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後発医薬品(ジェネリック)の活用で、高額な治療費の負担が軽くなる可能性あり
家計にやさしいがん治療~乳がん患者の場合~

監修:多田敬一郎 東京大学医学部付属病院乳腺内分泌外科講師
発行:2009年11月
更新:2013年4月

  
多田敬一郎さん
東京大学医学部付属病院
乳腺内分泌外科講師の
多田敬一郎さん

乳がんは他のがん種と比べ比較的予後が良好である。この要因として、種々の治療薬が存在し、がんの制御が可能となっていることがあげられる。しかし、高額な治療費が多いうえ、長期にわたる薬物療法の治療費が家計を圧迫し、継続的な治療が困難になるケースも見受けられる。徐々にではあるが、乳がんの治療薬にも後発医薬品(ジェネリック)が導入されてきており、それらを上手に選択することが、患者の経済的負担の軽減に役立つ。

化学療法の進歩が支えた乳がんの優れた治療成績

いまや日本女性のがん罹患者数は年間約22万5000人。そのうち乳がん(年間約4万人)は、大腸がんに次いで2番目に多く、女性がもっとも注意しなければならない悪性腫瘍の1つである。

「一方、乳がんの治療成績は年々向上し、5年生存率は93パーセントに達しています。もともと乳がんは、進行の早い肺がんや膵がんなどと異なり、がん細胞の増殖が比較的ゆるやかな生物学的特性を有しています。乳房温存技術など、外科的手術の進歩もさることながら、なによりも早期発見・早期治療が可能になったことと、ここ10数年で飛躍的に進歩した化学療法に依るところが大きいでしょう」

こう指摘するのは東京大学医学部付属病院乳腺内分泌外科講師の多田敬一郎さんだ。

そもそも乳がんの薬物療法が重視されるようになったのは、1980年代以降に提唱された「乳がんは全身病」という考え方にある。比較的成長の遅い乳がん細胞では、乳房にしこりを感じた時点で、すでに乳房以外にもそのタネが拡がっている可能性がある。このため、外科手術による局所切除をしたあとも薬物による全身療法を行い再発を予防することで、高い治療効果を発揮している。

再発予防と治癒をめざした補助療法としての薬物療法

乳がんの治療は、(1)手術可能な乳がんに対する再発の予防や治癒をめざすものと、(2)遠隔転移した進行・再発乳がんに対する症状の改善や生活の質(QOL)の向上、生存期間の延長をめざすものの2つに大別される。

前者は、全身に拡がっているかもしれない微小転移巣の根絶である。

乳がんは約30パーセントの人が再発する。進み具合によって再発率は異なり、ステージ1の乳がんは術後5年のうちに約10パーセント、ステージ2は約15パーセント、ステージ3は30~50パーセントの人が再発すると言われている。

「目に見えない微小転移巣が成長して再発を招くのですが、これを抑えるための治療が補助療法です」(多田さん)

具体的にはホルモン剤によるホルモン療法、抗がん剤による化学療法、分子標的薬による抗体療法などを行う。どの薬物療法をどの程度行うのかは、手術で切除した腫瘍などの病理検査の結果から再発リスクの度合いを推定し決定する(図1)。

[図1 乳がん検査から再発予防の治療の流れ)]

図1 乳がん検査から再発予防の治療の流れ

  • 化学療法(抗がん剤治療)は針生検で病理検査を実施した後、手術よりも先に実施することがある(術前化学療法)
  • 化学療法(抗がん剤治療)、ホルモン療法、放射線療法は病理検査結果により省略することがある

術前補助化学療法と術後補助化学療法は同等

再発リスクの度合いは、(1)腋の下の腋窩リンパ節への転移への有無と転移巣の数、(2)ホルモン感受性の有無、(3)腫瘍のサイズが2.1センチメートル以上か否か、(4)核異型度(がん細胞の顔つき)がグレード2以上か否か、(5)HER2タンパクの過剰発現があるか否か、(6)血管やリンパ管へ浸潤しているか否かの脈管浸潤の有無、(7)35歳未満か否かの年齢などの予後因子から判定する。該当する予後因子の数が多く、その程度が強いほど再発リスクは高くなると考えざるを得ない。

「通常はいずれかの予後因子に1つでも該当すればリスクありと判断し、もっとも適した補助療法を選択しますが、脱毛は避けたい、なるべく吐き気の少ない治療法にして欲しいなど、患者さんの希望を考慮して決定します」(多田さん)

標準治療としてほぼ同様の効果が得られ、副作用の異なる複数の治療法が選択できるのも乳がん治療の特徴だ。

「最近は乳がんのサイズが明らかに2センチメートル以上など再発のリスクが大きい場合、手術の前に抗がん剤による術前補助化学療法を行うことが少なくありません。腫瘍が縮小して乳房温存療法が可能になったり、切除範囲を小さくすることができるからです」(多田さん)

加えて、術前補助化学療法に用いた抗がん剤が効いているかどうかを、腫瘍の縮小割合から確かめられるというメリットもある。もちろん、術前化学療法が従来の術後補助化学療法の治療効果と同等である、と臨床試験で立証されていることは言うまでもない。

再発リスクが大きい場合はタキサン系を追加投与

[表1 主なホルモン療法]

  一般名 商品名
閉経前 タモキシフェン ノルバデックス、
タスオミンなど
酢酸リュープロレリン リュープリン
酢酸ゴゼレリン ゾラデックス
閉経後 トレミフェン フェアストン
エキセメスタン アロマシン
アナストロゾール アリミデックス
レトロゾール フェマーラ

[表2-1 主な術後補助化学療法の標準治療]

AC CAF CEF EC CMF TC
AC+T CAF+T CEF+T EC+T
AC+PAC CAF+PAC CEF+PAC EC+PAC
A:ドキソルビシン、C:シクロホスファミド、E:エピルビシン、
M:メトトレキサート、F:5-FU、T:ドセタキセル、PAC:パクリタキセル
HER2陽性のときは、トラスツズマブを1年間追加する

[表2-2 主な抗がん剤]

一般名 商品名
パクリタキセル タキソール、
パクリタキセル「NK」など
ドセタキセル タキソテール
トラスツズマブ ハーセプチン
エピルビシン ファルモルビシン、
エピルビシン「NK」など
ビノレルビン ナベルビン
カペシタビン ゼローダ
テガフール・ギメラシル・
オテラシルカリウム
TS-1

ホルモン感受性が認められる乳がんには、ホルモン療法が行われる。閉経前の患者にはノルバデックス(一般名タモキシフェン)の5年間服用とLH-RHアゴニストであるリュープリン(酢酸リュープロレリン)もしくはゾラデックス(酢酸ゴセレリン)の2~3年間の投与、閉経後の患者には前出のノルバデックス、フェアストン(トレミフェン)、アリミデックス(アナストロゾール)、アロマシン(エキセメスタン)、及びフェマーラ(レトロゾール)などのホルモン療法剤の5年間服用が主な治療だ(表1)。

「ホルモン感受性が認められない乳がんには、抗がん剤による化学療法が行われます。また、ホルモン感受性が認められ再発リスクが大きいと推定される場合は、ホルモン療法に加えて化学療法を行います」(多田さん)

抗がん剤による補助化学療法は、アドリアシン(一般名ドキソルビシン)又はファルモルビシン(エピルビシン)+エンドキサン(シクロホスファミド)の2剤併用であるAC・EC療法を4コース行うというのが基本だ。ほかにCAF療法やCEF療法、クラシカルCMF療法などもあるが、いずれもAC・EC療法と同等の治療効果が認められている(表2-1)。

再発リスクがより大きいと判断された場合は、タキソール(一般名パクリタキセル)やタキソテール(ドセタキセル)のタキサン系抗がん剤をはじめ、病期、症状に応じた薬剤を加えるのが一般的だ(表2-2)。

「ホルモン療法と化学療法による再発予防の治療は、再発の頻度をおよそ約3分の2に抑えます。このため、これら術後補助療法はとても重要であると考えています」(多田さん) また、HER2タンパクが3+以上に過剰発現している乳がんには、ハーセプチン(一般名トラスツズマブ)による1年間の抗体療法をおこなう。ハーセプチンの1年間投与で再発を半分に抑えられることが臨床試験で立証されたからだ。

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