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ザンクトガレン2009から術後の薬物治療を読み解く
個人に最適な治療を見極める! 乳がんはより個別化の時代へ

監修:元村和由 大阪府立成人病センター乳腺・内分泌外科副部長
取材:「がんサポート」編集部
発行:2009年12月
更新:2013年4月

  
元村和由さん
大阪府立成人病センター
乳腺・内分泌外科副部長の
元村和由さん

他のがん種に比べても、とくに個別化治療が進んでいる乳がん。
最近では、個人の再発リスクを遺伝子の発現状況によって判定できるようになり、より患者さんに適した治療法が分かるようになってきた。
最新の乳がん薬物治療を、今年3月に開かれた乳がん国際会議ザンクトガレン2009から紹介する。

乳がんの術後治療がシンプルになった

乳がんが早期の段階で発見されると、切除手術が行われる。手術方法はさまざまだが、乳房にできたがんを、乳房の一部(あるいは全部)と一緒に取り除くわけだ。

だが、これだけで乳がんが治癒するとは限らない。手術で取り除く前に、すでに全身のどこかに小さな転移が起きている可能性があるからである。

画像検査などでも発見できない微小な転移がすでに起きていた場合、それを放置すると、徐々に増殖して再発へとつながってしまう。そうした事態を防ぐには、全身的な治療を手術と組み合わせて行う必要がある。

では、どのような治療を加えるのだろうか。大阪府立成人病センター乳腺・内分泌外科副部長の元村和由さんに、早期乳がんに対する初期治療の世界的な流れを教えていただいた。

「乳がん治療に関しては、『ザンクトガレン国際専門家合意会議』という会議が2年に1回開かれ、そこで合意が得られた治療法が発表されています。今年の3月にこの会議が開かれたのですが、2007年の会議で提唱された内容に比べて、ずいぶん様変わりしました」

2007年の合意では、低リスク、中間リスク、高リスクというリスクカテゴリーに分類することになっていた。さらに閉経状況、ホルモン感受性の有無、HER2の発現状況などを考慮し、それにふさわしい治療法を選択するという内容だった。

「2007年の合意に基づくと、乳がんは24の病型に分類できることになるのですが、これはさすがに複雑すぎました。そこで、2009年の合意では、治療法の選択方法がかなりシンプルになっています」

ホルモン感受性陽性ならホルモン療法を行う

2009年の合意内容をまとめたのが表1である。それぞれの治療法について、どのような人がその治療を行うべきかが、シンプルにまとめられている。

ホルモン療法を行うのは、ホルモン感受性が陽性の場合。がん細胞の1パーセント以上にホルモン受容体が認められれば、ホルモン感受性が陽性となる。

「1パーセント以上というのは、わずかでも存在すればという意味だと理解していいでしょう」

抗HER2療法とは、分子標的薬のハーセプチン(一般名トラスツズマブ)による治療を指す。免疫組織染色法と呼ばれる方法でHER2の発現状況を調べた場合、30パーセント以上をHER2陽性としている。

「がん細胞が100個あった場合、30個以上がHER2タンパクを持っていたら、HER2陽性と診断するということです。従来は10パーセント以上だったのですが、30パーセントに引き上げられたことで、誤って陽性と判断される偽陽性が減ることになります」

化学療法を行う必要があるのは、HER2陽性で抗HER2療法を行う場合と、トリプルネガティブと呼ばれる、エストロゲン受容体陰性、プロゲステロン受容体陰性、HER2陰性の乳がんがあげられている。

「ハーセプチンのエビデンス(科学的根拠)は、化学療法と併用した臨床試験でしか得られていないので、ハーセプチンを使うときには、必ず化学療法を併用する。それから、トリプルネガティブの場合、ホルモン療法とハーセプチンは効きませんから、化学療法をやりなさいということになります」

[表1 ザンクトガレン2009で合意された治療選択肢]

治療手段 適応
ホルモン療法 わずかでもエストロゲン受容体染色が認められた場合に適応する
抗HER2療法 米国臨床腫瘍学会/米国病理医会ガイドラインで定義されるHER2陽性
化学療法 HER2陽性
(抗HER2療法あり)
トラスツズマブの臨床試験エビデンスは、化学療法との同時併用または追加併用に限られている
トリプルネガティブ ほとんどの患者
エストロゲン受容体陽性・HER2陰性
(ホルモン療法あり)
リスクに応じてさまざま(表2参照)

ホルモン感受性が陽性でHER2が陰性の場合は?

ここまではシンプルだが、ホルモン感受性が陽性でHER2が陰性の場合、治療法の選択はそう簡単ではない。ホルモン感受性が陽性なのでホルモン療法は必要だが、ホルモン療法単独にするか、化学療法を併用するかで迷うことになる。

そこで、この場合には、表2の項目を検討することで、治療法を選択することが勧められている。ホルモン受容体の発現状況、組織学的グレード、増殖能など、患者さんのがんの特徴に合わせて検討していくのである。

その結果、化学療法+ホルモン療法の欄に多くが当てはまるなら併用療法を選択する。逆に、ホルモン療法単独の欄に当てはまる項目が多ければ、ホルモン療法単独を選択するのだ。

「悩んだらリスクに応じて治療法を選択しなさいということです。実は、日本の乳がん患者には、ホルモン感受性陽性の人が8割位いるし、HER2陰性の人も8割位います。単純に計算すると、ホルモン感受性が陽性で、かつHER2が陰性という人は、乳がん患者の6~7割になると考えられるわけです」

つまり、乳がん患者さんの多くが、表2をもとに治療法を選択する必要があるというわけだ。

検討すべき項目の中に、目新しい項目が2つある。“患者の嗜好”と“多遺伝子発現解析法”である。

「患者さんの“嗜好”というのは、これまでのザンクトガレンの合意にはなかった要素です。ただ、現場の医師は、これまでも患者さんの意向を考慮しながら治療していたわけですが、それがきちんと明文化されたのは大きいですね。また、多遺伝子発現解析というのは、がん細胞の遺伝子を調べて再発の危険性など予後のリスクを判定する検査。2007年の合意では時期尚早ということで外されていましたが、今回初めて採用されています」

[表2 ホルモン感受性陽性・HER2陰性患者に対する治療選択肢]

  化学療法+ホルモン療法 決定する上で有用でない因子 ホルモン療法
エストロゲン受容体および
プロゲステロン受容体の発現状況
低い 高い
組織学的グレード グレード3 グレード2 グレード1
増殖能
リンパ節転移 陽性
(4個以上の転移リンパ節)
陽性
(1~3個の転移リンパ節)
陰性
腫瘍周囲の脈間浸潤(PVI) 広範なPVIあり 広範なPVIなし
病理学的腫瘍径 5cmより大 2.1~5cm 2cm以下
患者の嗜好 使用可能な治療法は
すべて用いてほしい
  化学療法に関連した副作用は
避けてほしい
多遺伝子発現解析法 高スコア 中スコア 低スコア

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