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「相談窓口の設立を」といった要望も

貴重な患者さんの声が明らかに!急性白血病治療後の患者QOL調査

監修●黒澤彩子 国立がん研究センター中央病院造血幹細胞移植科
取材・文●池内加寿子
発行:2015年6月
更新:2015年8月

  

「今回の調査は患者さんの声という意味でとても貴重なものだと思います」と語る黒澤彩子さん

新薬や移植などの治療法の改善により、白血病などの血液疾患を完治させるケースも増えており、最近ではいかに治療を終えた後のQOL(生活の質)を維持することができるかが問われるようになってきた。そうした中、国立がん研究センター中央病院造血幹細胞移植科では、急性白血病患者さんを対象に治療後のQOL調査を実施。回答内容を吟味することで、QOLを加味した治療の選択につながると、注目を集めている。

治療後の患者さん569人がQOL調査に答えた!

近年、急性白血病に対する化学療法や造血幹細胞移植(以下移植と略す)等の治療法の急速な進歩により、長期生存を果たす患者さんが増え、治療後の患者さんのQOL(生活の質)が重視されてきている。

国立がん研究センター中央病院造血幹細胞移植科の黒澤彩子さんらのチームは、化学療法または移植を受けた急性白血病の患者さん自身が回答するQOL調査を行った。今まで本邦では血液がんの患者さん自身が回答したQOL調査は少なく、治療後のQOL向上を目指す上で、またこれから治療を受ける患者さんが治療選択を考える上で、貴重な調査と言える。調査の経緯について黒澤さんはこう話す。

「複数の治療法の優劣を判断する場合、生存率を比較する解析の手法が多く行われてきましたが、〝臨床決断分析〟という手法では、治療後のQOLも加味してどちらの治療法が優れているかを検討することができます。実は、私たちは2008年に、急性骨髄性白血病(AML)の治療選択に関する臨床決断分析という研究を行ったのですが、この時は医師が患者さんのQOLを予測して結果を導き出しました。

ですので、これは患者さん自身が経験しているQOLを本当に表した結果ではないかもしれない、治療経験者ご自身に治療後の〝今〟のQOLをお答えいただきたいと思ったのが、今回の調査を行ったきっかけでした」

図1 参加者の背景(N=569)

今回の調査目的は主に、急性白血病治療後の治療経験者自身が評価した「調査時点のQOL」の情報を得る、化学療法後と移植後のQOLの違いをみる、QOL低下要因を探り、対策を検討する、などだ。

調査対象は、急性骨髄性白血病と急性リンパ性白血病(ALL)の患者さんで、調査時の年齢が20歳以上、調査時に入院していない人とした。全国の患者会や血液内科医、また骨髄バンクなどにも協力を呼びかけて、調査概要を記載したパンフレットを患者さんに配布。参加申し込みをした患者さんに正式な説明同意文書と質問用紙を送り、回収して集計した。

調査期間は2011年8月~12年9月で、応募者708人のうち、参加者(調査対象者)は569人。男女はほぼ半々の割合で、急性骨髄性白血病が74%、急性リンパ性白血病が25%だった(図1)。

治療の種類では、化学療法のみを受けた人が37%、移植を受けた人が63%だった。

QOL調査=「急性白血病治療後の生活の質に関する横断的研究」

国際的な尺度による質問への回答を解析

「調査項目は、健康関連のQOLを数値化でき、世界各国で用いられている尺度を使いました。包括的尺度の〝SF-36〟、白血病に関連する質問を含んだ〝FACT-LEU〟、そして〝EQ-5D〟の3つで、概ね30分から1時間で答えられる量にしています」

SF-36は、身体面、精神面、社会面(健康状態や体の痛み、活力、気分の落ち込みなど)に関する36の質問から成り、5つの選択肢(全くない~非常にある)から1つを選ぶ。健康な人も答えられ、日本人の国民標準値が存在するため、患者さんのQOLと比較しやすい。

「このほか、A4、1枚分の自由記載欄を設け、患者さんに自由に書いていただきました」

移植後の精神面のQOLは高い

この調査で明らかになったことは――。

「移植を受けた方と化学療法を受けた方のQOLがどう違うか検討しました。08年の研究では、化学療法より移植のほうが患者さんの負担が大きく、晩期の合併症も色々ある(後述)ことから、医師は移植群のほうが化学療法群よりQOLが低いと判断していました。今回の調査でも、身体面と社会面のQOLは化学療法群より移植群のほうが低く、医師の読みと一致しています(図2)。とくに移植群では、GVHD(後述)がある人の身体面・社会面のQOLが非常に低いことがわかりました(図3)。

図2 治療別に見たQOL結果
(化学療法後 VS 同種移植後)

縦の破線は国民標準値を示す
図3 治療別に見たQOL結果
(化学療法 VS 移植後GVHDなし VS 移植後GVHDあり)

縦の破線は国民標準値を示す

一方、精神面のQOLは、移植群のほうが化学療法群より高く、しかも国民標準値よりも高かったことは驚きでした。とりわけGVHDがない人は精神面のQOLが非常によく、GVHDがある人でも化学療法群とほぼ同等で、国民標準値より劣っていなかったのです。化学療法群の精神面のQOLは、移植群よりは低いものの、国民標準値とほぼ同等です。

白血病で治療を乗り越えた人は、移植群・化学療法群ともに、精神面のQOLが国民標準値より低くなかったことは注目すべき結果だと思います。全般的なQOLを示す数値を見てみると、移植群と化学療法群はほぼ同等という結果になりました」

移植という大変な治療を受けると身体面のQOLは低下するが、精神面のQOLが下がるわけではない。移植後の精神面のQOLがよい理由としては、どのようなことが考えられるのか。

「1つの推察ではありますが、大変な場面を乗り越えた後、人生の見方が変わり、内面の成長がある(外傷後成長)という精神科領域の概念があり、移植後の患者さんにも当てはまるのではと考えています」

GVHD=移植片対宿主病

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