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【対談】オンコタイプDX乳がん検査の臨床的評価

「オンコタイプDX™検査で化学療法の実施は30%ほど減りました」

出席者●Andrew D. Seidman 米メモリアル・スローン・ケタリングがんセンター乳腺医学サービス/米ワイル・コーネル医科大学内科教授
出席者●渡辺 亨 医療法人 圭友会 浜松オンコロジーセンター院長
取材・撮影●「がんサポート」編集部
発行:2016年9月
更新:2016年9月

  

ホルモン受容体陽性、HER2陰性、早期乳がん患者での、予後予測と化学療法の効果予測に有用とされるオンコタイプDX乳がん検査。米国臨床腫瘍学会(ASCO)、全米総合がん情報ネットワーク(NCCN)、サンクトガレン(St. Gallen)国際専門家コンセンサス委員会、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)などの欧米の主要ガイドラインではすでに採用されているが、日本ではまだ保険適用承認が足踏みの状態となっている。その間にも、同検査の新たな有益性を示す臨床研究データ(ASCO2016でのSEERレジストリー解析結果、WSG Plan B試験結果など)が数多く報告されている。

本年6月に東京で開催された第24回日本乳癌学会学術集会に出席のために来日した米国メモリアル・スローン・ケタリングがんセンター(ニューヨーク)のAndrew D. Seidman氏を招いて、オンコタイプDX検査に対する新しい動向と有用性について、浜松オンコロジーセンター院長の渡辺 亨氏と対談をおこなった。Seidman氏は、オンコタイプDX乳がん検査の臨床経験数が多く、その発言内容は示唆に富むものである。

Andrew D. Seidman氏

渡辺 亨氏

化学療法を施行すべき対象の見極めは容易ではない

渡辺:乳がん細胞の生存や増殖のために必要な細胞内の仕組みが分子レベルで解明され、刺激伝達経路が明らかになるとともに、がん細胞にだけ異常に亢進している分子機構を標的とする様々な薬剤が開発されたことで、乳がんの個別化治療は大きな進歩を遂げました。

最も古い標的治療であるホルモン療法についても、タモキシフェンに加えてアロマターゼ阻害薬(AI)が開発されましたが、エストロゲン受容体(ER)に遺伝子変異がある場合、その効果が得られないことが明らかになってきました。つまり科学は、どう治療すべきかを教えてくれる。しかしなお、化学療法については誰を治療すべきで、誰は治療すべきでないのか、それを見極めることは容易ではありません。

Seidman:先生の施設では52歳で腫瘍径1.5cm、リンパ節転移なし、ER発現80%、プロゲステロン受容体(PR)発現60%、HER2陰性の患者さんを、どのように治療しますか。Ki67は8%としましょうか。

渡辺:Ki67が低いことから、臨床的判断として化学療法は行わずホルモン療法単独としますが、議論のあるところですね。

Seidman:米国では化学療法の有益性を判断するためにオンコタイプDX検査を行い、結果を患者さんと共有して、化学療法について確信をもって省くことが可能か、あるいは化学療法はやはり必要であるのかを話し合います。

では同じ患者さんのKi67が38%だった場合はどうでしょうか。

渡辺:化学療法を行うことになると思います。

Seidman:腫瘍径0.6cmではどうですか。

渡辺:0.6cmであればかなり腫瘍径の小さい疾患だと考えられますが、増殖能の指標であるKi67が38%と高く悪い生物学的特性を持っていると考えられるため、化学療法を行います。

Seidman:Ki67転写レベルはオンコタイプDX検査にも組み込まれていますが、免疫組織化学(IHC)での測定は手技や閾値の標準化がなされていないため、これに基づいた判断にはある程度の不安が伴うのではないでしょうか。

渡辺:確かにそうですが、腫瘍の解剖学的なサイズよりも生物学的特性をより重視するという意味です。腫瘍内科医は化学療法の選択について、それぞれの理論を持っています。しかし、それは科学的ではなく個々の信条に基づいた個人的なアルゴリズムだとも言えますね。

Ki67=がんの細胞増殖(進行スピード)を示すマーカー

オンコタイプDX™検査-不要な化学療法を避ける上で重要な役割

Seidman:化学療法を行うか行わないかは非常に明白ですが、その判断は明快にはいかないということですね。確信が持てない場合は患者さんとの話し合いで決定する。それは米国でも日本でも同じでしょう。ただ米国で化学療法が有益である可能性があると考えるのは、前提としてオンコタイプDX検査で再発スコアが高い場合です。

この検査は、これまで重要視されてきたいかなる因子にもまして、乳がんの予後因子、化学療法の有益性の予測因子として優れていることが、4,000人を超える患者さんを対象とした13の試験で示されています。〝化学療法選択における統一化された生物学的予測因子を探す〟というアンメットニーズ(いまだ満たされていないニーズ)を満たすものだと理解しています。

渡辺:検査はどのようなタイミングで行いますか。

Seidman:40~70歳で腫瘍径2cm以下、リンパ節転移陰性、ER陽性、HER2陰性の場合、疾患ケアグループの判断により、患者さんが術後、腫瘍内科医に会うまでの2~3週の間に検査を実施しています。初診時に検査結果を持って話し合うことが可能になりますから、時間の面でも合理的です。

70歳を超える患者さんでは、化学療法の候補になると考えた時点で検査に出します。リンパ節転移があれば再発も気にかかりますが、正直なところ、私自身は化学療法の実施にそれほど積極的ではありません。とくに高齢者の場合、様々な併存疾患を持っている可能性があります。死亡原因として競合するような疾患を有し、乳がん以外で死亡する可能性が高ければ、リンパ節転移があっても化学療法はしません。むしろ化学療法が必要ないことを確認するためにオンコタイプDX検査を行います。

ER陽性患者さんの治療で、個人的に一番幸せを感じるのは、確信を持って患者さんに「化学療法をする必要はありませんよ」と言えるときです。オンコタイプDX検査は、それを可能にしてくれる。化学療法実施はおそらく30%程度減ったと思います。

図1 再発スコアが11未満の患者では
5年経過時での遠隔再発リスクは1%未満

(Sparano et al. N Engl J Med. 2015)

渡辺:不要な化学療法を避ける上で重要な役割を果たしているということですね。1万人以上を対象とした多施設前向き試験TAILORxでは、再発スコアが11未満で化学療法を行わなかった患者さんの5年以内の再発率は1%にも満たなかったことが示されています(図1)。

Seidman:最初にこのデータを見たとき、1人の患者さんのことを思い出しました。腫瘍径0.9cm、リンパ節転移陰性、ERおよびPR陽性、HER2陰性で、再発スコアは6でした。タモキシフェン単独で治療していたのですが18カ月後に再発したのです。「なぜこんなことが!」と、頭を殴られたように感じました。

10年以上オンコタイプDX検査をしてきて、化学療法をせず再発した唯一の症例です。その時点ですでに約200件の検査をしていましたから0.5%です。忘れることのできない症例ですが、他の症例は再発しなかっただけでなく、副作用に悩まされることもなかった。この1例を例外として思い出すことを誇りに思います。

渡辺:米国で再発スコアの低い患者さんが、化学療法を施行されたことを医療過誤として訴えたという話を聞いたことがあります。

Seidman:有益性がないにもかかわらず患者さんを危険や毒性に晒せば、それは虐待です。例えばER陽性でリンパ節転移なし、再発スコア11未満の患者に化学療法を行うことは、彼女を副作用、毒性に100%晒すということであり、治療の有益性は0%のように思えます。疑問を呈さず、有益性の得られる患者さんを特定することなく、ER陽性のすべての患者さんに化学療法を行えば、それはひどい過剰治療です。

治療選択では、再発リスクに加えて腫瘍や患者の特徴を考慮

図2 中間リスク群では
再発リスクが上昇するほど化学療法使用率が高まる

(Stemmer et al. SABCS 2015
※ Genomic Health, data on file.)

渡辺:〝腫瘍内科医は必ずしも化学療法をしたいわけではない〟というメッセージですね。中間リスクの患者さんの治療選択はどうされますか。

Seidman:TAILORxのデータが得られるまでは、中間リスクは再発スコア18から30とされており、治療選択に際しては18に近いのか30に近いのかを考慮していました。イスラエルの登録研究CLALITでも、再発スコアが30に近いほど化学療法を受けることが多く、18に近いほど少なかったことがデータとして示されています(図2)。

また私どもの施設ではRT-PCRによるER、PRの定量的発現量のデータが得られますから、ERが高ければホルモン療法単独、低ければ化学療法を行うことが多くなります。グレードも考慮しますし、リンパ管浸潤があれば、より再発を懸念します。腫瘍径も3.2cmと1.1cmでは異なるでしょう。再発スコアに加えて腫瘍の特徴、患者さんの特徴や健康状態、そして化学療法に関する患者さんの嗜好もないがしろにしてはいけません。

患者さんの最も大きな懸念が副作用であれば化学療法を避ける方向に、再発であれば実施の方向に向かうでしょう。通常、カウンセリングは1時間以上、時に複数回に及びます。指導的になり、どんな決断が正しいのかを告げるのではなく、患者さんが適切な決断に至るための水先案内人となるように心掛けています。

リンパ節転移陽性の患者でも検証された オンコタイプDX™検査の有用性

Seidman:夫を無くして1人暮らし、毎日運動していて、孫に会うために運転もする79歳の女性で、腫瘍径は2cm、リンパ節転移1、ER70%、PR70%、HER2陰性という患者さんは、日本では化学療法を受けることになりますか。

渡辺:毒性の高い化学療法はしません。UFT(テガフール・ウラシル)が1つの選択肢です。

Seidman:米国では明らかにオンコタイプDX検査の対象です。オンコタイプDX検査はこれまでリンパ節転移のない状況において有用性が示されてきましたが、リンパ節転移陽性の患者さんについてもSWOG 8814、ECOG2197、Trans ATACなど複数の試験データで検証され、2008年から実臨床で使うことができるようになりました。

Trans ATACのデータセットでは、1~3個のリンパ節転移陽性で、再発スコアが低くアロマターゼ阻害薬単独で治療した患者さんの予後は、リンパ節転移のない患者さんと同様に良好でした。また再発スコアが高い患者さん以外では、アンスラサイクリンを含むレジメンに明らかな有益性がないことが、SWOG 8814試験のデータセットで示されています。この患者さんが化学療法を行うとすれば、おそらくCMF(シクロホスファミド+メトトレキサート+フルオロウラシル)になるでしょう。米国では使うことができませんがUFTでもいいと思います。

米国国立癌研究所(NCI)のSEERレジストリーのデータでも、リンパ節転移の数が限られていて、再発スコアが18未満であれば、5年間の乳がん特異的死亡率は1%であることが示されています(図3)。

図3 SEERレジストリーにおけるリンパ節陽性(mic,1-3)症例おける前向きの検討による乳がん特異死亡率(BCSM)結果

(Shak et al. SABCS 2015)

つまりこの79歳のおばあちゃんは、99%の確率で乳がん死することなく、80歳の誕生日を迎えられるということです。実臨床でのリンパ節転移陽性2,000例以上に及ぶデータですから、非常に説得力があると思います。

渡辺:リンパ節転移陽性患者における有用性は、ドイツのWSG Plan B試験でも検証されていますね。また、米国のRxPONDER試験も進行中です。

図4 再発スコア群別の5年生存率の比較

ASCO2016 Poster Board #44 Abstract Number: 556
“5-year results of prospective Phase Ⅲ WSG PlanB trial”

Seidman:WSG Plan Bではホルモン受容体陽性、リンパ節転移0~3個で再発スコアの低い患者さんは、ホルモン療法単独での5年生存率が99%でした(図4)。

渡辺:最近、再発スコアとERの定量的発現量を組み合わせることにより、タモキシフェン療法終了後最大15年間の遠隔再発リスクを予測できることが報告され、ホルモン療法の延長が有益である患者さんの特定においても、オンコタイプDX検査の有用性が示唆されましたね。

Seidman:幅広い患者さんにおいて、治療選択の根拠は解剖学的特徴から生物学的特性へと移行していると言えるでしょう。

オンコタイプDX™検査の価値を自分自身で考えるべき

Seidman:来日する度に認識させられるのは、日米の保険制度の違いです。米国ではオンコタイプDX検査を償還する大きな目的は、保険会社が化学療法の費用を削減することです。日本ではこの検査費用は患者さんと家族が支払うことになるのですよね。化学療法を避けられれば、患者さんは化学療法の費用を節約できるのでしょうか。

渡辺:化学療法は保険償還されます。患者さんにも支払は発生しますが、上限が定められています。

Seidman:日米どちらにも共通しているのは、化学療法による〝副作用のツケ〟を支払うのは患者さんだということです。副作用の中には長期に及ぶものもあります。多くの患者さんが2~3年後に訴えるのは、脱毛や疲労ではなく認知機能障害です。化学療法中、記憶が鮮明ではないというのです。また閉経前の患者さんは早期に閉経を迎え、ほてり(顔面紅潮)、性機能障害などの副作用を経験するほか、エストロゲン欠乏状態がより長期間持続するために骨密度が低下します。

渡辺:腫瘍内科医として不要な副作用を避けることが、必要のない化学療法は行いたくないという理由ですね。

Seidman:その通りです。戦場から帰還した兵士に心的外傷後ストレス障害(PTSD)があるように、化学療法を受ける患者さんは化学療法後ストレス症候群(PCSD)とも言える症状と戦っていかねばなりません。科学的に有用性が証明された方法で、化学療法必要性の有無についての判断を助ける情報を提供するオンコタイプDX検査が、自身にとって価値あるものなのかどうか、すべての患者さんが考えてみるべきだと思います。

渡辺:まずは自分が検査に適しているかどうかを主治医に相談してみるといいでしょうね。

診断検査は、いまや薬剤使用の有無を支配するところにまで来ています。そしてそれにより不必要な化学療法の費用や副作用を削減できる。オンコタイプDX検査は多遺伝子乳がん検査として唯一、世界の4つの主要なガイドラインでも採用されています。日本では日本乳癌学会、日本臨床腫瘍学会が保険適用を申請していますが、残念なことにいまだに政府や保険償還支払機関には抵抗感があるようです。

Seidman:米国のシステムでは、医学的に有益かどうかに加え、少なくとも費用的に見合うかどうかが考慮されます。幸い経済学的解析により、化学療法を減らせば費用は下がることが示されています。米国臨床腫瘍学会(ASCO)は、〝value(価値)〟ということを強調していますが、すべての偉大なブレークスルー、がんの生物学的特性の解明と理論的解釈、生存期間を延長する標的治療などにより新たな治療が可能となっています。

しかしその一方で、その費用は増大し、年に10万ドルという薬剤さえある。年収を超えるような金額で、誰もが受けられるものではありません。それは1年延命するための〝value〟として適切なのかどうか。また保険償還はされても、働く時間が減少するなど、患者さんは経済状態に大きな影響を受けます。

実は自己破産の大きな割合を占めるのは、がん患者さんを抱える家族です。新たな技術を誰もが入手可能なものにする手立てを講じなければ、公衆衛生に大きな影響を与えることはできません。治療費用が高いほど、コンパニオン診断による費用削減効果も大きくなりますが、その進歩に伴い診断費用も上昇しています。全体として必ずしも大きな費用をかけることなく延命できるような技術に、いかに革新をもたらすことができるか。技術が一般的になったときには、費用も下がることを期待します。

渡辺:本日は貴重なお話をありがとうございました。

 

最適な個別化医療を受けるために、あなたの乳がんのがん遺伝子発現状態を調べよう

あなたの乳がんがホルモン受容体陽性でHER2陰性の早期乳がんなら、オンコタイプ
DX検査を受けることにより、

◦術後10年以内に再発する可能性(予後予測)
◦化学療法が再発の抑制に有益である可能性(化学療法の効果予測)

を知ることができます。

検査結果は再発スコアという0かから100までの数値で表され、再発スコアが低いほど再発の可能性は低く、化学療法はしなくても心配ないと考えられます。再発スコアが高い場合は、再発する可能性が高いのですが、その可能性を減らすための化学療法の効果が高いと考えられます。

あなたが他の人とは全く違う1人の人間であるのと同じように、あなたの乳がんは他の誰の乳がんとも同じではありません。同じホルモン陽性の乳がんであっても、全く同じではありません。

ホルモン受容体陽性乳がんでは、術後にホルモン療法が行われますが、ホルモン療法だけでなく化学療法も行うことがあります。これまで、ホルモン受容体の状態、乳がんのサイズ(腫瘍径)や悪性度(グレード)、リンパ節転移の有無と、あなた自身の年齢や健康状態から、化学療法を行うべきかどうかが決められてきましたが、最適の個別化治療を受けるためには、あなたの乳がんのがん遺伝子発現状態(生物学的特性)を知ることが大切です。

オンコタイプDX検査では、生検や手術の時に切除した乳がん組織における21のがん遺伝子の発現状態を調べます。

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