ホルモン療法・効果を持続させ、副作用も抑える
ホルモン療法の耐性を分子標的薬で補う
話す向井博文さん
かつてはほぼすべての乳がん患者に行われていたホルモン療法。現在では、対象者が絞られた上、分子レベルでの研究が進んだことで急激な進歩を遂げている。ホルモン療法の難点である耐性に対して、分子標的薬との併用で大きな効果が出ることがわかった――乳がんの最新の治療に詳しい専門家に聞いた。
ホルモン療法耐性に対する新しい治療
乳がんの現在の治療はサブタイプ別に行われる(図1)。その中で、7割強を占めるのが、ホルモン受容体陽性のタイプだ。抗がん薬が効きにくいとされ、ホルモン療法が取られてきた。その定石が変わりつつある。
「分子標的薬の登場です。ここ10年ほどの研究の進歩で治療が大きく前進しています。ホルモン療法の課題として、治療の過程でほとんどの患者さんに薬剤への耐性ができてしまうことがありましたが、耐性が生じる機序がより明確になってきたため、より複雑なところまで対応できるようになってきました」
乳がんの治療に詳しい国立がん研究センター東病院乳腺・腫瘍内科医長の向井博文さんは治療界の流れを話す。
「一時は効いていたホルモン療法が効かなくなったのは、体に何か変化があったということです。分子レベルでその機構を探る研究が進みました。そこから新しい治療戦略が生まれているのです」
*ハーセプチン=一般名トラスツズマブ
薬剤耐性を分子標的薬で克服
現在行われているホルモン療法と耐性について簡単に説明しよう。ホルモン受容体陽性の乳がんでは、女性ホルモンであるエストロゲンががん細胞の核にあるエストロゲン受容体(核内ER)に結合すると、がん細胞を増殖させるシグナルが出される(図2)。
薬剤耐性が起きる仕組みは、ホルモン療法薬ががん細胞の核にある受容体にエストロゲンが結合しないようにブロックすると、がん細胞では細胞の表面にわずかにあるエストロゲン受容体(膜型ER)でエストロゲンを受け取ろうとする。
そこから受け取ったシグナルが迂回路を通って核に達し、がん細胞の増殖につながってしまうのだ。その薬剤耐性を克服しようと登場したのが、分子標的薬ということになる。
細胞内タンパクに作用してPFSを改善
2014年3月に日本で手術不能または再発乳がんに対して承認された*アフィニトールからみていこう。
アフィニトールは、これまで腎がんなどを対象に承認されていた分子標的薬である。乳がんに対しては、2011年に国際共同治験「BOLERO-2」の結果が発表されている。
この治験は、ホルモン療法薬である非ステロイド性アロマターゼ阻害薬による治療中、または治療後に再発・進行した閉経後のエストロゲン陽性/HER2陰性の進行性乳がん患者(24カ国724人)を対象に行われた。
ホルモン療法薬の*アロマシン単独療法と分子標的薬アフィニトールとアロマシンの併用療法が比較された第Ⅲ相無作為化二重盲検試験。
「アフィニトールは、迂回路の途中にある*mTORという細胞内のタンパクに作用して、ここでがん増殖のシグナルをブロックします。シグナルの迂回を許さないという薬です(図3)。
治験の結果、アフィニトールを併用したほうが、無増悪生存期間(PFS)がホルモン療法単独群で2.8カ月だったのに対し、アフィニトール併用群では6.9カ月と大きく伸びました」(図4)
一方で、副作用については、併用群のほうが高い頻度で発現した。「アフィニトールの代表的な副作用として口腔粘膜炎(口内炎)と間質性肺炎があります。口腔粘膜炎は2週間くらいで発生率が上昇し、その後落ち着きますが、間質性肺炎は、1年くらいの間、発症頻度が増え続けます。このような特徴を理解してケアすることも必要です。また、併用群ではPFSは延長しましたが、全生存期間(OS)についてはまだ有意な差が示されていないことも課題です」
*アフィニトール=一般名エベロリムス *アロマシン=一般名エキセメスタン *mTOR=哺乳類などの動物で細胞内シグナル伝達に関与するタンパク質キナーゼの一種。ラパマイシンの標的として発見されたため、mammalian target of rapamycin(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)の略として命名された
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