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臨床研究によって、1センチの早期乳がんが適応とされた
「傷をつけない治療」乳がんのラジオ波焼灼療法、実際の効果は?

監修:木下貴之 国立がん研究センター中央病院乳腺科・腫瘍内科副科長
取材・文:斉藤勝司
発行:2010年10月
更新:2013年4月

  
木下貴之さん
国立がん研究センター中央病院
乳腺科・腫瘍内科副科長の
木下貴之さん

肝がんでは広く普及しているラジオ波焼灼療法。その治療法の乳がんへの応用が行われている。
がんをラジオ波で焼いて殺す。電極を入れるだけでよいため、手術のような大きな傷が残らないことから、患者さんの期待は大きいが、実際の効果はどうなのだろうか。

正確な位置とがんの大きさがラジオ波焼灼の決め手

写真

MRIと超音波が連動した画像で、がんの位置を正確に確認しながらラジオ波の電極を入れる

国立がん研究センター中央病院の手術室。乳腺科・腫瘍内科副科長の木下貴之さんとともに、この日の治療を担当する医師が乳房に超音波(エコー)のプローブを滑らせながら、時間をかけて電極を刺す位置決めを行っている。

この日、行われるのは乳がんのラジオ波焼灼療法。乳房にあるがんに針状の電極を刺し、そこから発する電流でがんを焼いて壊死させる。それだけに木下さんたちは納得できる位置が見つかるまで決して電極を刺すことはない。

「刺した電極ががんから外れていては、がんを焼灼することはできません。電極を刺す方向、深さを決める際は、どうしても慎重になりますね。特に今日のように超音波の画像診断でも小さくてわかりにくいがんが相手となると、より慎重になり、時間がかかってしまいますね」

この日の患者さんは58歳。左乳がん術後の定期検査で今度は右の乳房にがんが見つかった。幸い、数ミリという小さながんであったが、それが故に、エコーだけでは確認しにくかったのだ。

画像機器の進歩もラジオ波の大きな力に

「通常、超音波画像診断でがんを観察しながら電極を刺します。この患者さんの場合、がんが数ミリという小さなもので、しかも超音波ではわかりにくかったことから、MRI(核磁気共鳴画像法)の画像に超音波画像を重ねて示す新しいシステム(リアルタイム・ヴァーチャル・ソノグラフィ)を導入して実施することになりました」

超音波で画像化しにくいがんであっても、精細にがんをうつし出せるMRIの画像と連動させることで、正確にがんの位置、形状を捉えられる。さらに乳頭や胸骨など、動かないものを基準にして、がんの正確な位置を確認し、その中心に電極を入れるのだ。

がんの焼灼の前に、まずセンチネルリンパ節生検()が行われた。

「事前の画像診断でがんが乳房にとどまっていると判断されても、センチネルリンパ節にがんが転移していれば、リンパ節の郭清が必要となります」 摘出されたセンチネルリンパ節が術中病理診断に回された。

センチネルリンパ節生検=乳房のがん細胞が、リンパ管を通って最初に流れ着くセンチネルリンパ節を検査し、ここに転移がなければ、その先のリンパ節にも転移がないと判断される

がんを焼灼する熱によるやけど対策に注力する

写真

ラジオ波による焼灼は、表面の皮膚がやけどしないように氷を当てながら行われる

写真:電極
写真:ジェネレータ

ラジオ波を出す電極(上)。ラジオ波を発生させるジェネレータ(下)に接続して使用する

この後、電極を刺す前に周囲の正常な組織ががんを焼灼する際に発生する熱や電流そのものによって、やけどしないようにするため、がんの周囲の皮膚側、筋肉側に5パーセントブドウ糖溶液を注入して保護し、いよいよラジオ波によるがんの焼灼が始まった。

ラジオ波焼灼が行われている傍らでは、氷が入った袋で乳房が冷やされている。皮膚のやけどを予防するためだ。

こうして電極を入れ、電流を流し始めれば、通常、7~8分で焼灼は終了する。がんが焼灼されたかどうかは、電極先端の温度計の計測で60度を超えれば、十分に焼灼されたと判断される。実際、この日の患者さんに対しても、焼灼中の電極の先端が捉えた温度は66度だった。

ところが、電極をわずか1センチ動かしただけで、ラジオ波を発するジェネレータの表示に示された温度は48度にしか上がっていない。これでは十分に焼灼できていないかもしれない。焼灼しきれなかったがんを乳房に残すようなことがあっては、再発のリスクを見過ごすことになってしまう。「念には念を入れて、焼灼しなければ」と、木下さんが言うように、再度、電極を刺して、焼灼が行われた。

すると、次は3分とたたずに「ブレイクしました」と、ジェネレータ脇に陣取るスタッフが声を上げる。

「ブレイク」とは、刺した電極が捉えた電気抵抗が一定の数値を超えたことで、ラジオ波の発生が自動的に止められることをいう。組織がラジオ波で焼灼されると、細胞から水分が失われ、電気抵抗が高まる。

電気抵抗の高まりを捉えることで、十分にがんが焼灼されたと判断されてブレイクが起こるのだが、2度目とはいえ、3分とたたずにブレイクするのは早すぎる。

「患者さんの体内に流す電流は、太腿に貼った対極板に逃がすようになっています。ただし、患者さんの脂肪が多い場合などは全身の電極が高くなり、対極板を太腿に貼っていては、十分にがんを焼灼できていなくてもブレイクになってしまうことがあります。またこの患者さんは、病変が小さかったために早くブレイクしてしまったものと考えられます」

そこで、脂肪により電気抵抗が高まるのを抑えるため、乳房により近いところに対極板を貼り直すことがあるが、この日の患者さんに対しては背中に対極板を貼り直して、再度、電極を入れ、焼灼が続けられた。

焼灼前に病理検査に回されたセンチネルリンパ節生検の結果も、陰性であることが知らされ、リンパ節の郭清を行うことなく、治療は終了した。

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