1. ホーム > 
  2. 各種がん > 
  3. 乳がん > 
  4. 乳がん
  • rate
  • rate
  • rate

新ガイドラインで推奨。国際的にも認められた重要な選択肢
乳がんの術後補助化学療法として新たに注目を集めるTC療法

監修:向井博文 国立がん研究センター東病院化学療法科医長
取材・文:坂本悠次
発行:2010年10月
更新:2014年1月

  
向井博文さん
国立がん研究センター東病院
化学療法科医長の
向井博文さん

新たに2010年6月に改訂された乳がんの薬物療法ガイドラインにおいて、実践すべき術後の補助化学療法としてアンスラサイクリン系薬剤を含まないTC療法が新たに推奨された。
無病生存率と生存率について、従来のアンスラサイクリン系薬剤を含んだ補助化学療法を上回る治療成績が立証されたためだ。

TC療法を推奨した新ガイドライン

新たに改訂された2010年版『科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン』が、第18回日本乳癌学会学術総会で発表されたのは2010 年の6月。その中で、再発予防を目的とする術後補助化学療法として、タキソテール(一般名ドセタキセル)とエンドキサン(一般名シクロホスファミド)を組み合わせたTC療法が、推奨される新たな治療法の1つとして取り上げられ、大きな注目を浴びています。

「具体的には『原発乳癌に対してアンスラサイクリンを含まない術後化学療法は勧められるか』という臨床的問題=クリニカルクエスチョン(CQ)に、『アンスラサイクリンを含まない治療を治療選択肢に加えることは勧められる』との回答が明記されたのです。加えて、その回答は『科学的根拠があり、実践するよう推奨する』=推奨グレードBに該当すると提示されたのです」

こう指摘するのは、2010年版『乳癌診療ガイドライン薬物療法』のガイドライン作成委員長を務めた国立がん研究センター東病院化学療法科医長の向井博文さんです。

大きな注目を浴びていた新しい術後化学療法

新ガイドラインのCQで記述されているアンスラサイクリンとは、がん細胞のDNAやRNAなどの合成を阻害するタイプの抗がん剤のことです。

「アドリアシン(一般名ドキソルビシン)やファルモルビシン(一般名エピルビシン)などがありますが、これらは乳がんの再発を予防する補助化学療法のなくてはならないキードラッグの1つです。AC療法(アドリアシン+エンドキサン)をはじめ、EC療法(ファルモルビシン+エンドキサン)やFEC療法(5―FU〈一般名フルオロウラシル〉+ファルモルビシン+エンドキサン)など乳がんの主要な補助化学療法は、いずれもアンスラサイクリンを含む多剤併用療法であり、ここ10年の間に、乳がん補助化学療法として広く普及してきました」

ところが、ここにきてちょっとした変化が見られるようになりました。数年前から、アンスラサイクリンを含まない術後補助化学療法にも、熱い視線を送る乳がん専門医が増えてきたのです。それは、TC療法が乳がんの再発予防に有効である、との報告が発表されるようになったためです。

無病生存率と生存率でAC療法を凌駕

決め手となったのは、2007年に第30回サンアントニオ乳がんシンポジウムで発表されたUSオンコロジー9735試験という臨床試験の結果です。

「9735試験は、アンスラサイクリンを含まないTC療法と、アンスラサイクリンを含むAC療法の乳がん再発予防効果を比べた臨床試験です。7年無病生存率(TC療法81パーセント、AC療法75パーセント)と7年生存率(TC療法87パーセント、AC療法82パーセント)において、いずれもアンスラサイクリンを含まないTC療法のほうが有意に優れている、ということが明らかにされたのです」(図)

[TC療法とAC療法の無病生存率]
図:TC療法とAC療法の無病生存率
[TC療法とAC療法の生存率]
図:TC療法とAC療法の生存率

出典:USオンコロジー9735試験 Jones S, et al. J Clin Oncol. 27(8): 1177-83, 2009

新版ガイドラインのCQの解説にも、9735試験の治療成績の結果が記述されており、アンスラサイクリンを含まない術後化学療法を推奨する重要な根拠の1つとされています。

「TC療法の治療成績がAC療法のそれを上回った事実は、世界中の乳がん専門医たちに大きなインパクトを与えました。米国では、新たな術後補助化学療法としてTC療法が認知され、TC療法を受ける早期乳がんの患者さんが年を追うごとに増えているのです」

再発予防のための乳がん補助化学療法は、これまでアンスラサイクリンを含む多剤併用療法が大勢を占めてきました。しかし、今やアンスラサイクリンの代わりに、もう1つのキードラッグ=タキサン系抗がん剤(タキソテールなど)を含む新たな併用療法のTC療法が登場し、重要な選択肢の1つとして国際的にも認められているのです。

TC療法が適切なのは中間リスク群の患者

がんの再発予防を目的とする補助化学療法は、個々の乳がんの生物学的特性、すなわちHER2タンパク()の過剰発現とホルモン受容体の有無を踏まえ、3段階の再発リスク分類に応じて、適切な治療法を選択して行うのが基本です。

「HER2タンパクの過剰発現の有無によってハーセプチン(一般名トラスツズマブ)を投与するか否かを決め、ホルモン受容体の有無によってホルモン療法を行うか否かを判断します」

再発リスクは、(1)腫瘍の大きさ、(2)患者さんの年齢、(3)悪性度、(4)血管やリンパ管への浸潤の有無などによって低リスク、中間リスク、高リスクの3段階に分けられます。

「中間リスクの乳がんに広く行われてきたのが、先のAC療法やEC療法などのアンスラサイクリンを含む補助化学療法です」

一方、高リスクの乳がんには、AC療法やEC療法などに、さらにタキソテールやタキソール(一般名パクリタキセル)などのタキサン系抗がん剤を追加投与するAC→T療法やEC→T療法などの補助化学療法が行われてきました。アンスラサイクリン系抗がん剤とタキサン系抗がん剤の2つを用いた補助化学療法によって、高リスクの患者さんに対して、よりしっかりと再発が抑えられるということが立証されています。

「従って、今回の新ガイドラインで新たに推奨されたTC療法は、中間リスクの乳がんに行うのが適切と考えられています」

実際、国立がん研究センター東病院では、すでに中間リスク群の患者さんにTC療法を積極的に行っており、その数は乳がん患者さん全体の約3割に上ります。

HER2タンパク=細胞の増殖を促す受容体。乳がんの場合、HER2が多ければ、ハーセプチンによる治療が適応となる

同じカテゴリーの最新記事

  • 会員ログイン
  • 新規会員登録

全記事サーチ   

キーワード
記事カテゴリー
  

注目の記事一覧

がんサポート4月 掲載記事更新!