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第25回日本乳癌学会学術総会レポート No.1「乳がん患者のサバイバーシップ支援」

取材・撮影・文●「がんサポート」編集部
発行:2017年9月
更新:2017年9月

  

今年(2017年)7月に福岡で開催された第25回日本乳癌学会学術総会から「乳がん患者のサバイバーシップ支援」「多遺伝子発現検査」に関する話題を拾った。

No.1「乳がん患者のサバイバーシップ支援」

日本人女性における悪性腫瘍のうち最も罹患率の高い乳がん。罹患数、死亡者数ともに増加の一途をたどっている。年齢層別にみると40歳から増加傾向が見られ、55~59歳でピークに達する。年齢分布では平均年齢は57.4歳と言われる。

乳がんは他の悪性腫瘍と比較して治療後の生存率は高く、乳がんサバイバーとして長い人生を送る可能性が高いため、治療においてはより効果の高い治療とともに、患者のQOL(生活の質)やサバイバーシップにも配慮した治療の提供が求められている。また、もう1つ課題となっているのが、40歳(あるいは35歳)以下のいわゆる若年者乳がん患者への対応。この年代に特有の結婚、妊娠、出産などのライフイベントに十分考慮する必要性が求められている。

第25回日本乳癌学会学術総会で発表されたこれらの問題に関する研究の概要をまとめた。

就労および助成制度の利用状況と今後の課題

●70%が助成制度を利用しつつも、将来的な経済的不安を抱く

がん治療においては、治療の場が入院から外来へ移行。また生存期間の延長により、治療の長期化、医療費負担の増大、がんと就労の問題などこれまでにない状況が生じてきている。

がん医療費の助成制度として高額療養費制度のほか、自治体独自の制度で患者の経済的負担が軽減を行う地域も存在する。厚生労働省調査班の調査結果では、がんと診断された時点で2割が退職、うち4割が治療開始前に離職していることが明らかになっている。

東大和病院(東京都東大和市)看護部の高橋真由美さんらは、乳がん患者の就労および助成制度の利用状況を把握し、今後の支援の必要性を考察する目的で、A病院乳腺外科外来通院中の乳がん患者53人を対象に、アンケート調査を実施した。

アンケート項目は、①就労状況、②収入の変化、③助成制度の利用状況、④将来的な医療費への不安、⑤就労や医療費についての相談の有無など。調査にあたっては、事前にA病院倫理審査委員会の承認を得た。

●診断後、患者の54%において収入が減少

対象患者53人の平均年齢は63歳(41~90歳)。居住地による助成制度の状況をみると、自治体によるがん治療助成制度のない地域の居住者77%、がん治療に関する医療費全額助成地域の居住者19%、75歳以上の医療費半額助成地域の居住者4%であった。

調査結果をみると、診断前の就労率は45%であり、治療開始後の転職8%、休職29%、退職29%であった。診断後、患者の54%は収入が減少したと回答した。

助成制度は70%が利用しており、内訳は高額療養費制度58%、医療費控除25%、民間保険13%、指定疾病医療費助成制度19%、傷病手当金2%、生活保護制度2%などであった。

将来に対する医療費への不安は70%が抱いており、医療費全額助成を受けている患者においても60%は不安があると回答した。医療費や就労に関しては43%が相談しており、相談相手は、家族が43%と最も多く、次いで看護師、役所、医師、医療事務の順であった。相談しなかったと回答した患者の23%が誰に相談すれば良いのかわからなかったと回答した。

●乳がんと診断後患者の約6割が休職や退職

これらのアンケート調査結果から、乳がんと診断後約6割の患者が休職や退職しており、収入も減少。また医療助成制度を7割が利用しているが、がん医療費全額助成を受けている患者であっても将来的な経済的不安を抱いており、不安の原因を明らかにし、解決策を模索する必要があると考えられた。さらに医療費制度は、患者からの申請が原則であるため、医療費制度を適切に利用できるよう、患者以外にも家族に対し情報提供を積極的に行う必要があると考えられた。

高橋さんは「医療費助成制度の利用の有無にかかわらず、経済的不安を抱く患者さんは多い。不安を和らげるためには、患者個々の就労や医療費に関する問題に対応できる相談支援体制の構築が必要である」と述べている。

治療継続のための支援体制の検討

●女性のライフイベントに合わせた支援

乳がんの治療を受ける患者は30~70歳代が多く、この年代の女性が担う役割は、妻、母親、娘、社会人など多様である。この多様な役割を遂行する中で、女性が乳がんに罹患すると、治療に要する時間の確保に苦慮したり、今まで通りに家事育児、介護、仕事ががんの症状や治療の副作用で困難になることもある。

このような役割を持ちながら治療を継続していく中で、日常生活において、悩みや不安を抱えている患者が少なくない。

●放射線療法を受ける患者に治療継続や就労継続への支援を実施

独立行政法人京都病院機構京都市立病院では、2016年7月から放射線療法を受ける乳がん患者の治療継続や就労継続への支援を行う目的で、乳がん患者ケア外来を開設し、照射時間や患者の相談対応の希望に応じて時間延長し、対応している。

同病院看護部の荻野葉子さんらは、乳がん患者ケア外来を利用した患者が表出した言葉から相談内容を明らかにし、乳がん患者が治療継続のために必要な支援を明らかにする目的で、データ分析を行った。

対象は、乳がん患者ケア外来を利用した患者4人。面談時の看護記録をもとに、面談時の言葉を看護記録から患者が求めている支援の視点で意味のあるまとまりを抽出しサブカテゴリー化し、サブカテゴリーを集約してカテゴリーとする、いわゆる質的因子探査研究を行った。

●ライフイベントを見据えた、点ではなく線での支援が必要

乳がん患者ケア外来利用者4人の属性は、年齢30歳代2人、50歳代2人。全員が部分切除後の放射線治療者。就業継続中は3人。既婚者3人、妻役割3人、母親役割2人、介護役割1人であった。乳がん患者ケア外来の求めている支援内容として、下記の7つが抽出された。

①今後の治療の見通しの説明
②不安の表出の時間保証
③治療継続の職場の理解
④対処行動の支持
⑤価値観の支持
⑥女性としての役割遂行の理解
⑦再発予防への方略獲得の支持

※特に「⑥女性としての役割遂行の理解」では、妊娠出産、授乳、将来の家族計画への不安などが抽出されており、女性のライフイベントを見据えた、点ではなく線での支援が必要であることが示された。

●医療機関でもできる就労支援体制の整備が大切

今回の分析結果から、治療継続のためには、相談内容に対して、専門的な看護師の情報提供や患者と医師との橋渡しなどが必要であり、乳がん発症年齢と女性のライフイベントを合わせた継続的な支援が重要であることが明らかになった。

萩野さんは「医療機関でもできる就業と治療継続の調整、相談の調整など、就労支援体制を整えることが大切であり、今回の結果をもとに、今後の乳がん患者ケア外来をさらに充実させていきたい」としている。

患者ニードに関する実態調査 ライフステージに配慮した支援体制が必要に

~若年性乳がん患者支援団体によるアンケート調査結果~

若年性乳がん患者では、恋愛、結婚、妊娠、出産、子育て、就労など年齢特有の悩みを抱えており、患者それぞれのライフステージに配慮した支援体制が必要となる。

「若年性乳がんサポートコミュニティPink Ring」は若年性乳がん患者支援団体として、患者と医療者が協働し、情報提供、コミュニティの提供、研究活動を行っており、これまでに若年性乳がん患者に対し複数回アンケート調査を実施してきた。

同会に所属する国立がん研究センター中央病院乳腺・腫瘍内科の北野敦子さんらは、若年性乳がん患者のニードの実態を明らかにし、より充実した医療体制の実現に向けての示唆を得るために、同会のイベントに参加した若年性乳がん患者体験者に対し自記式アンケートを実施し、集計・解析を行った。

●若年性乳がん患者では、妊娠・出産についての懸念が強い

対象は、2016年1月から同12月までにイベントに参加した若年性乳がん患者。有効回答数は延べ111人。回答時の年齢は20代7人(6%)、30代89人(80%)、40代以降10人(9%)、無回答5人(5%)。既婚44人(40%)、未婚61人(55%)、無回答6人(5%)。子どもあり17人(15%)、子どもなし85人(77%)、無回答9人(8%)であった。

乳がん診断時の心配に関する質問(複数回答可)では、「生存率」55人(50%)、「妊娠・出産」54人(49%)、「結婚・恋愛」48人(43%)であり、若年性乳がん患者では、生存率と並び、妊娠・出産についての懸念が強いことが明らかとなった。

「妊孕性(にんようせい)温存について知っていたか」に関しては、「知っていた」72人(65%)、「知らなかった」34人(31%)、無回答5人(4%)であった。さらに「生殖補助医療を用いた妊孕性温存を実施したか」については、「実施した」18人(19%)、「検討したがしていない」42人(44%)であった。「妊孕性温存の方法を知らなかった」と答えた患者は19人(20%)であった。

今回のアンケート結果から、若年性乳がん患者では、妊娠・出産に関する懸念は強く、情報提供や意思決定を含めた支援のニードが高いことが推測された。その一方で、未だ約3割の患者において、妊孕性温存に関する情報提供がなされておらず、今後の支援の在り方について、患者支援団体の立場からも、さらなる改善が必要であることが示唆された。

●がん生殖医療に要する実態調査を開始

北野さんは「本会では、若年性乳がん患者の妊娠・出産に対する支援の在り方の改善を最優先課題とし、2017年1月より公益財団法人がん研究振興財団からの研究助成を受け、 “思春期・若年成人がん患者に対するがん生殖医療に要する時間および経済的負担に関する実態調査”を開始した。今後、その調査結果も含めて、若年性乳がん患者の実際の声を届けたい」としている。

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