正確に予測できれば手術回避の可能性も
乳がん術前化学療法で病理学的完全奏効となった症例
乳がんで術前化学療法を受け、病理学的完全奏効(pCR)となった患者は予後が良好であることが知られている。手術前に超音波ガイド下針生検を行うことで、pCRを正確に予測することができれば、将来的には手術を回避できる可能性も出てくる。そこに向けて、新たな臨床試験がスタートした。臨床試験を率いる専門医にその内容についてうかがった。
ホルモン受容体陰性ならば約半数が病理学的完全奏効に
乳がんの治療では、手術前に化学療法が施行されることがある。この術前化学療法(ネオアジュバント療法)の意義について、東京医科大学病院乳腺科助教の淺岡真理子さんは、次のように説明する。
「1つは、がんを小さくすることで、より侵襲の少ない手術を目指すということです。例えば、がんが比較的大きく乳房全摘が必要というような場合には、まず化学療法を行うことになります。もう1つ、術前化学療法には、薬剤の効果を確認するという側面もあります。どんな薬が有効で、どんな薬が効かないのかということを、標的病変で確認できるというのも、術前化学療法を行う大きな理由となっているのです。さらにもう1つ付け加えれば、比較的病期が進んでいる患者さんにとっては、より早い段階で全身治療が行えるというのも、術前化学療法のメリットと言えます」
この術前化学療法によって、がんが縮小するだけでなく、消失してしまうケースもある。薬物療法が進歩することによって、そうした患者がかなりの割合になるという。
「乳がんの治療は、サブタイプによって大きな差が現れます。化学療法に対しては、ホルモン受容体陽性(HR+)の乳がんは比較的効果が低く、がんが完全に消失するケースは多くありません。その点、ホルモン受容体陰性(HR−)のHER2タイプやトリプルネガティブタイプ(ホルモン受容体PR−、ER−、HER2 −)では、がんが消失するケースがかなりあるのです。約半数の症例で、病理学的完全奏効(pathological complete response: pCR)が得られていると報告されています」(淺岡)
病理検査は、手術で切除した組織に対して行われる。つまり、術前化学療法の結果は、正確には手術前にはわからない。pCRというのは、手術で切除した組織を病理学的に調べたところ、がんが消失していることが確認できた、ということなのである。HER2タイプやトリプルネガティブタイプの場合、術前化学療法を受けた人の約半分が、手術で切除した組織にがんが見つからないのである。
がんが消えたら局所再発はほぼ起こらない
乳がんの術前化学療法でpCRとなった患者に、手術後の再発がどの程度起きているかを調べる研究が行われた。
対象となったのは、東京医科大学、横浜市立大学、横浜労災病院、神奈川がんセンターの4施設において、2007年1月~2016年12月の10年間に、手術が可能と診断された初発の乳がんで、術前化学療法を受けた患者1,599人。
このうち、手術で切除した組織を調べ、pCRと判定された患者は395人だった。全体の24.7%が、pCRを得られたことになる。HER2タイプやトリプルネガティブタイプに限れば、この割合はもっと高くなる。
「この研究では、pCRの定義を、『原発巣の浸潤がんの完全消失』とし、乳管内にとどまっているがん細胞や、リンパ節転移の遺残の有無などについては問わないことにしました。かなり緩やかな定義だと言えると思います」
pCRとなった395例のサブタイプ別の症例数は、ルミナールタイプ50例、ルミナールHER2タイプ98例、HER2タイプ116例、トリプルネガティブタイプ131例だった。
このpCRとなった395例のうち、手術後の再発率は5.8%だった。また、局所再発に限ると、再発するケースは非常に少なく、局所再発率は1.2%だった。
「どういう患者さんに再発が起きているのか、という解析も行われました。それによると、治療を開始する前に診断された病期や、リンパ節転移の遺残があることが、リスクファクター(危険因子)となることがわかりました。また、この研究では、術前化学療法でpCRが得られた場合には、局所再発を起こすことは極めて少ないことが明らかになっています。これだけ局所再発が少ないのであれば、局所への治療をもう少し省くことができるのではないか、と考えられたわけです」
そこで、この研究は次の段階へと進むことになったという。
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