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乳がんホルモン療法の最新動向 SABCS 2009より
さらに広がる選択肢。最適の個別化治療をみつけるために

監修:山下啓子 名古屋市立大学病院乳腺内分泌外科部長
取材・文:中西美荷 医学ライター
発行:2010年3月
更新:2013年4月

  
山下啓子さん
名古屋市立大学病院
乳腺内分泌外科部長の
山下啓子さん

サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)。ひとつのがんについての学会としては、世界でも最も大規模な学会の1つです。
今回も90カ国以上から9000人近い医師や医療関係者が集い、乳がんに関する最新の研究成果や臨床試験の成績が報告されました。
アロマターゼ阻害剤を中心に、ホルモン療法に関する最新情報を紹介します。

最大規模の試験TEAMの最終結果が発表に

乳がんの約7割は女性ホルモンの受容体を発現しており、その増殖には女性ホルモンであるエストロゲンが深く関わっています。その働きを抑えることで乳がんの増殖や進行を抑制する治療法がホルモン療法です。長きにわたって、乳がんの術後ホルモン療法の中心的役割を果たして来たのは、エストロゲンの機能を抑制する薬剤(選択的エストロゲン受容体機能調節物質:SERM)のひとつであるタモキシフェンでした。しかし最近、閉経後女性における乳がんの再発を防ぎ、生命予後を改善するためには、エストロゲンそのものの合成を抑制する作用を有するアロマターゼ阻害剤のほうが、より優れた薬剤であることが明らかになってきています(図1)。

[図1 タモキシフェンおよびアロマターゼ阻害剤によるホルモン療法]
図1 タモキシフェンおよびアロマターゼ阻害剤によるホルモン療法

現在、術後のホルモン療法に用いられているアロマターゼ阻害剤は、アリミデックス(一般名・アナストロゾール)、フェマーラ(同・レトロゾール)、アロマシン(同・エキセメスタン)という3種類の薬剤です。このうち、アリミデックスとフェマーラの臨床試験のメタ解析(注1)では、アロマターゼ阻害剤を手術後の初期治療として服用すること(イニシャルアジュバント)によって、タモキシフェンと比較して23パーセント、乳がんの再発を抑制することが示されています。

またアロマシンについても、アロマシンを5年間服用するイニシャルアジュバント治療とタモキシフェンからアロマシンへのスイッチアジュバント治療とを比較したTEAM試験の約3年(2.75年)の時点で行われた第1回解析結果が前回のSABCSで発表されました。アロマシンをイニシャルアジュバントとして服用したグループのほうが、タモキシフェンで開始したグループよりも、再発のリスクが低いことが示されています。

今回のSABCSでは、TEAM試験の最終解析結果が発表されました。日本を含む9カ国から、ホルモン感受性乳がんの閉経後女性、実に9779名という多くの患者さんが参加した国際共同試験(図2)だったこともあり、大きな注目が集まりました。

注1 メタ解析=複数の試験を集めて、第3者が基準を統一して、客観的かつ総括的に薬剤の効果を評価する方法
TEAM=Tamoxifen Exemestane Adjuvant Multinational

[図2 TEAM試験のデザイン]
図2 TEAM試験のデザイン

さらに確実になったアロマターゼ阻害剤の有用性

今回のTEAM試験の解析は、治療を開始してから約5年(中央値5.1年)の時点で行われ、アロマシン5年間のイニシャルアジュバントとタモキシフェンからアロマシンにスイッチしたふたつの治療法の比較で、転移や再発なしに生存している期間(DFS)、再発までの期間、生存期間(OS)は同等であることが示されました(表1)。

[表1 TEAM試験での解析結果]

解析項目 ハザード比 p値
無病生存期間(DFS)(ITT) HR=0.97
(95% 信頼区間 0.88-1.08)
0.604
再発までの期間(ITT) HR=0.94
(95% 信頼区間 0.83-1.06)
0.293
全生存期間(OS)(ITT) HR=1.00
(95% 信頼区間 0.89-1.14)
0.999

転移や再発が起こる可能性に注目してみると、術後2~3年まではアロマシンを服用している患者さんのほうが低くなっていますが、最初にタモキシフェンを服用していた患者さんでは、スイッチの時期を境にグラフの傾きが少し緩やかになっており、アロマターゼ阻害剤にスイッチしたことで、転移や再発が起こる可能性が低くなってきていることがわかります(図3)。

[図3 TEAM試験の結果 無病生存期間(DFS)]
図3 TEAM試験の結果 無病生存期間(DFS)

アロマターゼ阻害剤によるさまざまな治療オプション

この、タモキシフェン2~3年服用後のアロマシンへのスイッチアジュバント治療は、IES試験において、タモキシフェンを5年間服用する治療と比べて、生存期間が延長したことが、2004年に報告されています。さらに、2009年9月に開催された第15回欧州がん学会(ECCO)、第34回欧州臨床腫瘍学会(ESMO)で、タモキシフェンからアロマシンへのスイッチアジュバント治療では、試験開始から中央値で91カ月(7年7カ月)経過した現在でも、転移や再発なしに生存している期間や生存期間に対する有意な改善効果が継続しているという成績が報告されています(図4)。

[図4 IES試験の結果 全生存率(ホルモン受容体陰性の患者さんを除く)]
図4 IES試験の結果 全生存率(ホルモン受容体陰性の患者さんを除く)

また、IES試験とアリミデックスの臨床試験を合わせたメタ解析では、タモキシフェン治療の後にアロマターゼ阻害剤に切り替えたスイッチアジュバント治療は、タモキシフェン単独での治療に比べて29パーセント、再発や転移のリスクを抑えることが示されています。

今回のTEAM試験の結果について、名古屋市立大学病院乳腺内分泌外科の山下啓子さんは、「閉経後のホルモン受容体陽性の乳がんにおいては、これまでに、タモキシフェンよりもアロマターゼ阻害剤のほうが術後2年以内の再発を抑える効果が優れていることが示唆されていました。今回の結果は、タモキシフェンで術後ホルモン療法を開始した患者さんでも、早期の再発を乗り切ることができれば、その後、アロマターゼ阻害剤に変更することによって、最初からアロマターゼ阻害剤を服用されている患者さんと同等の再発抑制効果と生存期間が得られることを示すものです。5年間というホルモン療法全体を考える時、アロマターゼ阻害剤は、初期治療としても、タモキシフェンからのスイッチ治療においても、非常に有用な薬剤であることが、改めて確認されたといえるでしょう」と解説しています。

IES=Intergroup Exemestane Study

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