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予後予測に基づいて寛解後療法を選択。分子標的薬の開発や免疫療法もスタート
リスク別薬物療法で急性骨髄性白血病の生存率アップを目指す

監修:宮脇修一 東京都立大塚病院輸血科部長
取材・文:「がんサポート」編集部
発行:2011年9月
更新:2013年4月

  

宮脇修一さん
急性骨髄性白血病の
薬物療法に力を入れる
宮脇修一さん

性骨髄白血病の薬物療法が大きく変わりつつある。とくに再発防止のために重要な寛解後療法では、予後因子に基づいた予後予測によって治療法が選ばれるようになり、長期生存率の向上が期待されている。

日本人の白血病の5割を占める

急性骨髄性白血病は日本人に多いのが特徴だ。欧米人の白血病のうち、急性骨髄性白血病が占める割合は2~3割だが、日本人の白血病では最も多いタイプで、約5割を占める。

「ただし、日本では急性骨髄性白血病のきちんとした疫学調査がなく、年間発症患者数は2000人くらいといわれていますが、実際にはもっと多いかもしれません。白血病の発症率は年齢と共に高くなり、65歳以上の高齢者では急性骨髄性白血病の比率が高いからです」

こう説明するのは長年、白血病の臨床研究に携わってきた東京都立大塚病院輸血科部長の宮脇修一さんだ。

急性骨髄性白血病とはどのような病気なのか、ここで確認をしておこう。

血液細胞は、骨の中心部の骨髄に存在する造血幹細胞と呼ばれる細胞が増殖して、だんだん 形を変えながら(分化という)赤血球や白血球、血小板などの血液細胞になる。骨髄中の未分化の血液細胞ががん化してしまうのが白血病だ。すると、正常な血液細胞が作られなくなっていき、進行すると、白血病細胞がほかの臓器にまで入り込んで、さまざまな症状を引き起こす。

「急性骨髄性白血病は急性といっても、ほかの病気のように症状が急に悪化するという意味ではありません。白血病でいう急性とは白血病細胞(白血病のがん細胞)が分化できないことを表し、慢性とは白血病細胞が分化できる状態を指すのです。骨髄性とは、リンパ系細胞(リンパ球に分化する)以外の血液細胞のことです」

急性骨髄性白血病では薬物療法を優先すべき

血液細胞のがんである白血病の治療法は、基本的に薬物療法と骨髄移植に絞られる。白血病細胞は血管を通じて全身を巡るため、手術や放射線療法では撃退できないからだ。

骨髄移植はがん化した血液細胞を骨髄ごと取り替えてしまう治療法。根治を目指した治療法で、可能な限り骨髄移植を行うよう勧める医師も少なくない。しかし、宮脇さんは白血病の治療では薬物療法を優先するべきだと主張する。

「骨髄移植は強力で有効な治療法です。骨髄移植で長期生存(治癒したと考えられる)に持ち込める割合は高く、最近の臨床研究(AML201)で白血病の生存率が高くなったのは骨髄移植が多くの症例に行われた結果と考えられます。しかし、骨髄移植の場合は患者さんの負担が重く、合併症のリスクが大きすぎます。まず薬物療法での治癒の可能性を探り、それが難しい場合の奥の手の治療と位置づけるべきでしょうね」

寛解導入療法と寛解後療法の2段構え

急性骨髄性白血病の薬物療法は現在、寛解導入療法と寛解後療法(地固め療法と維持強化療法)と呼ばれる治療の2段構えになっている。

寛解導入療法とは、最初に行われる治療で、抗がん剤によって白血病細胞をできるだけ殺すことによって完全寛解の状態を目指す。

完全寛解とは白血病細胞が10の9乗個(重さ約1グラム)以下に減った状態のこと。ここまで白血病細胞が減れば、正常な血液細胞が増え、体は健康な状態に近づく。

[図1 急性骨髄性白血病の薬物療法の流れ]
図1 急性骨髄性白血病の薬物療法の流れ

しかし、完全寛解になっても、ここで治療を中断すると白血病細胞はすぐに増殖してしまう。そこで、さらに抗がん剤を投与して、寛解の状態をよりしっかりとしたものにするのが寛解後療法という治療だ(図1)。

以前は地固め療法(寛解後療法の1つで寛解直後に行われる)のあと、念のために、さらに抗がん剤を追加投与する維持強化療法と呼ばれる治療が行われていた。しかし、現在ではこの維持強化療法はほとんど行われなくなっている。

「私たちの研究グループ(JALSG=日本成人白血病治療共同研究グループ)が、白血病患者さんの地固め療法のみを行う群と、地固め療法と維持強化療法を行う群との比較試験を行ったのです。その結果、無再発生存期間(再発しなかった期間)に差はありませんでした。つまり、維持強化療法によって、患者さんに余計な負担を強いる意味がないとわかったのです」

複数の抗がん剤を併用するのが主流

現在、急性骨髄性白血病の薬物療法では、複数の抗がん剤の併用が主流だ。寛解導入療法では、代謝拮抗剤のキロサイド()とアンスラサイクリン系薬剤を組み合わせることが多い。アンスラサイクリン系では、とくにイダマイシン()、ダウノマイシン()がよく使われる。

「イダマイシンと高用量のダウノマイシンの急性骨髄性白血病への効果を比べたところ、両者には有意差がないという研究結果も出ています」

地固め療法ではキロサイド大量療法、または交差耐性(同系統の薬に同時に耐性ができること)の少ないアンスラサイクリン系薬剤を複数組み合わせる多剤併用療法が行われる。

これらの薬物療法では、強い抗がん剤を複数、または大量に使うため、骨髄抑制や嘔気や嘔吐などの副作用がつきものだが、宮脇さんは副作用を恐れるよりも、まず白血病を治すのが先決という。

「ただし、できる限りの副作用対策はするべきです。とくに、骨髄抑制による感染症は要注意です。感染症で命を落としては薬物療法をする意味がありません。医療機関には無菌室を設置するなど十分な感染症を防ぐための対策が求められます」

キロサイド=一般名シタラビン
イダマイシン=一般名イダルビシン
ダウノマイシン=一般名ダウノルビシン


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