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通常の抗がん剤が効きにくい乳がんの術後の治療に経口抗がん剤が効果を発揮
タイプによって抗がん剤を使い分ける乳がんの術後化学療法

監修:中山貴寛 大阪大学大学院医学系研究科乳腺・内分泌外科助教
取材・文:柄川昭彦
発行:2010年3月
更新:2013年4月

  
中山貴寛さん
大阪大学大学院医学系研究
科乳腺・内分泌外科助教の
中山貴寛さん

最近の乳がん治療は、遺伝子の発現パターンによって乳がんを分類し、治療法を使い分ける方向に進んできた。
日本人に多い「ホルモン受容体陽性・HER2陰性」タイプの乳がんには、通常の抗がん剤治療は効きにくい。
こうしたタイプの術後治療には、ホルモン療法に経口抗がん剤である「UFT」を併用するのが効果的だということが証明された。

乳がんの治療では個別化治療が進んでいる

ここ数年、乳がんの治療が大きく変わってきた。かつては、低リスク、中リスク、高リスクに分類し、リスクだけを見て画一的な治療が行われていた。ところが、研究が進むに従って、乳がんといってもいろいろなタイプがあり、そのタイプによって、効果的な治療法が異なることがわかってきたのだ。

大阪大学大学院医学系研究科助教の中山貴寛さんは、次のように語っている。

「いろいろな種類のがんが、乳がんという1つのカテゴリーに入ってしまっています。そこで、最近では、それぞれのがんの性質をもとに、適切な治療法を選んで行うようになってきました。かつてのように、リスクが高いからみんな化学療法とか、リスクが低いからホルモン療法だけでいい、ということはなくなっています。がんの性質を調べ、なおかつ患者さんの意向を加えて、個別化治療が行われるようになっているのです」

そうした状況で、注目されているのが、術後化学療法におけるUFT(一般名テガフール・ウラシル)である。

抗がん剤が効きにくいタイプの乳がんに有効

近年、乳がんは遺伝子発現のパターンで分類されているが、そのタイプによって、薬の効き方が大きくことなることが明らかになっている。たとえば、ルミナルAというタイプの乳がんは、ホルモン感受性(ホルモン療法を行うかどうかの指標となる性質)が陽性で、HER2(ハーセプチンによる治療を行うかどうかの指標となる遺伝子発現)が陰性のことが多い。このタイプの乳がんは、従来行われてきた化学療法の効果が高くないことがわかっている。

「乳がんの治療で使われるアンスラサイクリン系抗がん剤(ドキソルビシン、エピルビシンなど)やタキサン系抗がん剤(パクリタキセル、ドセタキセル)は、〈ホルモン感受性陰性・HER2陽性〉の乳がんには良好な治療成績を残しますが、ルミナルAのような〈ホルモン感受性陽性・HER2陰性〉の乳がんには、効果が低いことが明らかになっています」

アンスラサイクリン系抗がん剤も、タキサン系抗がん剤も点滴で投与する抗がん剤で、乳がんの化学療法の中心的な役割を果たしている。これらの抗がん剤が効きにくい乳がんに、経口抗がん剤であるUFTの効果が見直されている。

UFTは、5-FU(一般名フルオロウラシル)という抗がん剤を改良して誕生したもので、すでに25年ほど前に登場している。わが国においては、1980年代から乳がんの術後化学療法に関するたくさんの無作為化比較試験が行われている。その結果からも、〈ホルモン感受性陽性・HER2陰性〉乳がんの術後治療では、UFTが有力な選択肢の1つになり得ることが明らかになっている。

ホルモン療法との併用で上乗せ効果が確認された

中山さんが示してくれたのは、次のような臨床試験である。

図1に示したのは、ホルモン感受性陽性でリンパ節転移のない患者さんを対象にした比較試験の結果。ホルモン療法として抗エストロゲン剤のタモキシフェンを投与した〈タモキシフェン単独群〉より、それにUFTを併用した〈UFT+タモキシフェン群〉のほうが、再発しないで生存する期間が長いことがわかる。

[図1 UFT+タモキシフェン療法の効果(無再発生存期間)]
図1 UFT+タモキシフェン療法の効果(無再発生存期間)

Nakamura S, et al. Clin Oncol 2006; 24: 18S PT1(Proc ASCO abstracts)

図2に示したのは、術後治療におけるCMF(シクロホスファミド、メトトレキサート、5-FUの併用)療法とUFTの効果の比較である。2つの臨床試験結果を統合解析しても、UFTが標準治療のCMF療法に対して劣っていないことが証明されている。

[図2 ER陽性患者に対するUFTとCMF療法の比較(無再発生存期間)]
図2 ER陽性患者に対するUFTとCMF療法の比較(無再発生存期間)

Ohayashi Y, et al. Breast Cancer Res Treat(2010)119: 633-641

この臨床試験の結果を、さらに年齢とホルモン感受性の状況という要素を加えて解析した結果、ホルモン感受性陽性で50歳以上の患者さんに限れば、CMF群よりUFTのほうが、5年間再発しないで生存する率が高かったのである。

「このような結果から、UFTはホルモン療法と併用することで、ホルモン感受性乳がんの再発を予防する効果が十分に期待できることがわかります。また、投与期間を検討した研究では、400ミリグラムを2年間続けると、再発リスクが最も低くなることがわかっています」

大阪大学付属病院の乳腺・内分泌外科では、ある条件を満たした患者さんには、術後治療の選択肢の1つとして積極的にUFTを勧めているという。その条件とは、ルミナルA(ホルモン感受性陽性・HER2陰性のことが多い)である、65歳以上である、リンパ節転移がない、というものだ。

QOLを低下させない体に優しい化学療法

「UFTはQOL(生活の質)の面でも優れています。点滴で投与する抗がん剤では、脱毛や吐き気がありますし、薬によっては末梢神経障害、浮腫、心毒性が出ることもあります。また、好中球減少症にも注意しなければなりません。その点、UFTの副作用は軽く、下痢などの消化器症状がある程度です」

現在、中山さんは、70代と80代の患者さんに対し、UFTによる術後治療を行っているという。患者さん自身が、できることならしんどい治療はしたくないということで、この治療を選ばれたのだという。現在のところ大きな合併症もなく、これまで通りの生活ができるということで、患者さんはとても喜んでいるという。


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