卵子や受精卵の凍結など、卵巣機能の低下に備える方法
将来、子どもを産みたいか 薬物治療前に考えておきたいこと
抗がん薬治療を受けると、卵巣は10歳ほど年をとる。そのため、30代で乳がんの治療を受けた人が、治療後に妊娠・出産が難しくなる可能性も高い。自分は将来出産したいのか、また、出産する可能性を残す方法をとるのかどうか、治療に臨む前に一度考えておきたい。
若い患者さんにとって妊孕性は重要な問題
がんの医療における重要な目標は、がんを治癒させることや、治癒が望めない場合には、生存期間を延ばすことにある。ただ、比較的若い女性の患者さんにとっては、そこに妊孕性保持の問題が加わる場合がある。赤ちゃんを産める能力を残せるかどうか、ということである。
この問題に詳しい国立がん研究センター中央病院乳腺・腫瘍内科病棟・外来医長の清水千佳子さんは、次のように語る。
「このことが問題になり始めたのは、2000年代になってからです。がんの治療成績がよくなったことや、がんになった人が自分らしく生きられるように支援しようという機運が盛り上がってきたことなどが関係しています。この問題に関するASCO(米国臨床腫瘍学会)のガイドライン(図1)が出たのは、2006年のことでした」
妊孕性保持は、乳がんの患者さんで問題になることが多い。比較的若い年齢で発病することがあるからだ。
「35歳未満の乳がんを『若年性』とすると、乳がん全体に占める若年性乳がんの割合は2・7%です。決して多くはないし、増えているわけでもないのですが、妊娠・出産が可能な患者さんにとって、妊孕性保持は切実な問題になることがあります」
抗がん薬治療で卵巣は10歳くらい年をとる
妊孕性に影響を及ぼすのは、手術の前か後に行われる薬物療法である。画像検査でわかるがんは、手術ですべて取り除くが、目に見えない微小ながんが全身に散らばっている可能性がある。それによる再発を防ぐ目的で行われる抗がん薬治療やホルモン療法が、問題となるのだ。
「術前や術後に抗がん薬治療を行うと、卵巣が10歳くらい年をとると言われています。使われる抗がん薬の種類によっても違うのですが、おおまかにそのようなイメージを持っていただいて結構だと思います。術後のホルモン療法は、5年あるいは10年行います。ホルモン療法には卵巣への直接のダメージはありませんが、ホルモン療法中は流産・先天奇形のリスクがあるため避妊する必要があります。その間に卵巣が年をとるわけです」
抗がん薬治療では、使われる薬剤によって、また患者さんの年齢によって、妊孕性への影響が異なる(図2)。とくに影響が大きいのは、*エンドキサンという抗がん薬を含む併用療法で、治療によって無月経になる確率が高い。
最も影響が大きいのは、エンドキサンの投与量が多い*CMF療法だが、現在はあまり使われていない。よく使われるのは、再発予防効果が高いアンスラサイクリン系(*アドリアシン、*ファルモルビシンなど)とタキサン系(*タキソール、*タキソテールなど)抗がん薬の併用療法である。CMF療法ほどではないが、抗がん薬治療によって卵巣がダメージを受けることは間違いない。
「抗がん薬治療終了後、月経が再開するかどうかを調べたデータがあります(図3)。やはり年齢が大きく関係していて、35歳以下だと全員が再開しますが、年齢が上がるほど、再開しない人の割合が多くなります。また、1年後の月経再開率は、35歳以下では63%ですが、36~40歳では50%、41歳以上では33%でした」
このデータで注意したいのは、「月経再開は妊娠・出産の必要条件だが、十分条件ではない」ということである。「月経は再開したけれど妊娠に至らない」という例ももちろんあるのだ。
*エンドキサン=一般名シクロホスファミド *CMF療法=シクロホスファミド(CPA)+メトトレキサート(MTX)+フルオロウラシル(5-FU) 併用療法 *アドリアシン=一般名ドキソルビシン *ファルモルビシン=一般名エピルビシン *タキソール=一般名パクリタキセル *タキソテール=一般名ドセタキセル *メソトレキセート=一般名メトトレキサート
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