療の膨大な情報を見極め 自分の価値観で行うかを判断
統合医療に関心を持つがんの患者さんは多い。まず大切なのは、膨大な情報の中から信頼できるものをふるい分けることだ。次に、その情報が自分に当てはまるかどうかを考え、最終的に自分の価値観に基づいて、行うかどうかを判断する。統合医療とうまくつき合うには、情報をうまく使いこなす能力が必要となる。
近代西洋医学に補完医療や伝統医学を組み合わせた医療
がん患者の多くが、サプリメントや健康食品などを使用しているという実態がある(図1)。また、ネットの世界を中心に、健康・医療に関する様々な情報があふれ返っている(図2)。
こうした状況の中で、がん患者は統合医療とどのように付き合っていけばよいのだろうか。大阪大学大学院准教授で、厚生労働省の「『統合医療』情報発信サイト」の作成に関わってきた大野智さんにアドバイスしてもらった。
「まず、言葉を定義しておく必要があるでしょう。かつては代替医療、あるいは補完代替医療という言葉がよく使われましたが、最近では統合医療という言葉が使われるようになってきました。厳密な定義が確定しているわけではありませんが、厚生労働省の『統合医療のあり方に関する検討会』の中で、この検討会では統合医療をこう位置づけて議論していく、というのを決めています。それが参考になるでしょう」
この検討会では、統合医療を「近代西洋医学を前提として、これに相補(補完)・代替医療や伝統医学等を組み合わせて、さらにQOL(生活の質)を向上させる医療であり、医師主導で行うものであって、場合により多職種が協働して行うもの」と位置づけている。
「代替医療や補完代替医療という言葉が使われていた頃は、近代西洋医学と並列の関係にあるものと考えていたわけですが、それを1つにまとめたのが統合医療である、ということです」
アメリカの国立補完代替医療センター(National Center for Complementary and Alternative Medicine:NCCAM)は、2014年12月に改称されて、国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary and Integrative Health:NCCIH)となっている。これも、近代西洋医学にとって代わる医療ではなく、一緒に組み合わせて行う医療であるとの考えに基づいた改称だという。
正確な情報をわかりやすく伝えるサイトがある
前述した「『統合医療』のあり方に関する検討会」では、いろいろ議論した結果、統合医療に関わる正確な情報を、国民にわかりやすく伝えていくことがまず求められる、という結論に至ったという。そこで厚生労働省では、統合医療に関する情報発信を行うためのホームページを作ろうということになった。それが「『統合医療』情報発信サイト」(www.ejim.ncgg.go.jp)である(図3)。
このサイトの作成には、大野さんも関わってきた。
「統合医療に関わる情報はあふれ返っていて、玉石混交と言われています。例えば、インターネットで統合医療のキーワードを検索すると、膨大な数の情報が出てきます。それを1つひとつ見ていくことなどとてもできません。情報があふれることで、かえって正確な情報に行き着くのが困難になっているのです。
そこで、例えばこのサプリメントについては、ここまでわかっているが、これ以上はわかっていないとか、安全性については、こういう人は使ってはいけないことが明らかになっているとか、正確な情報だけを、誰にでもわかる形で発信していくことにしたのです」(図4、図5)
このサイトでは、アメリカの国立補完統合衛生センター、国立衛生研究所、国立がん研究所などの情報を、許可を得て載せている。もちろん日本語に翻訳されているので、誰でも読むことが可能だ。
統合医療に関する抄録もサイトの大きな魅力
また、世界中のランダム化比較試験の報告を取りまとめシステマティックレビュー(系統的レビュー)を行い、それをデータベース化した「コクラン・レビュー」がイギリスで作られているが、このうち統合医療に関係する論文の抄録を翻訳した「コクラン・レビュー・アブストラクト」も、現在、このサイトが力を入れている大切な仕事である。
「ランダム化比較試験とは、信頼性の高い臨床研究の方法です。世界中でいろいろな研究が行われているのですが、論文が増えてくると、読みたいものを見つけ出すだけでも大変になります。
そこで関連する論文をまとめておこうと、『コクラン・レビュー』が誕生したわけです。その中の統合医療分野の論文について、抄録を日本語に翻訳する作業を進めています」
これにより、専門家だけでなく、一般の人でも、統合医療に関する正確な情報に触れられるようになった。