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市民公開講座「温熱療法による新たながん治療戦略」より

保険適用の温熱療法を、抗がん薬や放射線治療と併用

講演者●安田浩康さん 渋谷青葉台内科小児科クリニック院長・理事長
講演者●古倉 聡さん 京都学園大学健康医療学部教授
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2017年1月
更新:2019年4月

  
10月26日 市民公開講座「温熱療法による新たながん治療戦略」会場

電磁波温熱療法というと民間療法と勘違いする人も多いというが、頭部と目を除くすべてのがんに公的医療保険が適用されている治療方法だ。どのような時に有効か、どのように行われるのか。10月26日には都内で「温熱療法による新たながん治療戦略」と題した市民公開講座が開かれ患者さんと家族ら120人が詰めかけた。

電磁波で体内の温度を上げる

電磁波温熱療法(以下、温熱療法)はハイパーサーミアとも呼ばれ、がん組織は正常組織よりも熱に非常に弱いという性質を突いて身体を温めることで叩こうという治療法だ。がん細胞は放熱のために血管が拡張する機能がなく熱をため込みやすいため、41.5~44度ほどの温度で死滅する。

では、熱い温泉にじっくりつかってもよさそうなものだが、外部からの加温は体表面が1度ほど上昇するだけで、病変のある体の深部まで目標の温度まで上げることは不可能だ。そこで登場したのが温熱療法。ベッドに寝た体勢になり電極でがんの部位を挟んで8メガヘルツの電磁波を流すと体内の水分子の動きが激しくなって体温が上がっていく。電磁波を40分くらいかけると、顔や足先まで熱くなるほどという。この治療を1サイクル8~12回として3カ月ほどで行う。1サイクルの保険点数は体の深部が対象の時には9,000点、浅部が対象では6,000点となっている。効果が認められれば治療の延長も保険で可能だ。がんの組織系や進行度を問わずに適用される(図1)。

副作用はほとんどないとされるが、2%ほどで電極と身体の間に隙間が空いて電磁波の反射が起き、やけど、水ぶくれがみられることがある。対策としては、ゼリーを塗ったり、電極を当て直したり、水枕などの使用で、痛みややけどを負うことなく治療を受けられる。

図1 電磁波温熱療法とは

標準治療との併用を

講座で登壇した渋谷青葉台内科小児科クリニック院長の安田浩康さんは、「これは医療用の機械を使って行う治療で民間療法ではありません。1990年に放射線治療との併用で保険適用され、その後単独でも保険が効くようになりました。若い医師の中にはそれすら知らない人々もいます」と話す。安田さんは温熱療法を積極的に導入し、理事長を務める医療法人希翔会の八乙女駅前内科小児科クリニック(仙台)と合わせて世界で130台しかないサーモトロンという温熱療法の機械を5台所有している。予約でいつもいっぱいだという。

「標準治療には限界があります。化学療法は副作用がかなりあるし、抗がん薬を変更しようにも選択肢がなくなっていきます。放射線治療では60グレイ超えると脊髄損傷が起こり、まるで交通事故に遭ったように寝たきりになってしまいます」

安田さんは、温熱療法で化学療法の感受性が高まるため、標準療法の投与量では副作用が現れる患者さんであっても少量の抗がん薬で副作用がなく効果が得られるとしている。

さらに放射線治療との併用も推奨している。「治療選択肢に温熱療法も加えて、外科、内科、腫瘍内科、放射線内科、放射線科、ペインクリニック、腫瘍精神科、緩和ケア科などがそれぞれ得意な技術を提供し合って患者さんに長生きしてもらおうという集学的がん治療を目指しています」と述べた。

3週間でがんが縮小し手術へ

安田さんは過去の臨床試験の結果を紹介した。「東京医科歯科大が2009年に発表した論文でⅢ(III)期以上の非小細胞肺がんに抗がん薬と併用したところ、併用のない治療の生存率の中央値が12カ月前後なのに対し、併用群は27カ月でした。また、東大で非小細胞肺がんにおける放射線単独治療と温熱療法併用を比較したところ、生存期間(OS)では放射線単独群の50%が6カ月で亡くなっているのに対し、温熱療法併用群は6、7年経ってもまだ存命の方がいます。奏効率は単独群70%に対して、併用群は95%でした。標準療法である放射線治療の効果を高めていることがエビデンスとして示されています」

そして、温熱療法累積件数2万4,000件を診ている安田さんは過去の治療例の一例を示した。「50歳男性はⅠ(I)B期の大腸がんで標準治療歴のない患者さんでした。本人の希望で温熱療法を開始し、週2回、1カ月半行なったところ、3週間後にはがんが小さくなり、1カ月半でがんの出っ張りがなくなりました。『ここまで小さくなったのなら手術で取り切りましょう』ということで、適切な医療機関を紹介しました」(図2)

一方で、「温熱療法を受けたら必ず良くなるわけではありません。肺がんなら3割しか小さくならない。残りの4割は大きくもならず転移もしない状態。残りの3割は病勢が進行してしまいます。私は、治療は落ち着いている状態、病勢制御を長く保つことが大切だと思っています」と述べた。

問題点として、医師による考え方の違いでサーモトロンを備えている医療機関が極めて少ないことを挙げた。「標準治療で効果が上がらずに、緩和ケアに行こうとした場合、温熱療法が効果を発揮することがあります。余命3カ月と言われたのに、3年以上歩いて通院している方もいます」

そして、「標準治療と同時に温熱療法も行ったほうが効果的です」と他の医療機関との連携が必要だと強調した。

図2 電磁波温熱療法の治療効果例

進行がんを慢性疾患にするために

続いて講演したのは、京都学園大学健康医療学部教授で日本ハイパーサーミア学会副理事長の古倉聡さん。「目標は進行がんの進行を止めること。進行がんを慢性疾患にしたい」と語り始めた。

放射線治療との相性の良さを挙げ、「血管に近いところにあるがん細胞は酸素や栄養分が足りているので酸素分圧が高い。ここには放射線がよく効きます。一方で、血管から離れたところにあるがん細胞は酸素分圧が低くなっているので、温熱療法がよく効きます。併用するとこの全組織をやっつけることができます」と述べた(図3)。

細胞分裂周期についても触れ、がん細胞周期の中で放射線治療はS期には効きにくいが、温熱療法は放射線療法の弱点を補いS期の細胞にもっともよく効くので、この点でも併用効果が強調されるとした(図4、5)。

また、抗がん薬との併用効果についても、「がんの患部を温めると少なくなっていた血流が増えるので抗がん薬の到達度が高まり、がん細胞内での化学反応が強く起こります。さらに抗がん薬への抵抗性獲得機構を抑制します」と併用効果について述べた。

古倉さんは、治療のどのタイミングで温熱医療法を取り入れるのが良いかについても力説した。「抗がん薬についてどの時期がいいか実験していましたが、抗がん薬を投与している中で温熱療法をしたほうがいいという知見を得ました。抗がん薬の投与法により実際は難しいケースもあるのですが、できるだけ抗がん薬治療を受けてから早い時期に受けたほうがいいと思います。抗がん薬治療の前に行ったほうがいいケースもあります」

図3 腫瘍組織と血流
図4 体内の細胞が分裂する仕組み
図5 細胞周期と放射線・温熱感受性との関連

主治医との関係も大切に

会場からの質問で、温熱療法にトライしようとした時に現在の主治医との関係悪化を心配する声も上がった。

安田さんは「保険適応治療を受けるかどうか最終的に決める権利は患者さんにあるので、主治医が温熱療法に否定的な場合は、主治医に内緒でも良いのでまず温熱療法について経験豊富な当院を受診して説明を聞いて理解納得出来るか確認してほしい」と訴えた。

古倉さんは「抗がん薬を変えてもらうことがあるので温熱療法をする医師と主治医との連絡は大切です。かたくなに否定する医師がいた場合は、私にはいったん京都府立医大に移ってもらい抗がん薬治療を受け、温熱療法もしてもらうという手があります。治療分野を超えて患者さんを助けたいということを理解してほしい」と集学的医療の大切さを強調した。

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