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脱毛がほとんど起こらずQOLを高く保てる経口抗がん剤の実力が評価された
乳がん術後薬物療法に新しい選択肢が登場

監修:稲治英生 大阪府立成人病センター乳腺・内分泌外科主任部長
取材・文:柄川昭彦
発行:2010年10月
更新:2013年4月

  
稲治英生さん
大阪府立成人病センター
乳腺・内分泌外科主任部長の
稲治英生さん

2010年に改訂された『乳癌診療ガイドライン1薬物療法』(2010年版)には、術後薬物療法の新たな選択肢が加えられている。
旧版では、エビデンス(科学的根拠)が十分ではないとされていた経口抗がん剤「UFT」の実力が、認められたのだ。
日本人の患者さんを対象に、日本で行われた臨床試験のデータが評価され、今回の改訂につながったのだという。

ポジティブな意味を持つ「推奨グレードC1」に

経口抗がん剤のUFT(一般名テガフール・ウラシル)が誕生したのは1984年のことである。それ以前は、乳がんにはテガフールなどの経口フッ化ピリミジン系薬剤が広く使われていたが、それを改良し、UFTが生み出されたのだ。

大阪府立成人病センター乳腺・内分泌外科主任部長の稲治英生さんは、1970年代、1980年代に、テガフールやUFTを乳がんの治療に用いた経験を持っている。

UFTは副作用が少なく、術後薬物療法としても使いやすい薬だったという。

ところが、その後、UFTは臨床の現場であまり使われなくなっていった。EBM(科学的根拠に基づく医療)全盛の時代になり、海外の臨床試験で効果が証明された薬剤が導入されるようになったからである。

UFTの仲間である経口フッ化ピリミジン系薬剤は、2004年版の『乳癌診療ガイドライン』では、術後薬物療法として推奨グレードCと評価された。これは、「エビデンスが十分とはいえないので、日常診療で実践することは推奨しない」という意味である。

2007年版でも、推奨グレードCのまま。ただ、その意味が「エビデンスは十分とはいえないので、日常診療で実践する際は十分な注意を必要とする」と変化していた。

推奨グレードについて、診療ガイドライン委員会評価委員の稲治さんはこう解説する。

「2007年版の推奨グレードCは、投与するのがいいのか、投与しないほうがいいのか、判断に迷うものでした。そこで、最新の2010年版では、推奨グレードをC1とC2に分け、C1には肯定的な、C2には否定的な意味合いを持たせてあります」

2010年版のガイドラインでは、術後薬物療法としてのUFTはエビデンスとなる臨床試験結果が出そろったことで、推奨グレードC1がつけられ、飲んだほうが良いことになってきたのである。 UFTは術後薬物療法の1つの選択肢として、評価されることになったのである。

ガイドラインにおけるUFTの評価が変化したのは、重要な臨床試験結果が論文となって発表されたからだった。2010年版の改訂では、「N・SAS-BC01試験」と「CUBC試験」、さらに両臨床試験の統合解析が重要なエビデンスとなった。

UFTは日本人を対象にして臨床試験が行われた

稲治さんによれば、それぞれの臨床試験が明らかにしたのは、次のようなことだ。「N・SAS-BC01試験」では、リンパ節転移がなく再発リスクの高い患者さんを対象にして、UFT2年間の服用とCMF(シクロホスファミド+メトトレキサート+フルオロウラシル)療法との比較が行われた。その結果、再発抑制効果は同等であることが示唆され、QOL(生活の質)はUFTのほうが良好に保たれることが明らかになった。

「CUBC試験」では、リンパ節転移のある患者さんを対象に、UFT+タモキシフェンとCMF療法+タモキシフェンの比較が行われた。この試験においても、UFTのCMF療法に対して、同等であることが示唆され、とくにホルモン感受性(ホルモン療法実施の指標となる性質)が陽性の人では、UFTのほうが再発抑制効果が高いとの結果が出た。

以上の2つの臨床試験の統合解析の結果が、ここに示すグラフである(図1)。ホルモン感受性が陽性の人では、飲み薬であるUFTと注射薬であるCMF療法の再発抑制効果は同じことが証明されている。とくに、50歳以上の方でUFTの効果が高いことが示唆された(図2)。

[図1 ホルモン感受性陽性症例におけるUFTとCMF療法の無再発生存率]
図1 ホルモン感受性陽性症例におけるUFTとCMF療法の無再発生存率

N・SAS-BC01&CUBC試験統合解析結果 Ohashi Y,et al.Breast Cancer Res Treat 119:633-641,2010

[図2 ホルモン感受性陽性/50歳以上での無再発生存率]
図2 ホルモン感受性陽性/50歳以上での無再発生存率

N・SAS-BC01&CUBC試験統合解析結果 Ohashi Y,et al.Breast Cancer Res Treatt 119:633-641,2010

「次々とUFTのエビデンスが蓄積されてきたことが、ガイドラインに反映されたわけです。この臨床試験のすべてが、日本人の乳がん患者さんを対象にして、日本全国の病院で行われたという点も特筆すべきことでしょう」

これらの臨床試験の結果、UFTを2年間服用することが重要だということになる。

抗がん剤の効きにくいルミナルAに有効

現在、乳がんの治療は個別化の方向に向かって進んでいる、と稲治さんは言う。乳がんのタイプ分類をきちんと行い、それぞれにふさわしい治療が行われるようになっているのだ。

「今、薬物療法で話題になっているのは、ルミナルAというタイプの乳がんです。ホルモン感受性が陽性で、HER2(トラスツズマブ使用の指標となる遺伝子発現)が陰性患者さんの大部分がこれに当たり、UFTに対する期待が大きくなりそうです」

ホルモン感受性が陽性だと、乳がん治療で中心的に使われてきた点滴で投与する抗がん剤の効果が低いことも分かってきている。その点、ホルモン感受性陽性で特に有効だったUFTには、期待がかかるというわけだ。

「たぶんこれからは、UFTがルミナルAの化学療法の中心的な存在となっていくのではないかと思います」

ルミナルAは乳がん患者さん全体の7割ほどを占めている。その中で、リンパ節転移がない患者さんの一部がUFTの対象となるようだ。

UFTは飲み薬なので、点滴のための通院が不要というメリットがある。副作用として食欲不振や肝機能異常をきたすことはあるが、少なくとも点滴で投与する抗がん剤に比べれば、副作用ははるかに軽いという。

「脱毛がほとんど起きないのは、女性の患者さんにとって大きな利点でしょう。脱毛はいずれ回復しますが、毛質が変わってしまうなどQOLを低下させる重要な要因ですからね」

UFTは患者さんにやさしい抗がん剤と言えそうだ。

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