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祢津加奈子の新・先端医療の現場21

低侵襲・高精度治療を目指すダヴィンチによる肺がん手術

監修●須田 隆 藤田保健衛生大学医学部呼吸器外科准教授
取材・文●祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2012年11月
更新:2019年8月

  
須田隆さん「ダヴィンチ手術は将来性が望める治療です」と話す須田隆さん

手術支援ロボット・ダヴィンチを使った手術は、日本でも前立腺がんや子宮体がん、子宮頸がんなどを中心に広まりつつあるが、藤田保健衛生大学医学部呼吸器外科准教授の須田隆さんは、肺がん手術にダヴィンチを導入。「手術野が立体的にみえること、さらに操作性が高いので、胸腔鏡より精密な手術が可能ではないか」と話している。

4カ所に穴を開けて行うダヴィンチ手術

■図1 ダヴィンチ手術で切開が必要な部位

体の4カ所に切開して手術は行われる。オレンジ色の部分はアシスト用

この日、ダヴィンチで手術を受けるのは、65歳のA子さんだ。健康診断から、左肺の上方に2.5cmのがんが見つかった。肺がんの手術適応は3a期までだが、幸いA子さんの肺がんは1期だった。

肺は、「葉」という単位に分かれる。A子さんは、ダヴィンチを使ってがんのある肺の左上葉を切除し、リンパ節の郭清を行うことになった。

午後4時。すでにA子さんは、麻酔が効いて手術台の上で左を上にして寝ている。その上に、ダヴィンチのロボットアームが移動し、メスで図1のように4カ所に小さな切開が加えられた。

6番目と7番目の肋骨の間に入れた1cmの切開はダヴィンチの右手用、少し上には左手用に1cmの切開、3cmの切開は胸腔鏡を挿入するためのものだ。さらに、助手が吸引など手術を補助するために1cmの切開が加えられた。

ここで、ダヴィンチを操作するために、須田さんがコンソールボックスというダヴィンチの操作用ボックスに移動した(写真2)。コンソールボックスで、術者は椅子に座り、双眼鏡を覗き込んで術野をみながら、両手の人指し指と親指を器具にひっかけ、ロボットアームの右手と左手を操作して手術を行う(写真3)。足元のペダルを踏むと、電気メスが通電されるしくみだ(写真4)。

 

■写真2

術者はコンソールボックスでアームを操作する
■写真3

術者の手元。滑らないように輪っかに指を通す
■写真4

術者の足元。切除したりする際に使われる

立体画像と多関節で精密な手術

■写真5

ロボットアームを使い剥離されていく

ダヴィンチの双眼鏡では、胸腔鏡を通して術野の立体的な画像がみえる。ベッドサイドのモニター画面にも同じ画像が映し出されているが、これは一般的には平面画像が多い。

「では、葉間から行きましょうか」

須田さんの声がコンソールボックスのマイクに拾われて、助手たちの耳にも届く。

左の上葉を切除するために、まず葉と葉の間を剥離していく。ロボットアームの左手に装着したピンセットで組織をつかみ、右手の鉗子で少しずつ慎重に剥離していく(写真5)。

肺には、肺静脈と肺動脈という太い血管がある。とくに、肺動脈は注意して剥離しないと、心臓に近い太い動脈が裂けて修復不能になる場合もある。こんな場合にも、立体的に臓器がみえて、人間の関節より自由に動くダヴィンチならば、好きな角度から動脈に近づいて剥離、切断することができる。

最後にブラブラになった肺葉を、ステープラーという機械を使って気管支から切断すると同時に縫合。切除した肺葉をビニール袋に入れて、3cmの切開創から取り出した。すでに、いくつかのリンパ節は郭清しながら切除してあるが、残りのリンパ節も自在にロボットアームを動かして切除し、がんの手術は終了。ロボットアームも抜去され、空気もれがないかを確認し切開した傷を縫合して手術は終わる。

2時間強の手術だった。須田さんによると「明日には、起きて歩いたり、食事もできる」そうだ。

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