会員6万人を有する患者支援組織「米国乳がん連合」の最新活動レポート
「2020年乳がんの終焉」に向けて米国乳がん患者たちが動き出した
近年患者が主体的に医療情報を学ぶ場や医療者とコミュニケーションを取る機会が増えている。
これからの日本の患者活動の在り方を考えるため、20年前より活動を開始し、今や米国の医療政策にトップクラスの影響力を持つ患者組織へと成長を遂げた、米国乳がん連合の活動を取材した。
乳がんの終焉を訴え行動する米国乳がん連合
米国乳がん連合は、米国を中心に約600を超える乳がん患者支援団体が加盟し、登録会員数およそ6万人を有する大規模組織である。1991年の創立以来、「乳がんの撲滅」を政府の優先的課題に位置付けるため議員陳情(ロビー活動)を行い、乳がん研究予算として累計で25億米ドルを獲得するほどの力を持つ。米国乳がん連合は、患者視点を公共政策に反映させることを主目的とする米国乳がん連合と、患者教育プログラムを実施する米国乳がん連合基金の2つの組織で構成されている。
政策・教育の両輪を動かし、(1)乳がん研究の促進、(2)医療へのアクセス改善、(3)患者視点での政策・研究への関与を目的としてダイナミックな活動を展開している。
米国ワシントンDCでのアドボカシー・トレーニングに参加
毎年ワシントンDCで開催されるアドボカシー(*)・トレーニング・カンファレンスは、米国乳がん連合が主催している教育セミナーである。本年も4月30日から4日間行われ、全米から800名を超える乳がん患者の活動家たちが参加した。
最初の3日間は、主に定例講演とワークショップが行われた。その内容は最新の乳がん研究、政局・議会のしくみ、政策提言活動のテクニック、医療従事者や研究者・政策立案者・メディアとのコミュニケーションの取り方など多岐にわたる。
この3日間のトレーニングを経て4日目、各州のチームに分かれて、上院・下院議員に陳情に出かける。今年の最優先課題は、①乳がん撲滅促進法の実現と、②2012年度の国防総省乳がん研究プログラムから、研究費1億5千万米ドルを維持獲得することに絞られた。
*アドボカシー=患者の利益・権利のために活動すること
2020年までに乳がん終焉へ
今年のカンファレンスは例年と明らかに違う点が1つある。それは、乳がん終焉の期限を2020年1月1日に定めた Breast Cancer Deadline 2020(2020年乳がんの終焉)がテーマとなっていることだ。
米国乳がん連合代表のフラン・ビスコ氏は、この大胆ともいえる挑戦について「2020年まであと9年。この目標を達成不可能と言う人もいますが、私たちは実現できると断言します。しかし、実現のためには私たちの考え方、医学研究のあり方、乳がんの課題を取り巻くさまざまな対話について、従来とは異なる全く新しいアプローチが必要です。そして、明確なビジョンを持った人材、リスクをとることを恐れない人材が必要となるでしょう。政治家、研究者、患者として政策提言や研究支援を行う方々など、さまざまな専門領域を持つステークホルダー(*)が協力しなければなりません」と語る。
では米国乳がん連合はどのように「2020年乳がんの終焉」を実現するのか。いくつかの具体策が挙げられており、そのうち最も困難な挑戦と考えられているのが、乳がんの転移のメカニズムの解明と、乳がんの発症を防ぐワクチンの研究開発である。
昨年3月、米国乳がん連合はこの研究プロジェクトの実現に向けて、国内の主要研究者及び各分野の専門家と共に検討を始め、5年以内に治験を開始できるレベルまで、新薬の研究を進めることを1つの指標とした。
既存の研究を漫然と続けるだけでは結果達成は難しいため、疫学、免疫学、臨床ケア、医薬品開発、医薬品承認プロセス等に精通した専門家の協力体制を構築し、そこに患者が積極的に参加することによって、革新的な研究を推進する計画を示した。
*ステークホルダー=企業・行政・NPO などの利害関係者
患者と研究者立場は違えどゴールは同じ
医学研究に患者視点で関与するとは、一体どういうことなのか──。米国乳がん連合でトレーニングを受け、患者として活動を展開している人たちは、医療従事者や医学研究者に患者の視点を伝えることを使命とし、さまざまな場に出向いて対話をくり広げている。
彼らの役割はどのように研究者に影響を与えているのか。その答えの一端を、あるワークショップで垣間見ることができた。
このワークショップは、研究者、社会学者、そして患者会のディレクターが中心となり、患者約80名が活発に議論する白熱教室であった。ワークショップは「2020年乳がんの終焉」に向けて、医療従事者や医学研究者とその目標を共有するためには、まずどのような障壁が存在するのかという議論から始まった。
患者側からは、障壁について「知識格差がある」「私たちの目標は専門家の優先課題ではないように感じる」など、意見が飛び交う。
研究者側の意見はどうか。国立がん研究所の研究者で米国乳がん連合の教育プログラムの講師を務めるダイアン・パルミエリ博士は、患者として研究支援を行う活動家たちが、自分の研究室を訪ねてきたときのことを振り返り語る。
「研究者の日常は顕微鏡の先にある非常に小さなターゲットを解明するという作業のくり返しです。患者さんと接する機会も多くはありません。研究者はそのような日常において、乳がんの終焉という大きな目的を見失うこともあります。この5年間で成果を求められることについて、研究の可能性を制限されるように感じ、反論をすることもあるでしょう。しかし、私にとっての米国乳がん連合の業績は、自身と患者さんとの接点をつくってくれたことです。研究者の関心事は、患者さんと一緒にがんの科学を議論することではありませんが、大きな目標やビジョンを再確認させてくれる患者さんとの関わりを、とても大切にしています」
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