スタートした医師主導治験
小児がんの新薬開発で再発治療の充実を!
していくことが重要です」と話す河本 博さん
小児がんは子どもがかかるがんの総称だが、希少がんということで治療法の開発が遅れてきた分野だ。しかし、近年では医師主導型の臨床試験が立ち上がるなど新しい動きが出ている。その先端にいる専門医に小児がんの新たな取り組みについて聞いた。
小児がんの罹患数は年間約2,000人弱
子どもが罹患する様々ながんを総称して小児がんという。主なものには急性リンパ性白血病、悪性リンパ腫、胚細胞性腫瘍、神経芽腫、腎芽腫などがある(表1)。
成人でよくみられる胃がんや肺がんなどは子どもにはほとんど発症せず、子どもで起こるものは成人での発症は限られる。
発症数は年間2,000人弱(20歳未満)で、数字的には子ども1万人に1人に当たる。大人のがんに比べるとその数は1%にも満たない、いわゆる希少がんだ。しかし、「珍しい病気」では済まされない事情もある。
国立がん研究センター中央病院小児腫瘍科医長の河本博さんは、「4歳までは先天異常が死亡原因の1位ですが、それ以降は事故などを除けば、がん(悪性新生物)が死亡原因の1位というのが現実です。しかもこの状態は20年間ほぼ変わっていません」と話す(表2)。
小児がんが現れる部位の割合を大きく分けると、血液やリンパの腫瘍(白血病、リンパ腫など)が約4割、脳腫瘍が3割弱、筋肉・骨、臓器などにできる神経芽腫や骨肉腫などの固形腫瘍が3割強となっている(図3)。
「ご両親から原因は何かとよく聞かれるのですが、解明はされていません。大人のがんの原因は生活習慣によるところも大きいのですが、小児がんには当てはまりません。小児がん特有のものといわれる神経芽腫や腎芽腫などの「芽腫」の原因は、胎児の体の神経や腎臓、肝臓、網膜などになるはずだった細胞が、体ができあがった後も残っていて、異常な細胞に変化した結果と考えられています」
芽腫と同様に横紋筋肉腫や骨肉腫などの「肉腫」もよくみられる。肉腫は大人にも発症するが、小児期に多く発症する肉腫は世界的に小児科医が治療を担当しているという。
再発治療を充実させ、予後をよくすることが重要
小児がんの中で最も発症が多い急性リンパ性白血病は、1980年代までに治癒する疾患となり、予後不良例への分子標的薬*グリベックの登場もあり、治療成績は近年になっても上がり続けている。また再発しても移植という手段がある(図4)。
「白血病治療の数字が格段によくなったため、小児がん全体の生存率も引き上げられました。しかし、それだけを見て小児がんが克服されたとは言えないのです」
例えば脳腫瘍の中でも髄芽腫は化学療法が効いて治療成績が良く、遺伝子タイプでの分類も進み、個別治療も可能となっている。
しかしその一方で、同じ脳腫瘍と分類される脳幹膠芽腫(脳幹グリオーマ)は厳しい状況にある。脳幹膠芽腫は、脳の神経細胞を支える神経膠細胞が腫瘍化するものだ。脳幹は中脳、橋、延髄からなる細長い部分で、顔や手足の運動と感覚から呼吸、意識までを司る重要な部分。そのため手術で全部摘出することは不可能に近い。
化学療法もほとんど効果は期待できず、放射線治療は一時的に回復がみられる患児と、まったく効かない患児がいる。効いた場合でもやがて再燃してきて、以前よりも悪性度が増すという治療抵抗性の強い病気だ。発症から1年以内の死亡率は50%にもなる。
また、固形腫瘍の中の神経芽腫は交感神経のもとになる細胞に異常が起きることが原因で、副腎や交感神経節などから発生する。神経芽腫には2種類あり、自然に治癒したり治療によく反応して治りやすいがんがある一方、非常に厳しく予後が悪いがんもある。同様に肝芽腫も、治りやすいがんがある一方で、進行期は予後が悪い。
「脳幹膠芽腫は、なんとかしなくてはいけないがんです。また、固形腫瘍では約半分は再発し、8割は亡くなってしまうのが現実です。再発治療が充実しなければ現状は改善されません。小児腫瘍医は、治療開発に力を注がなくてはならないのです」
*グリベック=一般名イマチニブ
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