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副作用の抑制方法が改善し、新たなスタンダードとして普及し始めた
乳がん患者の生存率を改善した術後補助化学療法「TC療法」

監修:川端英孝 虎の門病院乳腺・内分泌外科部長
取材・文:坂本悠次
発行:2010年2月
更新:2013年4月

  
川端英孝さん
虎の門病院乳腺・内分泌外科部長の
川端英孝さん

早期乳がんの術後化学療法において、短期間の抗がん剤治療でも十分と予測される患者の治療法が大きく変わろうとしている。
今までは4サイクルのAC療法がスタンダードとされていたが、それに代わって新たに登場した4サイクルのTC療法が広く普及し始めた。
患者とその家族もTC療法の治療効果はもとより、副作用とその対策などについて理解を深めていくことが求められる。

術後補助化学療法として普及し始めたTC療法

最近、乳がんの手術後の補助化学療法として、抗がん剤のタキソテール(一般名ドセタキセル)とエンドキサン(同シクロホスファミド)を組み合わせたTC療法を行う病院が増えてきました。従来はアドリアシン(一般名ドキソルビシン)とエンドキサンを併用するAC療法を中軸に、EC療法(ファルモルビシン〈一般名エピルビシン〉+エンドキサン)やFEC療法(5―FU〈一般名フルオロウラシル〉+ファルモルビシン+エンドキサン)など、アドリアシンやファルモルビシンなどのアントラサイクリン系抗がん剤とエンドキサンなどを組み合わせた治療法が行われてきましたが、新たに登場したTC療法に大きな期待が寄せられているからです(表)。

「TC療法は4サイクルの術後補助化学療法に、タキサン系抗がん剤(タキソテール)を組み入れたことが大きな特徴です。抗がん剤による術後補助化学療法が適切な患者さんの中でも、『短期間の抗がん剤治療でも十分』と予測される方に適した治療法です」

こう指摘するのは虎の門病院乳腺・内分泌外科部長の川端英孝さんです。

[表 乳がんに対する主な併用化学療法]

治療法 薬剤 治療期間 術後療法
サイクル数
クラシカルCMF シクロホスファミド
メトトレキサート
フルオロウラシル
4週毎 6
AC ドキソルビシン
シクロホスファミド
3週毎 4
EC エピルビシン
シクロホスファミド
3週毎 4
CAF シクロホスファミド
ドキソルビシン
フルオロウラシル
3週毎 6
CAF(分割) シクロホスファミド
ドキソルビシン
フルオロウラシル
4週毎 6
FEC フルオロウラシル
エピルビシン
シクロホスファミド
3週毎 6
CEF(Canada NCI) シクロホスファミド
エピルビシン
フルオロウラシル
4週毎 6
TAC(BCIRG001) ドセタキセル
ドキソルビシン
シクロホスファミド
3週毎 6
TC(US Oncology) ドセタキセル
シクロホスファミド
3週毎 4
AC→T* ドキソルビシン
シクロホスファミド
  ↓
ドセタキセル
3週毎

3週毎

4

4

AC→P* ドキソルビシン
シクロホスファミド
  ↓
パクリタキセル
3週毎

3週毎

4

4

FEC→T* フルオロウラシル
エピルビシン
シクロホスファミド
  ↓
ドセタキセル
3週毎

3週毎

3

3

注:薬剤はすべて一般名
日本乳癌学会:科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン;1.薬物療法、金原出版、東京、2007より抜粋
*がんサポート編集部にて追加

短期間の化学療法で十分な早期乳がんの患者が対象

ご存じのように早期乳がんの治療では、術後補助化学療法のように手術の前後に補助療法を行うのが一般的です。その目的は、全身に存在しているかもしれない乳がんの微小転移巣を根絶することです。微小転移巣の根絶によって再発を抑え、治癒をめざすことが目標になります。ノルバデックス(一般名タモキシフェン)などによるホルモン療法や、抗がん剤による化学療法、ハーセプチン(一般名トラスツズマブ)による分子標的治療などから患者の状態に即して必要なものを選び、最適な順序で治療を進めるのが基本です。

抗がん剤による術後補助化学療法はホルモン受容体などのがんの性質と、再発のリスクを考慮して適用され、さらに「強力な化学療法が必要不可欠とされ る患者」と、「短期間の化学療法で十分とされる患者」に分けられます。

「後者の『短期間の化学療法で十分』と予測される患者さんに適しているとして普及し始めたのがTC療法なのです」

これまでは4サイクルのAC療法がスタンダードとされてきましたが、4サイクルのTC療法のほうが治療効果に優れ、副作用の点でも心臓の毒性などが少ないと評価されたからです。

TC療法が注目を集めた9735試験とは

TC療法が最初に注目されたきっかけは、2005年の第28回サンアントニオ乳がん学会(米国)において発表されたTC療法とAC療法の治療効果を比べる無作為化比較試験(US Oncology Research 9735試験)の報告です。

「9735試験は進行病期がステージ1~3の手術可能な早期乳がん患者さん1016人を対象に行われました。そのうち約70パーセントがホルモン受容体陽性、約50パーセントが腋の下のリンパ節(腋窩リンパ節)などへの転移が認められた患者さんです。手術の後、全員を無作為に2つのグループへ分け、一方(506人)に4サイクルのTC療法、もう一方(510人)には4サイクルのAC療法を行い、比較をしました」

4サイクルのTC療法は1サイクルを3週間として初日にタキソテールとエンドキサンを点滴で投与した後に休薬し、それを4回繰り返す治療法です。4サイクルのAC療法はタキソテールの代わりにアドリアシンを点滴で投与します。

無再発生存率と生存率が有意に良好

9735試験はTC療法群とAC療法群の無再発生存率(再発が認められずに生存している患者の割合=DFS)と生存率(OS)を比較するのが主要な目的です。加えて、副次的に副作用(毒性)の発現などの比較も目的とされました。

[図 TC療法とAC療法の生存率の推移]
図:TC療法とAC療法の生存率の推移

Jones S, et al. J Clin Oncol 2009;27:1177-1183より一部改変

「2005年の第28回サンアントニオ乳がん学会の報告では、化学療法開始から5年目の時点における無再発生存率がTC療法群は86パーセント、AC療法群は80パーセントで、TC療法群はAC療法群よりも有意に優れていたと発表されたのです」

その2年後(07年)に第30回サンアントニオ乳がん学会で報告された、より長期にわたる経過観察では、さらにTC療法の優位性が明らかになりました。

「化学療法開始から7年目の時点における無再発生存率はTC療法群81パーセント、AC療法群75パーセントでした。TC療法群の無再発生存率がAC療法群を上回ったのは5年目の成績と同じなのですが、それに加えて生存率でもTC療法群(87パーセント)がAC療法群(82パーセント)を有意に上回ったとの結果が新たに発表されたのです(右図)」

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