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乳がんコホート研究:曖昧な情報ではなく研究結果に基づく生活習慣を 乳がん再発予防の生活習慣を研究する「希望の虹プロジェクト」が進行中

監修●山本精一郎 国立がん研究センターがん予防・検診研究センター保健政策研究部部長
監修●溝田友里 国立がん研究センターがん予防・検診研究センター保健政策研究部予防・検診普及研究室室長
取材・文●柄川昭彦
発行:2013年8月
更新:2019年10月

  

「日本でも世界最大規模の乳がんコホート研究が始まっています」と話す山本精一郎さん

「明らかでない情報のために生活を制限しすぎないほうがよいと思います」と話す溝田友里さん

再発を気にして、食事をはじめとした生活の制限をしている乳がん患者さんは少なくない。しかし、再発予防の情報にはっきりとしたエビデンスがあるものはほとんどないのが現状だ。患者さんが生活習慣を考えるうえでのポイントとは――。

再発を防ぐ生活習慣はまだわかっていない

乳がんの発症には、どのような生活習慣が関わっているのだろうか。がんと生活習慣について研究している、国立がん研究センターがん予防・検診研究センターの山本精一郎さんと溝田友里さんによれば、世界中で研究が行われ、いくつかのことが明らかになっているという。それをまとめたのが表1である。

「WCRF/AICRがまとめた報告書は、世界中のエビデンスを集めたものです。どのような生活習慣が乳がんの発症リスクを高め、どのような生活が発症リスクを下げるのか、明らかになっていることがまとめられています。また、厚生労働省研究班は、日本人の乳がんについて調べた結果を報告しています。そして、これらを参考に日本乳癌学会は、『乳癌診療ガイドライン』で、乳がんの発症と生活習慣についてまとめています」(溝田さん)

このように、乳がんの発症と生活習慣については、いろいろなことが明らかになってきている。ところが、すでに乳がんになった患者さんが、どのような生活をすればよいかについては、表2に示したように、明らかになっていることはわずかしかない。

「がんの再発と生活習慣について、明らかになっていることはほとんどありませんが、患者さんたちはそれを知りたがっています。研究が進み、実践する価値のある生活習慣が明らかになれば、患者さんの予後の改善やQOL(生活や人生の質)の向上に大いに役立つと考えられます」(溝田さん)

そこで、再発と生活習慣に関する研究が始まっている。

■表1 乳がんの発症リスクと生活習慣

WCRF/AICR
による
閉経前乳がん(1)

WCRF/AICR
による
閉経後乳がん(1)
厚生労働省研究班
による
日本における乳がん(2)
乳癌診療ガイドライン
による
閉経前乳がん(3)
乳癌診療ガイドライン
による
閉経前乳がん(3)
授乳 確実(↓) 確実(↓) やや確実(↓) 確実(↓) 確実(↓)
成人期の高身長 やや確実(↑) 確実(↑) やや確実(↑) やや確実(↑)
出生時体重が重い やや確実(↑) 証拠不十分 やや確実(↑) やや確実(↑)
体脂肪(肥満) やや確実(↓) 確実(↑) やや確実(↓) やや確実(↓)
身体活動 可能性あり(↓) やや確実(↓) 証拠不十分 可能性あり(↓) 可能性あり(↓)
喫煙 可能性あり(↑) やや確実(↑)
アルコール 確実(↑) 確実(↑) 証拠不十分 確実(↑) 確実(↑)
野菜・果物 証拠不十分 証拠不十分 証拠不十分 証拠不十分 証拠不十分
大豆製品 証拠不十分 証拠不十分 可能性あり(↓) 可能性あり(↓)
ビタミンC 証拠不十分 証拠不十分 証拠不十分 証拠不十分
総脂肪 証拠不十分 証拠不十分 証拠不十分 証拠不十分 証拠不十分

(1)World Cancer Research Fund/American Institute for Cancer Research. Food, nutrition, physical activity and the prevention of cancer:a global perspective. http://www.dietandcancerreport.org(Accessed  October 31, 2012)をもとに作成
(2)厚生労働省科学研究費補助金・第3次対がん総合戦略研究事業[生活習慣改善によるがん予防法の開発に関する研究] http://epi.ncc.go.jp/can_prev/(Accessed  October 31, 2012)をもとに作成
(3)日本乳癌学会編 科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン 2疫学・診断編 2011年版をもとに作成

 ■表2 乳がん患者さんの予後と生活習慣の関連

PDQ(R)(1) 乳癌診療ガイドライン(2)
診断時の体脂肪(肥満) 再発・死亡:確実(↑)
診断後の体脂肪(肥満) 死亡:やや確実(↑)
身体活動 死亡:可能性あり(↓)身体活動の負荷量などデータ不十分
喫煙 死亡:可能性あり(↑)喫煙本数や期間、時期などデータ不十分
アルコール (↑?)再発・死亡とビールの摂取が関連 証拠不十分
野菜・果物 (↓?)野菜・果物摂取、βカロチン 
大豆製品 わからない
ビタミンC (↓?)
総脂肪 (↑?)総脂肪/高エネルギー  証拠不十分

(1)NCI編 PDQ(R) (Physician Data Query(R))をもとに作成
(2)日本乳癌学会編 科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン 2疫学・診断編 2011年版をもとに作成
資料:溝田友里、山本精一郎. がん患者コホート研究:予後改善へのエビデンス. 医学のあゆみ 2012;241(5):384-90より改変

日本でも始まった乳がん患者さん対象の研究

「希望の虹プロジェクト」の乳がん患者コホート研究 http://rok.ncc.go.jp/

再発と生活習慣の関係を探るために、まずアメリカ、イギリス、中国などで、乳がんの患者さんを対象にしたコホート研究が始まった。

乳がんの患者さんをたくさん集め、将来にわたって長期間観察を続けることで、どのような要因が再発に関係しているかを調べる研究である。

日本でも2007年にコホート研究が始まった。それが、山本さんや溝田さんが取り組んでいる「希望の虹プロジェクト」で、最終的には6,000~7,000人が対象になる。これは乳がんの患者さんを対象とするコホート研究として世界最大級。すでに2,800人が登録している。

「食事、栄養、運動といった生活習慣に加え、代替療法の使用状況や心理的要因についても調べています。ストレスや抑うつなどだけでなく、前向きな思いや生きがいをもっていきいきと生活しているかということや、乳がんになって得たものがあると感じられることがあるかということなど、ポジティブな要因とその後のQOLや予後との関係も調べています」(溝田さん)

この世界最大規模の乳がん患者コホート研究は、結果がまとまるまでに、あと5年ほどの期間を要するという。

「世界の各国で始まった研究の結果も少しずつ出始めています。その内容は、『乳癌診療ガイドライン』に随時まとめられていきます」(山本さん)

2年毎に改訂されるので、常に新しい情報が加えられていくことになるはずだ。

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