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第25回日本乳癌学会学術総会レポート No.2 シンポジウム「個別化医療における多遺伝子発現検査の現状と展望」

取材・撮影●「がんサポート」編集部
文●中西美荷
(2017年9月)

  

今年(2017年)7月に福岡で開催された第25回日本乳癌学会学術総会から「乳がん患者のサバイバーシップ支援」「多遺伝子発現検査」に関する話題を拾った。

No.2 シンポジウム「個別化医療における多遺伝子発現検査の現状と展望」

早期乳がんの薬物治療においては、ホルモン療法、化学療法、HER2療法といった術後治療(術後補助化学ホルモン療法)が、乳がんの予後改善に大きく寄与してきたが、標的が明らかではない化学療法については、過剰治療となっている可能性が懸念されてきた。従来、化学療法を行うべきかどうかの判断においては、臨床病理学的因子が考慮されてきたが、近年、術後の再発リスクを予測する多遺伝子発現検査(多遺伝子アッセイ)が用いられるようになってきている。

シンポジウム「個別化医療における多遺伝子発現検査の現状と展望」では、個々の患者の状態にあったより適確な治療選択にこれら多遺伝子発現検査がどのように活用されているのか、その現状と将来展望について講演と討議が行われた。

現在、術後化学療法を行うかどうかを判断するために用いられている多遺伝子発現検査は、Oncotype(オンコタイプ)DX、MammaPrint(マンマプリント)、PAM50、Curebest 95GC(キュアベスト95GC)の4種類。

いずれもER+HER2-乳がんの予後予測因子として高い性能有する

米国のPerou、ノルウェーのSorlieらのグループが、2000年にマイクロアレイ解析により乳がんを遺伝子発現パターンの異なるintrinsic subtype(内在性サブタイプ)に分類。さらに2001年にはintrinsic subtypeにより予後が異なることが報告されて以降、乳がんの遺伝子発現パターンと予後や化学療法に対する反応性との関係についての理解と研究が急速に進み、早期乳がんに対する薬物治療個別化のツールとしての多遺伝子発現検査開発につながった。

●Oncotype DX検査

最初に市場に登場したOncotype DX検査は、16の乳がん関連遺伝子と5つの参照遺伝子、計21の遺伝子発現の状態から、ホルモン受容体陽性(ER+)HER2陰性(HER2−)乳がんの予後と術後化学療法が奏効する可能性を予測する多遺伝子検査。

これまでに計6万例以上のER+HER2−乳がん患者で臨床的検証が行われ、ASCO(米国臨床腫瘍学会)、NCCN(全米総合がん情報ネットワーク)、ESMO(欧州臨床腫瘍学会)など複数のガイドラインにも記載されている。検査結果は0~100の数値(RS:再発スコア結果)で表わされ、RS0-17を低RS群、18-30を中間RS群、31-100を高RS群と定めて臨床的検証が行われてきた。

Oncotype DX検査は、予後因子としてだけでなく、効果予測因子としてもランダム化試験で後方-前方視的に検証されていることから、低RS群は「予後良好であり、かつ化学療法の効果は低い」、高RS群は「予後不良ではあるが化学療法が奏効する可能性が高い」と考えられる。

中間RS群については、「化学療法を行うかどうかは他の要因も考慮して行う」とされているが、現在TAILORx等の前向き試験により、中間RS群における化学療法効果の検証が行われている。

発表を行った米メモリアル・スローンケタリング・がんセンターのShanu Modi氏は、Oncotype DX検査の中間RS群は、NSABP B-20試験では化学療法のベネフィットを否定できない(相対ベネフィットが0.61 [95%CI 0.24-1.59])結果となっているが、Clalit Health Services Registryでは化学療法施行率が25%に過ぎないにも関わらず5年遠隔再発率は3.2%と良好で、多くはホルモン療法のみでも予後良好であったと考えられることに言及し、「Oncotype DX検査で中間RS群であっても、多くの患者で内分泌療法による治療のみで十分な可能性がある」と指摘した。

現在進行中の前向き試験TAILORxでは、過小治療の可能性を避けるためにRSの定義を変更してRS<11を低RS群、11-25を中間RS群、>25を高RS群として、中間RS群で化学療法の省略が可能かどうかを検討している。

このTAILORxのRSの定義によって大規模データベースSEER Registryを再解析したところ、RS18-25の患者の5年乳がん特異的生存率(BCSS)は化学療法の有無に関わらず良好だったことが今年(2017年)のASCO年次集会で報告され、中間RS群の多くで化学療法を省略できる可能性が示唆された。

Modi氏が、「より多くの患者が化学療法を避けられるような結果となることを期待している」とした同試験の中間RS群の結果が得られるのは、2018年になる見通しだ。

●MammaPrint

再発の重要なプロセスである細胞周期、血管新生、浸潤、細胞移動、シグナル変換などに影響を与える70遺伝子の発現状態から、診断5年以内の転移の傾向を同定し、低リスク群、高リスク群に分類する検査法。

MammaPrintを用いた前方視的試験のMINDACTでは、臨床高リスク/MammaPrintでの低リスク(Clin-High/G-Low)群で化学療法を受けなかった 644例の5年無遠隔転移生存率(DMFS)は94.7%(95%CI [95%信頼区間] 92.5-96.2)で、事前に設定した「5年DMFSの95%CI下限が92%以上」の基準が満たされたことから、「MammaPrintは予後を損なうことなく術後化学療法の処方を減少させる点で臨床的リスク評価よりも優れている」との仮説が検証された。

この結果を受け、MammaPrintは、ASCOの臨床ガイドラインに、ER+HER2−リンパ節転移陰性(N−)乳がんにおいて、臨床高リスク患者の術後療法選択におけるバイオマーカーとして新たに記載され、EGTM(欧州腫瘍マーカーグループ)ガイドラインでも予後予測および術後化学療法を行うかどうかの判断において有用とされた。

発表者のオランダがん研究所のEmiel J Th Rutgers氏は、MammaPrintをいかに臨床に組み込むかについて、「まずは臨床リスクを評価し、低リスクであれば化学療法なしの治療を行い、臨床リスクが高い場合には、MammaPrint検査を行って化学療法を行うかどうかを判断すること」を勧めた。

●PAM50

マイクロアレイデータから抽出した5つのハウスキーピング遺伝子、リスク層別のための細胞増殖に関わる5遺伝子、各サブタイプの同定に有用な40のintrinsic gene(内在性遺伝子)の計50の遺伝子の発現パターンからROR(Risk of Recurrence : 再発リスク)スコアを算出して予後を層別化する検査法。

当初、測定にはRT-PCR(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)を用いていたが、どんな施設でも実行可能な検査法の確立を目指すためにNanoString Technologies社のnCounter解析システム(Prosigna PAM50)を採用した。

同システムは操作が簡便で、特殊な分子バーコードを配列特異的に付加することにより最大800種類の標的配列を個数単位で検出・計測(ダイレクトデジタルカウント)するため、高い再現性を有する正確なデータが得られる。

また逆転写やPCRといった酵素反応が不要なため、従来、核酸の損傷により解析困難だったホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)標本による解析も可能で、3日で結果が得られるなどの利点がある。

報告者の米ベイラー医科大学のMatthew J. Ellis氏は「コストも低く、各施設の研究室での評価や臨床試験にも適している」とした。現在20カ国以上で使用可能となっており、院内病理室でも採用されている。

●Curebest 95GC

大阪大学でER+N−乳がんの予後予測のために開発された本邦発の検査法。公共データベースから抽出した抗がん薬未使用のER+N−乳がん549例の遺伝子発現(マイクロアレイ)データと予後情報から、再発に関連する95遺伝子群を同定し、再発予後をhigh(高)、low(低)の2群に分けるモデルを構築した。外部validation set(バリデーションセット)での検証も行われている。

生検体を用いたマイクロアレイ解析であり、5万4,000箇所の全遺伝子の発現情報も同時に取得しうる。現在取り組んでいるER+乳がんの晩期再発予測モデル42GC、ルミナルタイプ乳がんの術前化学療法(NAC)後の再発予後予測モデル155GCなど、複数の多遺伝子検査を同時に実施でき、検査後にはコストの追加なく各施設で高品質のマイクロアレイデータベースを構築しうる利点もある。

発表者の大阪大学の直居靖人氏は「新たな研究開発や疾患マーカーの検索が可能で、乳がんの個別化治療を推進する上でも有用な診断法」としている。2013年に解析の受託サービスが開始され、現在、50以上の国内病院施設で使用されている。

また、Curebest 95GCに関してはこれまで国内での多施設臨床研究の報告はなかったが、今回、四国がんセンターの高橋三奈氏は、国内5施設の後方視的研究結果として、低リスク群における無再発生存率(RFS)は高リスク群よりも有意に良好だったことを報告した。

今後のエビデンスの積み重ねに期待

このように、検査法によって評価する遺伝子数や解析方法は異なるが、いずれの検査も予後因子として高い性能を有することが種々の臨床試験で検証されており、これらの検査で低リスクに層別化された患者の予後は化学療法なしでも極めて良好であると言われている。しかし、その臨床試験が前向きであるか、または、その質や患者数が十分であるかどうかを考えると、それぞれの検査法のエビデンス(科学的根拠)レベルは同等とは言えない。

2015年に改訂された日本乳癌学会診療ガイドラインでは、「術後化学療法を行うかどうかを判断するために多遺伝子アッセイは勧められるか」のCQではOncotype DXのみが推奨グレードB(予後予測および化学療法の効果予測因子として勧められる)となっている。他の検査はC1(予後予測因子として考慮しても良い)となっている。

このほか、Prosigna PAM50は5年以降の予後因子としての期待が、またCurebest95GCは、国産の多遺伝子検査として今後のエビデンスの積み重ねが期待される。

一方、化学療法の効果予測因子としては、これまで前向き試験で検証されたものはなく、Oncotype DXのTAILORx試験の結果が待たれる。

エビデンス集積が進む中、期待される保険適用

多遺伝子発現検査の臨床検証の対象の大部分はER+HER2−N−乳がんだが、Oncotype DXでリンパ節転移陽性(N+)患者を対象とする前向き試験RxPONDERが進行中であるなど、今後ER+HER2−N+乳がんにも適応が広がる動きとなっている。

また、Prosigna PAM50の検証を行ったTrans ATAC試験の低リスク群は、ホルモン療法5年のみで10年、15年後も良好な予後が維持されており、Ellis氏は多遺伝子試験を長期ホルモン療法が必要な患者の層別化にも利用できるようになる可能性を示唆した。

今後、ますますエビデンスの集積が進み、適応可能な患者も増え、より多くの患者が術後補助化学療法を回避できるようになることが予想される中で、日本では日本乳癌学会、日本臨床腫瘍学会が保険適用を申請しているものの、現状では検査費用は患者負担である。

ただシンポジウムの座長を務めた埼玉医科大学乳腺腫瘍科の佐伯俊昭氏によれば、厚生労働省はゲノム医療に多大な関心を寄せており、来年(2018年)3月までに中核病院におけるゲノム医療のインフラ整備をする方向で動いているという。患者の費用負担が軽減され、医師もためらうことなく検査を推奨でき、検査によってより多くの患者で不要な治療の省略が可能となることが期待される。

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