正常組織への照射を減らし、合併症も起きにくい
治療期間は大幅に短縮! SAVIを用いた新しい乳房温存療法
乳房温存療法を選択する場合、再発予防のために放射線治療が必要となる。現在、放射線治療としては、乳房全体に放射線を照射する「全乳房照射」が標準治療だが、照射期間は5~6週間と長く、生活に負担が生じることがしばしばあった。そこで、こうした問題を解決すべく、新たな照射法として開発されたのが「加速乳房部分照射法」。SAVI(サヴィ)と呼ばれる治療器具を用いた新たな乳房温存療法に、いち早く取り組む医師に話をうかがった。
乳房温存療法には放射線治療が必要
乳がんの手術には、がんと一緒に乳房を全て切除する「乳房切除術(全摘術)」と、乳房の一部だけを切除する「乳房温存術」という方法がある。乳房温存術の場合には、残した乳房内に画像検査に映らない微小ながんが残っている可能性があるため、手術後に放射線治療が加えられることになる。昭和大学病院ブレストセンター助教の桑山隆志さんによれば、この放射線治療に、新しい方法が登場しているという。
「乳房温存術を行った場合には、再発を防ぐ目的で放射線治療が行われます。従来から行われていて、現在標準治療とされているのは、『全乳房照射』という方法です。手術を行った乳房全体に、体の外側から放射線を照射します。最近、この方法以外に、『加速乳房部分照射』という治療法が開発され、一部の施設では行われるようになってきています。この治療では、乳房の中に小さな線源(せんげん)を入れ、体の内側から放射線を照射する体内照射が行われます」(図1)
加速乳房部分照射にはいくつかの方法があるが、昭和大学病院で行われているのは、SAVIという治療器具を用いる方法だ(図2)。
全乳房照射では、1回に1.8~2.0Gy(グレイ)の放射線を、週に5回、5~6週間にわたって照射する。これに対し、SAVIを使用した加速乳房部分照射では、1回3.4Gyの放射線を、1日に2回、連続5日間で計10回照射する。合計の放射線量は少なくなるが、1回の放射線量が高く、それを集中的に照射することで、再発を予防する効果が期待できるという。
「アメリカで開発された治療法で、有効性が認められ、アメリカではすでに1万人以上がこの治療を受けています。現在、全乳房照射と加速乳房部分照射を比較する大規模臨床試験が進行中で、もうすぐその結果が出ることになっています」
小線源を使った放射線治療は、日本では前立腺がんや子宮頸がんの治療でも行われており、健康保険で受けられる治療となっている。SAVIによる加速乳房部分照射も保険適用となっている。
再発は切除部位に起こることがほとんど
SAVIはカテーテル(細い管)を束ねた形状をしている。これを乳房内に留置し、治療するときにだけ管の中に小さな粒状のイリジウム192という線源を入れ、それを移動させる。それによって、周囲に放射線を照射するのである。線源をカテーテルに入れる時間は、ほんの数分だけ。1回の治療に要する時間は30分間ほどだ。
全乳房照射では乳房全体に放射線を照射するが、SAVIを使った治療では、手術で切除した部位に器具を入れるため、その周囲に集中して放射線を照射することになる。必ずしも乳房全体に照射するわけではない。
「乳房温存療法後の再発は、がんを取り除いた部位に起こることがほとんどで、それを防ぐために放射線治療が行われます。乳房内の他の部位に再発が起こることもありますが、それは放射線治療を行っても行わなくても、さほど変わらないことがわかっています。そこで全乳房照射を行わなくても、部分照射でよいのでは、と考えられているわけです」
SAVIはカテーテルの本数や大きさにより、4種類が用意されている。放射線を照射したい範囲に合わせ、適切なものが選ばれることになる。
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