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効果的な術後補助療法を行うための遺伝子検査法
遺伝子を調べて合理的な乳がん個別化治療を

監修:川端英孝 虎の門病院乳腺内分泌外科部長・東京大学医学部非常勤講師
取材・文:伊波達也
発行:2011年7月
更新:2013年4月

  
川端英孝さん
患者さんの利益を考える
川端英孝さん

乳がん患者さんにとって、再発リスクを防ぐ術後補助療法は、その副作用を考えれば効果的に行いたい。 そこで、乳がんの増殖や浸潤に関係する遺伝子を調べることで、予後と治療効果を予測しようという遺伝子検査の動向を追ってみた。

個別化治療が進む乳がん治療

がんの治療では、手術で取り切れない微小な転移をたたく術後補助療法が重要です。乳がんは、浸潤()がんの場合、通常は、画像検査で発見できない微小な転移の可能性を考えて、全身的な薬物療法を行います。

「手術や放射線治療を行った後にがんが再発するかどうかの確率は、腫瘍の大きさやリンパ節転移数などのがんの進行度とがんの性質とである程度予測できます。目の前の患者さんが、この人は2割程度再発するとか、4割程度再発するとかいうのがわかるのです。これをベースラインリスクといいますが、もともと4割再発すると予測される人がいて、その人に対して再発率を半分にできる薬物療法があればそれを行い、絶対値として20パーセントの方の命を救えるという考え方をしていきます。どういう条件の人にどういう治療を行えばどの程度効果があるのかがわかってきました。ですから、再発の危険性のある人には、抗がん剤、ホルモン療法、分子標的治療などから有効な治療法を選択して行うのです」

と話すのは、虎の門病院乳腺内分泌外科部長の川端英孝さん。

個々の乳がんが各種バイオマーカーや遺伝子の発現状況によってサブタイプに分類され、再発のリスクと治療効果が予測できるようになってきたため、乳がんは、他のがんと比べて患者さんごとに適した個別化治療が進んでいます。

「一般の人はがんというと、まずは早期がんかどうか、というがんの進行度だけを重視して病気の位置付けを理解しようとする傾向が強いと思われます。しかし、乳がんを考える上では、2つの座標軸をまず理解することが重要です。1つは病気の進行度という座標軸、もう1つはがんの性質という座標軸です。この2つの掛け合わせで個人の病気の位置付けを理解することが大切なのです」(川端さん)

浸潤=がん細胞が周辺にしみこむように広がること

5つに分けられる乳がんの性質

[図1 乳がんのタイプ別分類]

    ホルモン受容体陽性 ホルモン受容体陰性
HER2陰性 (低増殖能) ルミナルA
<ホルモン療法>
トリプルネガティブ
<化学療法>
(高増殖能) ルミナルB(HER2陰性)
<ホルモン療法+化学療法>
HER2陽性 ルミナルB(HER2陽性)
<ホルモン療法+化学療法+
分子標的療法>
HER2タイプ
<化学療法+分子標的療法>

ホルモン受容体()とHER2受容体のプラスマイナスの組み合わせで2×2の4つに分類し、ホルモン受容体陽性、HER2受容体陰性のタイプをさらに増殖能の高低で2つに分類することで、乳がんを5つのタイプに分類することが今の基本的な考え方になっています(図1)。2011年3月のザンクトガレン会議でも、この5つの分類が明確に支持されました。

ホルモン受容体[ER( エストロゲン()受容体)、PR( プロゲステロン()受容体)]陽性、HER2受容体陰性でがんが低増殖能のルミナルA、同じパターンで高増殖能のルミナルB(HER2陰性)、ホルモン受容体陽性でHER2受容体陽性のルミナルB(HER2陽性)、ホルモン受容体陰性でHER2受容体陽性のHER2タイプ、ホルモン受容体陰性でHER2受容体陰性のトリプルネガティブの5つのサブタイプに分けられ、ホルモン受容体陽性ならホルモン治療が、HER2受容体陽性ならハーセプチン()という分子標的治療が、そしてがんの増殖能の高い場合には抗がん剤治療が選択され、実際にはこれらの選択肢を組み合わせて治療が行われます。

ホルモン受容体が陽性で、HER2受容体が陰性のタイプは全体の約60パーセント以上を占め、このなかで、典型的なルミナルAはホルモン療法のみ、典型的なルミナルBはホルモン療法+抗がん剤を行いましょうというのが治療の基本になっています。

しかし、がんの増殖能が高いかどうかの区別は意外に難しく、結果として多くの患者さんがホルモン療法に加えて毒性の強い抗がん剤をやるかどうかで悩むことになっているのです。

「無駄な治療をやめて必要な人にだけに毒性の強い治療をするというのは、必然の流れです。バイオマーカーを使って、治療前の段階での選別が研究され、その流れの中で登場したのが遺伝子検査です」(川端さん)

そして、そのなかでもここ数年脚光を浴びているのが、オンコタイプDXとマンマプリントという検査法なのです。

受容体=生物の体にあって、外界や体内からの刺激を受け取り、情報として利用できるように変換する仕組みを持った構造のこと
エストロゲン=卵巣などから分泌し、乳線や子宮の発達を促進させる女性ホルモン。エストロゲン受容体と結合し、乳がん細胞の増殖に関わる
プロゲステロン=卵巣から分泌し、子宮に妊娠の準備を促す女性ホルモン。プロゲステロン受容体と結合し、乳がん細胞の増殖に関わる
ハーセプチン=一般名トラスツズマブ

ガイドラインに明記されるオンコタイプDX

オンコタイプDXという検査は、アメリカで開発されました(図2)。米国臨床腫瘍学会(ASCO)や、全米がん情報ネットワーク(NCCN)の乳がん治療ガイドラインに、術後の化学療法の効果予測をする検査として掲載されているもので、2008年の1年間に、50カ国で5万人以上の人がこの検査を受けています。

[図2 オンコタイプDXの検査標本]
図2 オンコタイプDXの検査標本

遺伝子の活性程度から予後の良し悪しを測るオンコタイプDX

[図3 21種類の遺伝子]

増殖セット Ki-67
STK15
Survivin
Cyclin B1
MYBL2
ERセット ER
PGR
BcL2
SCUBE2
浸潤セット Stromelysin3
Cathepsin L2
HER2
増殖セット
GRB7
HER2
他の遺伝子 GSTM1
CD68
BAG1
レファレンス Beta-actin
GAPDH
RPLPO
GUS
TFRC
浸潤・増殖・再発に関連する21の遺伝子

乳がんの再発に関連する21種類の遺伝子(16種類のがん関連遺伝子+5種類の対照遺伝子)について調べ、患者1人ひとりの再発の可能性と術後化学療法の治療効果を予測するものです(図3)。

検査の対象となるのは、当初はホルモン受容体陽性の浸潤性の乳がんで、リンパ節転移がないことが条件でしたが、現在はリンパ節転移があっても閉経後であれば検査対象になります。

検査はマンモトーム(乳房内の組織に針を刺して吸引する生検)検体もしくは手術検体を用い、乳がん組織のなかの遺伝子を調べ、トータル3週間程度で結果が判明します。

検査結果は、再発のリスクを0から100の数値で表し、低リスク(18未満)、中間リスク(18~30)、高リスク(31以上)に分類されます。この数値により、高リスク群についてはホルモン療法に化学療法を加えると上乗せ効果が出ますが、低リスクでは効果がほとんどないことがわかっています。とてもシンプルで患者負担も少ない検査なのですが、検査費用が45万円(+消費税)と高額で、保険は適用されません。

[図4 21遺伝子の活性から再発スコアの有用性を検証した結果]
図4 21遺伝子の活性から再発スコアの有用性を検証した結果


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