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急性骨髄性白血病の最新治療
分化誘導や分子標的などの新療法の出現で飛躍的効果の足がかり

監修:西村美樹 千葉大学医学部付属病院血液内科科長
取材・文:町口充
発行:2006年10月
更新:2013年4月

  

まずは「完全寛解」をめざし、さらに治癒へ

治療は1回だけで終わるものではない。急性骨髄性白血病の治療目標は、治癒すなわち病気を完全に治して、健康な日常生活を取り戻すことだが、その前段階として、全身症状が改善した「完全寛解」の状態に到達するための治療が行われる。

まず「寛解導入療法」といって、白血病細胞を強力に攻撃する治療を行う。ここで効果があっても、手をゆるめるとすぐ白血病細胞は増加してくるので、続けて「地固め療法」、「維持強化療法」と次々と攻撃しなければいけない。

「完全寛解というのは骨髄の中に白血病細胞が5パーセント以下であるということを表し、それ自体は大変に治療効果があったということで喜ばしいことですが、白血病が治った状態、つまり“治癒”の状態とは異なります。治癒を得るためには次々と治療を続ける必要があり、その期間は半年にもなります」

[急性骨髄性白血病の臨床試験成績(JALSG試験]

試験名 症例数 完全寛解率(%) 生存率(%)
AML87 188 79.8 30.1
AML89 232 78.5 35.1
AML92 566 77.2 33.5
AML95 430 80.7 44.3
AML97 789 78.7 40.8

図:急性骨髄性白血病の臨床試験成績較

一通り治療が終了し、完全寛解を確認すれば、治療はいったん終了する。

50代の男性の例を紹介しよう。

急性骨髄性白血病のM5という、急性骨髄性白血病の中でも予後が悪いとされている疾患になり、入院。「寛解導入療法」「地固め療法」「維持強化療法」といった一連の治療を半年間行い、完全寛解で退院した。その後4年経過しているが、いまだに完全寛解であり、仕事も再開して発病前と同様に働いているということだ。

しかし、長期間にわたる治療を終了して完全寛解となっても、このまま治癒する人は決して多くはないという。

「JALSG(日本成人白血病研究グループ)という全国の白血病治療施設によって構成されている白血病の臨床研究を行っている大規模なグループがあり、十分信頼するに足る結果を出していますが、今までの治療では完全寛解となる方は約80パーセントにのぼるものの、5年生存率は40パーセントに達していないと報告しています。これを超える治療となると、同種造血幹細胞移植ということになりますが、ドナー(提供者)が見つかるか、強い治療に臓器が耐えられるかなどの詳細な検査が必要で、治癒を目指すには大変有効な治療ではありますが、簡単な治療ではありません」

完全寛解=白血病細胞が10の10乗個以下に減少し、正常な造血能力が回復、貧血や白血球減少、血小板減少などの症状が解消された状態のことを指す
寛解導入療法=完全寛解を目標に行う多剤併用の抗がん剤治療
地固め療法=完全寛解後、残存している白血病細胞を叩くために行う抗がん剤治療
維持強化療法=引き続き寛解状態を維持し、再発予防、治癒を目指して行う抗がん剤治療

[造血幹細胞移植と化学療法の生存率比較]
図:造血幹細胞移植と化学療法の生存率比較
写真:クリーンルーム
移植の際は、クリーンルーム(無菌室)で治療を行う


分子標的療法という新しい治療

[マイロターグの臨床成績]

結果 患者数
(N=142)
CR(完全寛解) 23 16
CRp(血小板が回復していない) 19 13
CR(CR+CRp) 42 30

このように、多剤併用化学療法には限界があり、何とか治療成績を向上させるためにさまざまな研究が取り組まれているのだが、最近になって、分子標的療法という新たな治療が開発されてきた。マイロターグ(一般名ゲムツズマブオゾガマイシン)という薬を用いた治療法だ。

この薬は、多くの急性骨髄性白血病細胞の表面にあるCD33というタンパク質を標的に、抗CD33抗体にカリケアマイシンという抗がん剤を結合させて作られた。カリケアマイシンは以前からある強力な抗がん性抗生物質だが、肝毒性が強いため、実際には使用されていなかった。

マイロターグは、CD33というタンパク質に結合して細胞の中に取り込まれ、細胞の中ではじめてカリケアマイシンが分離して細胞を攻撃するという仕組みで作用する。CD33は急性骨髄性白血病の細胞には多く発現しているが、造血幹細胞や他の細胞での発現は極めて少なく、正常な細胞に与える被害を少なくできる利点がある。

米国で行われた臨床第2相試験では、再発例142例に投与したところ、完全寛解は16パーセント、血小板が回復しない以外の完全寛解の基準を満たす症例は13パーセントとの結果が出ている。十分に高い数字とはいえないが、従来の薬に比べれば格段によい成績だ。

海外ではすでに、他の抗がん剤と組み合わせて使用され、一定の効果をあげているが、日本ではまだ併用療法が許可されていない。しかし、今年7月、CD33陽性の再発または難治急性骨髄性白血病に限って使用が認められた。ただ、思い肺炎や出血、肝臓障害などの副作用があり、決して夢の薬ではない、と西村さん。

急性前骨髄球性白血病の新しい治療

急性骨髄球性白血病は、血液の細胞の卵(芽球)が白血病細胞化したものだが、それよりもう少し成長した前骨髄球が白血病細胞化したのが急性前骨髄球性白血病(M3)だ。

人間には46本の染色体があるが、15番と17番の染色体が、転座といって異常な形で結合してしまい、PML-RARαという異常なタンパク質ができることが病気に関わっていると考えられている。

細胞の分化・成熟のためにはビタミンAの結合と活性が欠かせないが、PML-RARαによってその作用が阻害され、異常な前骨髄球が蓄積してしまう。それなら、生理的濃度のビタミンAでは無理としても、大量のビタミンAを使うことで白血病細胞を正常細胞に分化させてはどうか、と登場したのが「レチノイン酸」というビタミンA誘導体だ。

「1980~90年代になって、レチノイン酸の投与により、白血病細胞が前骨髄球から分葉核好中球という最終段階まで分化・成熟し、増殖は抑制され、その後死滅していくことがわかりました。これはベサノイド(一般名トレチノイン)という内服薬として実用化されています」

白血病細胞から正常細胞に分化させるというので、この薬を使った治療は分化誘導療法と呼ばれる。ビタミンAの一種なので、抗がん剤ほどの強い副作用はなく、飲み薬であるのも利点。この治療のあと、多剤併用の化学療法を行うことにより、急性前骨髄球性白血病の治療成績は著しく向上している。

前出のJALSGの「APL97」という研究では、レチノイン酸を寛解導入療法に用いて、完全寛解率95パーセント、3年間の無病生存率76パーセントという好成績をあげているし、5年生存率60パーセントという報告もある。

[急性前骨髄球性白血病の治療成績(JALSG試験)]

試験名
(数字は実施年)
治療法 症例数 完全寛解率(%) 4年時点での
無病生存率(%)
AML-87 従来の化学療法のみ 45 80 32
AML-89 64 70 32
AML-92 レチノイン酸導入 196 88 52
AML-92&95 369 90 52
APL-97 寛解導入に
レチノイン酸を用いる
304 88~98 67

[急性前骨球性白血病に対するレチノイン酸の効果(APL97の試験結果)]
図:急性前骨球性白血病に対するレチノイン酸の効果(APL97の試験結果)

また、この薬に耐性となったものであっても、光学異性体(商品名アムノレイク)を用いて、ふたたび寛解を得ることも可能である。ほかにも、毒薬として知られる亜ヒ酸が、正常細胞への分化を誘導し、白血球細胞のアポトーシスを生じさせることも判明し、最近はレチノイン酸の治療後に再発した急性前骨髄球性白血病の治療薬として用いられている。西村さんは次のように語る。

「現段階では、急性骨髄性白血病の治療成績はまだまだ満足のいくものではありません。しかし、分化誘導療法、分子標的療法の開発により、成績向上の足がかりがみえてきました。今後も新しい薬が開発されていくことが期待されます。全米血液学会では多くの新薬の臨床研究が発表されており、残念ながら日本は、遅れをとっている印象です。このように命に関わる薬剤は、もちろん厳正なチェックは必要ではありますが、可能な限り、速やかに承認していただきたいと心から願うものです」


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