シリーズ・オンコタイプDX検査 Report1-2 専門医が勧める患者説明と対応の仕方
オンコタイプDX検査の結果と、患者さんの意思や環境を尊重して、一緒に最善の治療を考える
豊富な乳がん専門医の植野映さん
ホルモン受容体陽性(ER+)、HER2陰性(HER2−)、早期乳がん患者での予後予測と化学療法の効果予測に有用とされるオンコタイプDX乳がん検査。米国臨床腫瘍学会(ASCO)、全米総合がん情報ネットワーク(NCCN)、ザンクトガレン(St. Gallen)国際専門家コンセンサス委員会、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)などの欧米の主要ガイドラインではすでに採用されていますが、日本では保険適用になっていません。
Report1-2では、検査後の検査結果の報告、およびリスク評価の説明、治療法の選択の仕方などについて、具体例を示して紹介していただきました。
<検査後>
❶検査結果を患者さんに報告する際の環境は?
・家族同伴をお願いし、外来で通常通りに検査結果を説明します。
・検査結果を示して、治療方針を医師が一方的に誘導するのではなく、患者さんや家族も交えて「さてどうしましょう」というところから始めます。
・検査結果におけるリスク領域(低、中間、高リスク)を示し、治療法を提示しています。
❷リスク評価の説明時の対応の仕方は?
低リスクの場合
・低リスクのときは「よかったですね。化学療法は必要ありません」と話し、お互いに喜ぶことが多いです。
高リスクの場合
・高リスクのときは、こちらから「高リスクの結果が出ましたので化学療法をやりましょう」といったようなことは申しません。「こういう検査結果が出ましたが、どうしますか」といったところから始めます。
・最初から「化学療法をやったほうがいいです」と切り出すと、患者さんにとってはつらいようです。
・患者さんの考え方もあるし、高リスクで再発リスクが高いといっても、「それくらいならばいい」という患者さんもおられます。
・「一概に化学療法をやらなければダメだ」ということにはなりません。
中間リスクの場合
・中間リスクについては、低リスクに近い領域と高リスクに近い領域での好ましい治療法の説明を行い、「他の要因も含めて一緒に考えて行きましょう」ということで、「最終決定を行うのは患者さん本人である」ことを話します。
・また患者さんの環境(家族構成、現在の立場、仕事内容など)を考慮して決めて行くやり方を採っています。
オンコタイプDX検査について
in Hormone Receptor-Positive Early Stage Primary Breast Cancer in the
Japanese Population. Cancer. 2010:116(13):3112-8.)
❶オンコタイプDX検査を行ってよかったと感じた点は?
・再発リスクが判明すること。
・Ki67を優先する医療者もいますが、データにばらつきがあり、オンコタイプDX検査のほうが優れていること。
❷オンコタイプDX検査に対する患者さんの捉え方は?
・化学療法をしなくてよい、再発リスクが低いことが判明した場合には、お互いに喜ぶことが多いです。
・再発リスクが判明して今後の治療に役立つ(理解できる)ため、高リスクのケースでも検査をしてよかったということになります。
・治療により生存率が上がるということは、患者さんにとってうれいしいことだと思いますし、一所懸命にがんばることができるようになると思います。
・「検査データをもとに、患者さんに今後の対応を考えていただく」ところにこの検査の意義があると考えています。
患者さんと接しての印象・感想
❶オンコタイプDX検査に対する患者さんの反響(理解度、納得度など)は?
・ほぼ1回の説明で納得していただいています。2、3回と説明することはほとんどありません。
・ただ1回目には必ずご主人や保護者の方同伴で来てもらっています。
・外来後、一度待合室に出てもらって、ご家族で30分間ほど話し合っていただく機会を設けています。
❷検査費用での患者さんの反応および対応は?
・費用が高いと思って話をしますが、そんなに高いとは思っておられない感じを受けます。
・検査費用を高いと思われない方が多い理由の1つとして、当院(つくば地域)に来院されている方は比較的裕福で、インテリジェンスの高い方が多いことが考えられます。
・このため検査費用(約40~45万円)を聞かれてもあまり驚かれないようです。
・化学療法が必要なケースでは、治療費用が高くなることを話します。
・化学療法が必要でない場合、逆に費用対効果で得なことがあるケースを話すこともあります。
・遠くから来られる方は最初からセレクションがかかっていることもあり、そういう方は即検査を受諾されます。
まとめ
❶オンコタイプDX検査がもたらすメリット
・無駄な化学療法をできるだけ避けられるというのが一番です。
・これまでにオンコタイプDX検査を30数例行いましたが、化学療法を避けた方で再発した人はまだ1人も経験していません。ただ、最長例は7~8年とまだ年数があまり経っていないために明言はできませんが、検査の精度は高いと思います。
・保険適用になれば患者さんに100%推奨します。また、化学療法を半減させることにより医療資源の節約にもなると思います。
・苦しい治療が最善の治療ではなく、できるだけ苦しくない医療が必要であるいということを知ってもらうことが大切です。
※ 検査結果の解釈は最新の情報をもとに主治医とご相談ください(2023.09.01)
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