若年性乳がんの実態 定期的な健診で、早期発見を目指す
若年性でも予後は悪くない 的確な治療選択で将来を考える
治療後の生活や人生への配慮も重要視される若年性乳がん。遺伝子診断や子供に対するケアなど、若年性乳がんならではの取り組みをまとめた。
若年性乳がんの割合は 全体の5%前後
若年性乳がんは進行が速くて、治療後の経過もよくない―― ということは、少し前までの乳がん治療界では共通認識のように言われていた。しかし、近年はその流れが変わっているという。聖路加国際病院乳腺外科の梶浦由香さんは、「聖路加国際病院での研究を含め、若年性だから予後が悪い、という事実は必ずしもないという報告が相次いで発表されています」という。
一般的に若年性乳がんとは35歳以下で発症する乳がんを指す。「当院においては、この年齢層の症例数が特別に増えているということはありません。2008年からの統計で見ると、乳がんと診断された患者さんのうち若年性乳がんの割合は、5%前後で推移しています。
特徴としては、発見時のしこりが大きいこと、リンパ節転移を伴っていることが多いこと、ホルモン感受性が陰性で見つかることが多いこと――などが一般的に言われています」と梶浦さん。
臨床病理学的因子と予後の検討
その一方で、2009年の大きな国際学会で乳がんの再発リスクファクター(危険因子)から年齢が外されたものの、まだ「若年者は予後が悪い」と口にする医療関係者が多いことも事実だ。
そこで、聖路加国際病院乳腺外科では、年齢が予後に対するリスクファクターになるのかどうかを、検証することにしたという。
「これは、医学界で「若年」の区切りのコンセンサスとなっている35歳を境に、患者さんを35歳未満と35~40歳未満の2つの群に分け、予後の状態の違いを評価するというものです。
1994~2008年に聖路加国際病院で乳がんと診断された40歳未満の症例をピックアップすると684症例ありました。
そこから両側乳がんや、別の病院で手術を受けた症例を除外した、540症例を対象としました。34歳以下が196症例、35~39歳が344症例でした」(図1)
生存期間に差はなし 治療方針は共通
検討内容は、「臨床所見・病理学的所見・治療内容と予後との関連」。予後は、無病生存期間(DFS)と全生存期間(OS)を指標にしたという。
その結果、34歳以下と35~39歳の予後の比較をグラフにすると図2のようになった。
「今回の研究では、この2群の間に有意な差は見られませんでした。
全対象における病理学的因子と予後との関連では、Cox比例ハザードモデルを用いた多変量解析で、統計学的有意差(p<0・05)が見られたのは、無増悪生存期間で腋窩リンパ節触知と術後放射線照射の有無、全生存期間に関連しては、腋窩リンパ節触知と術後放射線照射の有無と針生検時核グレードでした。
また、34歳以下と35~39歳の比較では、有意差の見られる因子はありませんでした。これにより、年齢によって治療方針を変更する必要性は乏しいと結論付けました。これはつまり、年齢にこだわって、若いという理由で激烈な治療をしたり、部分切除が可能なのに全摘をしたりという必要はないということです。
組織検査の結果や画像上の広がりで、がんの悪性度や症状に合わせた標準治療を行えば、その後の経過に年齢による差が出ることは少ないと考えています」
と梶浦さんは語る。
ではなぜ若年性乳がんが見つかったときに進行してしまっている(しこりが大きい、リンパ節転移を生じている)例があるのだろうか。
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