不快な後遺症を生み出す、無駄なリンパ節の切除を回避できる
センチネルリンパ節生検を上手く利用して、リンパ浮腫を防ごう
日本赤十字社長崎原爆病院
第1外科部長の
谷口英樹さん
手術時にがん周辺のリンパ節までごっそり取り除くリンパ節郭清がこれまで多く行われてきた。
しかし、リンパ節郭清をすると、腕や手がむくむリンパ浮腫や知覚麻痺などを引き起こしやすい。
ましてや検査の結果、リンパ節に転移がなく、郭清をしなくてもよかったというケースも少なくない。
不必要なリンパ節郭清をしなくてすむには、どうしたらいいのだろう――。
手術後の再発を防ぐためにリンパ節郭清は不可欠か?
乳がんの手術で大切なのは、がんをしっかり取り除くことである。がんが残っていると、それが増殖して再発を引き起こすことになるからだ。手術時にがん周辺のリンパ節までごっそり取り除くリンパ節郭清が行われることがあるが、これは原発巣(がんが最初にできたところ)近くのリンパ節までがんが転移していることがあるためだ。乳がんの手術では、わきの下(腋窩)にあるリンパ節の郭清が行われる。しかし、日本赤十字社長崎原爆病院の谷口英樹さんによれば、実際にはリンパ節への転移が起きていないのに、リンパ節郭清が行われているケースが多いという。
「がんがリンパの流れに乗って転移する場合、まず近くのリンパ節に到達します。リンパ節というのは関所のようなところで、流れてくるがん細胞や細菌などを捕まえ、全身に広がらないようにする役割をしているのです。そこで、がんの近くにあるリンパ節を系統的にすっかり取り除く治療が行われます。乳がんの場合、原発巣の切除と腋窩リンパ節郭清を組み合わせるのが、標準手術です。ただ、長期にわたる研究によって、乳がんの手術を受ける患者さんの約7割には、リンパ節転移がないことがわかっています」
つまり、リンパ節郭清は、3割の患者さんには有益でも、7割の患者さんにとっては無駄ということになる。リンパ節郭清を行えば入院期間が3~4日長くなるし、身体的な問題が生じることも少なくないようだ。
「手や腕が腫れるリンパ浮腫、わきの下などに生じる知覚異常や知覚鈍麻。こうした不快な後遺症が、リンパ節郭清を受けた人の約10パーセントに現れています。後遺症というほどひどくなくても、腕やわきの下周辺にだるさを感じる、鉛の板を張ったようだ、自分の体ではないような感じがする、といった声がよく聞かれます」
手術後の再発を防ぐことは大切である。しかし、無駄なリンパ節郭清は受けたくないという人が多いのではないだろうか。
見張りとなるリンパ節を手術中に調べる
不必要なリンパ節郭清をしなくてすむために、センチネルリンパ節生検という検査が行われるようになってきた。
「がんがリンパに乗って転移するとき、最初に到達するリンパ節は決まっていて、これをセンチネルリンパ節といいます。このリンパ節を見つけ出し、これだけを取り出して病理検査を行うのがセンチネルリンパ節生検です。そこに転移がなければ、その先のリンパ節には、がん細胞が行っていないと考えられるわけです」
センチネルリンパ節を見つけ出す方法には、RI法(ラジオアイソトープ法)と色素法という2つの方法がある。
RI法では、手術前日に放射性同位元素を含む薬を乳輪と腫瘍付近に注射しておく。そして、手術時にガンマプローブという放射線検出器を使い、音で放射線を発しているリンパ節を探し出すのだ。
色素法では、青い色素を乳輪に注射し、それがどのリンパ節に到達するかを調べる。RI法のように特殊な施設や装置を必要としないため、こちらのほうが広く行われているという。
「当院では精度を高めるために、RI法と色素法を組み合わせて行っています。ただ、色素法だけでも、95パーセント以上の確率でセンチネルリンパ節を見つけ出せると言われています」
センチネルリンパ節が見つかったら、それを取り出し、迅速病理検査を行う。リンパ節を液体窒素で凍らせ、2ミリメートル幅でスライスして、がん細胞が転移しているかどうかを顕微鏡で調べるのである。15分ほどで結果が出る。
迅速病理検査で陰性だった場合、つまりがん細胞が見つからなかった場合には、それ以上先にがんが転移していることはほとんどないと考えられるので、リンパ節郭清を行わずに手術を終わりにする。一方、がん細胞が見つかり、陽性と診断された場合には、腋窩リンパ節郭清が行われることになる。
「つまり、センチネルリンパ節生検を行うことによって、本当にリンパ節郭清を必要としているかどうかが明らかになるわけです。ただ、センチネルリンパ節を取り出すための切開は必要になります」
切るのは長さ2~3センチ。それで不必要なリンパ節郭清を避けられるかもしれないのだから、受ける価値は十分にある検査と言えるだろう。
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