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患者の視点に立ち、治療の流れに沿ってさまざまな治療法を集約してまとめた
乳がんの新『薬物療法ガイドライン』は、ここが大きく変わった

監修:中村清吾 昭和大学医学部乳腺外科教授・昭和大学病院ブレストセンター長
取材・文:柄川昭彦
発行:2010年10月
更新:2013年4月

  
中村清吾さん
昭和大学医学部
乳腺外科教授の
中村清吾さん

2010年6月に刊行された『乳癌診療ガイドライン薬物療法』改訂第3版は、治療法全体を理解するための総論やアルゴリズムが加わり、推奨グレードも4段階から5段階に分かれるなど、より利便性が高められた。
ハーセプチンの術後療法がグレードBからAに格上げされるなど、最近の研究成果も盛り込まれている。

5つに分かれている乳がんのガイドライン

『乳癌診療ガイドライン薬物療法』改訂第3版

2010年6月、日本乳癌学会がまとめた『乳癌診療ガイドライン薬物療法』の改訂第3版が刊行された。

04年に第1版、07年に第2版が出ているので、3年ぶりの改訂になる。国内外の研究によって3年分の新たなエビデンス(科学的根拠)が蓄積され、改訂版に反映されたわけである。

『乳癌診療ガイドライン』は、(1)薬物療法、(2)外科療法、(3)放射線療法、(4)検診・診断、(5)疫学・予防の5分冊になっている。薬物療法は第3版が出たが、それ以外の(2)~(5)については、05年に第1版、08年に第2版が出たが、まだ第3版は出ていない。

乳がんの診療ガイドラインはなぜ分冊になっているのだろうか。日本乳癌学会診療ガイドライン委員会委員として、ガイドラインの作成に携わってきた昭和大学医学部乳腺外科教授の中村清吾さんは、次のように答えてくれた。

「理由は2つあります。1つは、専門分化が著しく進んできており、分けて改訂したほうが合理的なこと。もう1つは、薬物療法を改訂するときには、そこにかなりのマンパワーが必要とされるため、他の分野まで手が回らなくなってしまうことです。ただし、理想を言えば、すべてのガイドラインを同時期に改訂すべきでしょう。とくに薬物療法に関しては、進歩のスピードから考えて、3年に1回の改訂では遅いのではないかというご批判もあります」

日本乳癌学会は、現時点では診療ガイドラインをウェブ化していないが、乳がんの薬物療法の変化は目覚ましいため、ウェブの速報版が登場する可能性もありそうだ。

今回の改訂で目指したのは使いやすいガイドライン

10年版の薬物療法の診療ガイドラインは、07年版と比べた場合、構成が大きく変わっている。07年版の目次には、「治療の基本原則」「ホルモン療法」「HER2陽性()に対する治療」「化学療法」といった項目が並んでいる。つまり、治療法ごとに分けて解説されていたのだ。これに対し、10年版の目次を見ていくと、「乳癌薬物治療の基本原則」「初期治療(術前治療)」「初期治療(術後治療)」「転移・再発乳がんの治療」というように変わっている。

07年版では、たとえば、「ホルモン療法」についてまとめたところに、術後ホルモン療法についても、転移・再発がんに対するホルモン療法についても記載されていた。抗がん剤による化学療法など、ほかの治療について調べるためには、それぞれについて解説されたページを探す必要があったわけだ。

10年版では、たとえば、術後治療が行われるのであれば、そのページだけ見れば、どのような治療があり、何が勧められるのかが網羅的に解説されている。

「そもそもガイドラインというのは、専門医以外の一般診療科の医師、あるいは患者さんが、これから行われる診療に関して、何が標準的で、選択肢としてどのようなものがあるのかといったことを、きちんと理解できるものでなくてはいけません。治療法別の構成だと、患者さんの置かれている状況に合わせて、いろいろな分野から情報を探し出してくるのが大変です。そこで、今回は治療の流れに沿った形で、いろいろな治療法の情報を集めた構成になっています」

これが構成に関する最も大きな変更点だ。臨床現場で使いやすいガイドラインを目指し、情報の並び替えが行われたわけである。

HER2陽性=乳がんのがん細胞に増殖を促す受容体であるHER2タンパクが多いことで、ハーセプチンによる治療が適応となる

治療全体を見通せるアルゴリズムを掲載

具体的な治療に関しては、全部で44のクリニカルクエスチョン(診療上の問題。CQ)と、それに対する回答という形で解説されている。この形式は第1版から変わっていないが、今回の改訂では、これに「総論」が加わった。薬物療法全体を見通した総論「乳癌薬物治療の基本原則」が巻頭にあり、さらに、術前治療、術後治療、転移・再発乳癌の治療、効果予測因子、副作用対策の各項目にも、それぞれ総論が加えられたのだ。

「それぞれの治療の基本的な考え方が総論にまとめられています。そこから読んでもらえば、CQで扱われている内容が、術後治療や転移・再発治療の中で、どういう位置を占めているのかがわかるようになっています」

[クリニカルクエスチョン(CQ)の例]

[1]ホルモン受容体陽性原発乳がんに対して術前内分泌療法は勧められるか
推奨グレードC1 閉経後患者に対して術前内分泌療法を行った場合、予後への影響は明らかでないが、乳房温存率は向上する。
推奨グレードC2 閉経前患者に対する術前内分泌療法の意義は明らかでないので基本的には勧められない。
以下、CQとして取り上げた背景・目的、CQの回答を捕足する解説、CQに関する調査方法や参考文献が続く

さらに、10年版からは、診療の進め方を図示した「アルゴリズム」も掲載されている。

「アルゴリズムから該当するCQにたどり着ける構成で、索引のような目的でも使えます」

アメリカで広く使われているNCCN(米国包括的がんセンターネットワーク)のガイドラインには、アルゴリズムが載っている。いいところは採り入れようということで、10年版から入れることにしたのだという。

[乳がんガイドラインのアルゴリズム]

図:乳がんガイドラインのアルゴリズム

CQ○○とあるのは、該当する番号が関連するCQであることを示す


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