鋭い切れ味 − 少ない数の病巣だけでなく5カ所以上でも同等な有効性
転移性脳腫瘍に対するガンマナイフの有効性と安全性
山本昌昭さん
がんが脳に転移した転移性脳腫瘍に対する治療に対しては通常、手術、放射線治療が用いられる。放射線治療では定位放射線治療、その中でも特にガンマナイフが注目されている。有効性と安全性はどのようなものだろうか。ガンマナイフ治療の現状について専門家に伺った。
メスと同等の切れ味、ガンマナイフ
ガンマナイフというと、その言葉から鋭利な刃物で病巣を切除するイメージを持つかもしれないが、実際はコバルト60という物質が放出するガンマ(γ)線を細いビームにして多方向から病巣に照射することでがんを制御していく放射線療法だ。保険が適用される。
ガンマナイフ治療の第一人者で、年間200例以上を治療する勝田病院水戸ガンマハウス(ひたちなか市)脳神経外科部長の山本昌昭さんは、「もともとの正式名称はガンマユニットと言いますが、1970年代にメスをふるう手術に匹敵するような効果があるということで、ドイツ語でガンマメス、英語でガンマナイフと呼ばれ、今ではガンマナイフが学術用語になりました。私はこの治療を日本に導入しようとしていた80年代ごろ、“ガンマ刀(とう)”と命名しましたが、広がりませんでした(笑)。ちなみに台湾では “加馬刀” と表記しておりますが……」と、その名の由来を話す。では、ガンマナイフ治療とはどのような治療なのだろうか。
「とろ火」と「焼け火箸」
肺がん、乳がん、大腸がんなどで脳への転移が認められた場合、腫瘍径が3cm以上の大きな場合は開頭手術を行うことが多く、それ以下ならばガンマナイフ治療などの定位放射線治療が選択される。従来の放射線治療とガンマナイフ治療との違いについて、山本さんは次のように表現する。
「放射線はある程度の強さを一気にかけるわけにはいかないので、ちびちび、とろ火で煮るような感じで10~30回に分けて少しずつ照射するのが基本です。一方で、ガンマナイフは、細いガンマ線のビームを200本近く、ある1点に集中させて、そのポイントにあるがんに短時間で有効な打撃を与えることができるのです」
例えば1~1.5cmくらいなら、10~15分で照射が終わる。短時間集中的であるため周辺の正常組織には影響がほとんど出ないと考えられている。山本さんはその違いを「とろ火と焼け火箸(ひばし)の差」と表現した。山本さんは1日に多数個に施術することも多いが、例えば10個なら1~2時間で終えるという。ちなみに、1回の治療で何個の病巣に照射しても、保険点数は変わらず、患者さんの負担は同じである。
一般に脳転移に頻用されている全脳照射では、正常脳への放射線被曝が問題となり、長期的には認知症を来す恐れがある。しかしガンマナイフ治療ではこのような心配が極めて少ない。またガンマナイフと他のX線を使った定位放射線治療とでは、精度においても著しい違いがある。通常の放射線治療で使用されるX線とガンマ線は物理的な効果としてはほぼ同等だが、X線照射装置では1点に集中させようとすると、X線管をぐるぐる回転させなければならない。本体を動かすことにより焦点精度が問題になる。
しかしガンマナイフでは、放射線ビームが固定されている約200個のコバルト線源から放出され、それらが1点に集中することで焦点精度が高められる。山本さんは「多く転移性脳腫瘍は正常脳との境界が鮮明です。ピシッと焦点を合わせてピンポイントで照射するにはガンマナイフ治療が適しています。線量曲線の逓減が急峻なために、周辺正常組織への影響もゼロではありませんが非常に弱くなります。径が2.5cmより小さければ1回の治療により90%の期待値で腫瘍を叩き潰すことができます」と話す。
放射線感受性が低くても効く
「通常の放射線治療は効くがんと効かないがんがはっきりしています。放射線感受性が高い小細胞肺がんや乳がんでは効果的でも、感受性が低いと効きません。一方、ガンマナイフは肺腺がん、腎がん、胃がん、大腸がんなど放射線感受性の低いがん種が脳に飛んできた場合でも、感受性の高いがん種と同じように効きます。期待される治療効果はとても高いのです」
ここで、放射線の全脳照射との比較として、山本さんは「全能照射は2年、3年と生存が長くなると、認知症を来す割合が高くなります。ガンマナイフでは極めて起きにくい。全脳照射が必要な状態は確かにありますが、できるだけ避けたいのです。全脳照射は一生に1回しかかけられません。切り札的に取っておきたい。
一方でガンマナイフは何度でも繰り返し受けられます。また全脳照射では全頭髪を失いますが、ガンマナイフではそのようなことはありません。その点でも優れた治療と思います」と説明する。
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