医学会レポート 米国血液がん学会(ASH2015)から
昨年(2015年)12月、米オーランドで開かれた米国血液がん学会(ASH2015)からトピックスを取り上げた。いずれも学会期間中にプレスカンファレンスで取り上げられた研究報告をダイジェスト化したものである。
FLT3遺伝子変異成人AML患者において、分子標的薬midostaurin が生存率を有意に改善
成人白血病で最も多いタイプの1つである急性骨髄性白血病(AML)。これらの患者の約30%にFLT3遺伝子の変異が認められ、より進行しやすく、再発率が高くなるなど予後不良の原因となっている。他の血液がん治療では標的療法による改善効果が認められる一方で、AMLではまだその恩恵に預かっていないのが現状だ。
*midostaurin(ミドスタウリン:マルチターゲットプロテインキナーゼ阻害薬)は、FLT3遺伝子変異に関与する多くの酵素を阻害する作用を有する。第Ⅲ(III)相国際前向き無作為化プラセボ対照試験では、この遺伝子変異を有する18~60歳成人において、標準化学療法群と標準化学療法+midostaurin 併用療法群間での生存期間の改善効果を検討した。
FLT3遺伝子変異を有するAML成人患者717例を、標準化学療法+midostaurin 併用療法群(360例)と標準化学療法単独群(357例)に無作為に割り付け、1年間の維持療法を行った。
寛解の失敗、再発、死亡のいずれかまでの期間の中央値は、標準化学療法単独群3カ月に対し、併用療法群は8カ月であった。
midostaurin の併用および1年間の維持療法は全生存期間(OS)中央値を有意に改善した(74.7カ月vs.26.0カ月)。
これらの結果は、FLT3遺伝子変異を有する若年AML患者において、標準化学療法にmidostaurin 併用することにより、アウトカムを改善することを示唆するものである。
(報告者:米ダナ-ファーバーがん研究所、Richard M.Stone氏)
*midostaurin(ミドスタウリン)=一般名/開発コードPKC412
再発・治療抵抗性多発性骨髄腫に対する 初の経口3剤併用療法が無増悪生存期間を改善
再発・治療抵抗性の多発性骨髄腫(MM)患者に対し現在一般的に広く行われている標準治療の1つは、経口薬の*レナリドミドと*デキサメタドンの併用療法である。
再発や治療抵抗性の改善を図るために、プロテアソーム阻害薬がデキサメタドンとの併用、もしくはレナリドミド+デキサメタドン併用療法に追加併用する形で用いられている。これまで、プロテアソーム阻害薬は静脈あるいは経皮投与のみが可能であった。*ixazomib(イグザゾミブ)は初めての経口プロテアソーム阻害薬。
再発もしくは治療抵抗性を示す多発性骨髄腫患者722例を対象とした第Ⅲ(III)相国際無作為化試験(TOURMALINE-MM1 試験)では、被験者がレナリドミド+デキサメタドン併用標準療法群と標準療法+ixazomib(週用量投与)併用群に無作為に割り付けられた。患者の年齢中央値は66歳。
疾患が進行もしくは副作用に不耐容となるまで治療サイクルを繰り返した。
1次中間解析において、ixazomib 併用治療群では無増悪生存期間(PFS)中央値が20.6カ月であったのに対し、プラセボ併用群では14.7カ月であった。
毒性は両群間で同じであった。
ixazomib 併用群での有害事象の発現率は65%で重篤な副作用が見られたが、致死的なものではなかった。プラセボ併用群では61%であった。
本試験結果は、再発・治療抵抗性を示す多発性骨髄腫に対し、ixazomib を追加併用することにより、無増悪生存期間を延長させることを示唆するものである。ixazomib+レナリドミド・デキサメサドン併用療法は、多発性骨髄腫に対する初めての全経口薬併用治療となるものであると報告者は述べている。
(報告者:仏ナント大学、Philippe Moreau氏)
*レナリドミド=商品名レブラミド *デキサメタドン=商品名デカドロンなど *ixazomib(イグザゾミブ)=商品名Ninlaro(ニンラロ)
idelalisib とBR併用療法が 再発・治療抵抗性CLLにおける新しい治療選択肢に
*idelalisib(イデラリシブ)は、再発慢性リンパ性白血病(CLL)患者の治療に、*リツキシマブとの併用による標的療法が認められている。この高度の選択的化合物は、CLL細胞や他の低分化B細胞リンパ腫の活性、生存に必須なPI3キナーゼ酵素である∂(デルタ)アイソフォームを標的としている。
再発・治療抵抗性CLL患者に対する標準治療レジメンである*ベンダムスチン+リツキシマブ(BR)療法に、idelalisib を追加併用した際の効果を検討する、第Ⅲ(III)相無作為化二重盲検プラセボ対照試験が行われた。
被験者416例が、idelalisib 150mg1日2回投与+BR併用群207例とプラセボ+BR投与群209例に無作為に割り付けられた。病勢進行もしくは不耐容の毒性発現まで6サイクルの治療が行われた。
予め指定された中間解析(pre-specified interim analysis)では、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)中央値はidelalisib 群23カ月、プラセボ群11カ月であった。この結果に基づき、独立データモニタリング委員会は、〝overwhelming(圧倒的)効果〟と判断し、試験の非盲検化を推奨した。
加えて、副次評価項目である全生存期間(OS)においても、プラセボ+BR投与群に対し、idelalisib+BR併用群では有意な改善効果が認められた。
idelalisib+BR併用群での安全性プロファイルは、前臨床試験で報告された内容と一致していた。最も重篤な有害事象は白血球数の低下と貧血であった。
本研究結果から、idelalisib+BRの併用は、BR単独よりも患者のアウトカムを改善し、安全性を損なうことなく、増悪および死亡リスクを低減することが示唆された。本併用療法は、再発・治療抵抗性CLL患者の重要な新しい治療選択肢となることが期待される。
(報告者:米メモリアル・スローンケタリングがんセンター、Andrew D. Zelenetz氏)
*idelalisib(イデラリシブ)=商品名Zydelig(ザイデリグ) *リツキシマブ=商品名リツキサン *ベンダムスチン=商品名トレアキシン
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