保湿・マッサージと熱意があれば、7割は再建できる
放射線照射をしても インプラント再建ができる方法
シリコンなどのインプラント(人工物)による乳房再建に保険が適用されるようになり、再建を望む患者さんにとって朗報となっている。一方で、手術後に再発予防のため放射線治療を行うケースが増えていて、その場合、合併症の危険が増すことを理由に再建を断念することもある。放射線照射すると、果たして本当にインプラントによる再建は難しいのか?
インプラント再建を断る病院も
乳房再建には自分のお腹や背中の組織を移植する「自家組織再建」と、胸の皮膚を伸ばしてシリコンなどのインプラント(人工物)を挿入する「インプラント再建」とがある。インプラント再建を行う場合に指摘されるのが、乳がん手術の後に放射線治療を受けた人がインプラント再建をすると合併症のリスクが高まるという問題だ。
自家組織なら、お腹や背中などの健康な組織を用いるので、お腹や背中に新たな傷ができるというデメリットはあるものの、自然で柔らかい膨らみを再現するという目的には叶う。これに対して、インプラントでは胸の皮膚がそのまま使われる。
第一段階として胸の皮膚を切開してティッシュエキスパンダー(皮膚拡張器)を挿入し、生理食塩水で膨らませ、皮膚が十分に伸びたところでインプラントに入れ換える。この際、皮膚が放射線照射によってダメージを受けていると、うまく伸びず、再建に失敗することがあるのだ。
このため、放射線治療を受けた人にはインプラント再建を行わないことにしている施設も多く、その場合、患者さんは自家組織による再建を選ばざるを得ない。
放射線は畑に火を放つのと同じ
乳房再建を20年以上手がけるブレストサージャリークリニック(東京・港区)院長の岩平佳子さんは、次のように話す。
「確かに、乳がん手術後の治療で放射線照射を受けると、照射していない患者さんと比べて再建には時間がかかるし、結果も劣ってしまうことは否定できません」
岩平さんによると、「放射線の照射とは畑に火を放つのと同じ」と言う。
「火を放てば一面が焼け野原になります。それと同じで、放射線照射を受けた皮膚組織はやけどを負ってダメージを受けた状態となります。毛穴が損傷されて汗や脂が出なくなり乾燥し、真皮層まで損傷を受けるため、やがて硬くなっていきます」(図1)
硬くなった状態で乳房再建をすれば、中に入れるインプラントがどんなに柔らかいものであろうと、それを包み込む皮膚は硬いままなので、硬い乳房になってしまう。また、皮膚が伸びにくいため、皮膚が破れて穴が開き、中のインプラントが飛び出してしまうことすらあるという。
焼けた畑を「耕す」努力が欠かせない
しかも、こうした皮膚の変化は非可逆的という。
それならもう手遅れかというと、岩平さんは「条件は悪くなるものの、再建は可能」とわかりやすい例えでこう語る。
「焼け野原を何もしないで放っておけばもう芽は出ませんが、そこであきらめずに耕せば、芽が出ます。どのくらい真剣に耕すかが勝負です」
図3 放射線の影響とケア
岩平さんによれば、放射線を浴びると皮膚には次の3つの変化が起こるという。
まず第1に、皮脂腺、汗腺が焼けてしまう(図2)。
「その結果、自分で脂を出すことができないのであれば、外から脂を足してあげなくてはいけないので、耕すことの1つは、『保湿』です。とにかく毎日最低2回は保湿剤を塗り続ける必要があります。いつまで続けるかというと、一生です」
第2に、皮膚の弾力性を担う弾性線維が焼けてしまう。
「弾力を失った皮膚を柔らかく伸ばすためには、『マッサージ』が欠かせません。いつまでかというと、これも一生です」
第3に、放射線照射は血行障害を引き起こすので、これも、「マッサージして皮膚を揉まないと血行は回復しない」と、岩平さん(図3)。
では、放射線照射後の乳房再建には、どれだけの期間、保湿・マッサージが必要なのか?
「再建には、放射線照射が終わった時点から最低半年間、保湿・マッサージを続けます。これにより皮膚が柔らかくなって、少しでもつかめる程度までになれば、インプラント再建をやる価値はあります」
それでも、どんなに保湿・マッサージによって皮膚を耕しても芽は出ず、インプラント再建により皮膚が破れたりしてしまう人が全体の24%いるという。これは、放射線の感受性が高い遺伝子との関連が指摘されている。
放射線を照射した人は 被膜拘縮が起こりやすい
インプラントによる再建には、インプラントならではのトラブルも起こる。最も注意したい合併症が、被膜拘縮だ。
エキスパンダーにしてもインプラントにしても、体にとっては異物である。自己防御のための免疫反応として、周囲に被膜(コラーゲン線維の膜)が作られる。これが厚く硬くなった状態を被膜拘縮という。
「被膜拘縮は100%の人に起こります。Ⅰ~Ⅳまでのグレードがあり、ⅠやⅡだったら大した問題ではありませんが、グレードⅣになると入れ換えなどの修正が必要になります」(図4)
放射線照射を受けた人では、この被膜拘縮が起こりやすいといわれているので、注意が必要だろう。
同じカテゴリーの最新記事
- 高濃度乳房の多い日本人女性には マンモグラフィとエコーの「公正」な乳がん検診を!
- がん情報を理解できるパートナーを見つけて最良の治療選択を! がん・薬剤情報を得るためのリテラシー
- 〝切らない乳がん治療〟がついに現実! 早期乳がんのラジオ波焼灼療法が来春、保険適用へ
- 新規薬剤の登場でこれまでのサブタイプ別治療が劇的変化! 乳がん薬物療法の最新基礎知識
- 心臓を避ける照射DIBH、体表を光でスキャンし正確に照射SGRT 乳がんの放射線治療の最新技術!
- 術前、術後治療も転移・再発治療も新薬の登場で激変中! 新薬が起こす乳がん治療のパラダイムシフト
- 主な改訂ポイントを押さえておこう! 「乳癌診療ガイドライン」4年ぶりの改訂
- ステージⅣ乳がん原発巣を手術したほうがいい人としないほうがいい人 日本の臨床試験「JCOG1017試験」に世界が注目!
- 乳がん手術の最新情報 乳房温存手術、乳房再建手術から予防的切除手術まで
- もっとガイドラインを上手に使いこなそう! 『患者さんのための乳がん診療ガイドライン』はより患者目線に