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治療目的を明確に持って、乳がんと向き合うために
これだけは押さえておこう! 乳がん薬物療法の基礎知識

監修:渡辺亨 浜松オンコロジーセンター長
取材:がんサポート編集部
発行:2009年2月
更新:2013年6月

  
渡辺亨さん
浜松オンコロジーセンター長の
渡辺亨さん

乳がん治療を考えるときは、「初期治療」なのか、「転移・再発後の治療」なのかを分けて考える必要がある。
なぜなら、治療の目的がまったく異なるからだ。当然のことながら、行われる治療法も選択基準も違ってくる。
乳がんと診断されたら、あわてずに、まずは自身の乳がんの状態を正しく把握することから始めたい。

内容が異なる初期治療と転移・再発後の治療

乳がん治療において、まず重要なのは、その乳がんが、どの状態にあるかを知ることである。その意味で、乳がん治療は「初期治療」と「転移・再発後の治療」の2つに分けられる。

初期治療を検討するのは、乳がんと診断された時点からである。乳がんの広がり、乳がんの性格に合わせた最善の治療を選択していくわけだが、画像診断などで明らかな遠隔転移がない場合、加えて浸潤がんならば、常に微小転移という、画像検査では見つからない小さな転移が起きている可能性がある。この微小転移を撲滅し、乳がんを完全に治癒させる、これが初期治療の目的だ。

転移・再発後の治療は、診断の時点で乳房から離れた部位に転移が起きている場合や、初期治療を行った後、撲滅できなかった乳がん細胞が転移先で分裂・増殖し、明らかな転移として画像診断などで診断された場合や、痛みなどの症状をきっかけに診断された場合が、対象となる。

繰り返すが、同じ乳がんの治療でも、その考え方、治療法選択において、「初期治療」と「転移・再発後の治療」は大きく異なる。そこで、それぞれどのような薬物療法が行われるのかを、浜松オンコロジーセンター長の渡辺亨さんに解説していただいた。

初期治療の第1目的は命を救うことにある

[「初期治療」の目的]

  • 完治(救命)
  • 乳房温存
  • QOL(生活の質)の維持

乳がんの初期治療として行われる治療法としては、(1)手術、(2)放射線療法といった局所療法、(3)抗がん剤治療、(4)ホルモン剤治療、(5)分子標的薬治療の5つがある。これらの治療法のうち、何と何を選択し、どのような順番で組み合わせれば効果的かを考える必要がある。そのとき考慮しなければならないのが、初期治療を行う目的である。

「初期治療でまず第1に考えるのは、乳がんを完全に治すこと。つまり、“命を救う”ことです。その次に考えるべきなのが、できる限り乳房を温存する、つまり、“乳房を救う”こと。そしてその次に、安心と安全の確保されたQOL(生活の質)の高い生活を維持することを考えるのです」

治療の目的がしっかりしていれば、治療内容も自ずと決まってくる。まず考えなければならないのは、命を救うためにどのような治療を受ける必要があるのか。命を救うことができる治療法の中で、乳房を温存できる治療法や、QOLを高く維持できる治療法があれば、それを選択していくことになる。

浸潤がんの場合に薬物療法が必要になる

乳がんは、進行の程度によって、「非浸潤がん」と「浸潤がん」に分類することができる。

乳がんは乳腺に発生するがんだが、乳腺はぶどうの房のような形をした小葉という部分と、腺管という管状の部分で構成されている。乳がんは小葉からも腺管からも発生するが、発生したがんが、小葉や腺管にとどまっている場合を非浸潤がんと呼ぶ。

これに対し、がんが小葉や腺管を包んでいる基底膜という膜を破り、周囲の組織に出てきたのが浸潤がんだ。浸潤がんの場合には、がん細胞(微小がん)が血管やリンパ管に入り込み、全身に運ばれていった可能性がある。

「風で遠くまで運ばれていくタンポポの種のようなものです。地面に落ちた種は、小さくて見えませんが、春になれば芽を出して成長してきます。それと同じように、血液やリンパ液で運ばれたがん細胞は、タンポポの種のように全身のどこかにたどりつき、そこで大きくなることがあるのです」(図1参照)

[図1 浸潤がんの乳がん患者さんがたどる経過]
図1 浸潤がんの乳がん患者さんがたどる経過

非浸潤がんか、あるいは浸潤がんかは、画像検査の結果を評価したり、腫瘍の大きさを参考にするが、診断を確定するには、病理診断が不可欠である。非浸潤がんと診断された場合には、微小転移が起きている可能性はほとんどないので、局所治療である手術だけでよく、薬物療法は必要ない。

「非浸潤がんなら、腕のいい外科医に手術してもらえばいいでしょう。もちろん、乳房温存術が可能で、それだけで治療は完結します。たとえば、乳がん検診でのマンモグラフィで石灰化だけが見つかることがあります。このような場合は非浸潤がんの可能性が高いので、マンモトームや、小さい範囲の手術で治療すればいいのです」

一方、浸潤がんと診断された場合には、微小転移があることを前提に治療を行わなければならない。

命を救うためには全身の治療が必要

浸潤がんの場合には、局所治療としての手術や放射線治療に加え、全身治療としての薬物療法が行われる。

「命を落とさないためには、乳房温存手術より乳房切除術のほうが安全だ、という話がありますが、実はそうではありません。命を救うために本当に必要なのは、タンポポの種のように全身に散った微小転移に対して、適切な薬物療法を行うことなのです。そのためには、微小転移が起きている可能性がどの程度なのかを正確に推測し、それに対してきちんと薬物療法を行う必要があります」

前述したように、乳がんの薬物療法で使われる薬には、抗がん剤、ホルモン剤、分子標的薬がある。それぞれの薬について、簡単に説明しておこう。

抗がん剤

殺細胞作用を持つ薬で、アンスラサイクリン系、タキサン系などのタイプがある。これらを組み合わせて使用する多剤併用療法が行われている。

併用する薬の略称を組み合わせて、「AC」「CEF」などと呼ばれることがある。ACはアドリアシン(一般名塩酸ドキソルビシン)とエンドキサン(一般名シクロホスファミド)の併用、CEFはエンドキサン、ファルモルビシン(一般名塩酸エピルビシン)と5-FU(一般名フルオロウラシル)の併用である。(図4・5参照)

[図4 抗がん剤の種類]

分類 略称 商品名 一般名
アンスラサイクリン系 A アドリアシン 塩酸ドキソルビシン
E ファルモルビシン 塩酸エピルビシン
タキサン系 D タキソテール ドセタキセル
P タキソール パクリタキセル
その他 F 5-FU フルオロウラシル
C エンドキサン シクロホスファミド
M メソトレキセート メトトレキサート
多剤併用療法では、薬の商品名または一般名の頭文字からとった略称で呼ばれます
(例:AC療法=アドリアシン+エンドキサン など)


[図5 多剤併用 抗がん剤使用例]

療法名(通称) 商品名 一般名 投与法 サイクル
CMF エンドキサン シクロホスファミド 経口 4週間ごと6サイクル
メソトレキセート メトトレキサート 静注
5-FU フルオロウラシル 静注
CAF エンドキサン シクロホスファミド 静注 4週間ごと6サイクル
アドリアシン ドキソルビシン 静注
5-FU フルオロウラシル 静注
AC アドリアシン ドキソルビシン 静注 3週間ごと4サイクル
エンドキサン シクロホスファミド 静注
TC タキソテール ドセタキセル 静注 3週間ごと4サイクル
エンドキサン シクロホスファミド 静注
AC→T アドリアシン ドキソルビシン 静注 3週間ごと4サイクル
エンドキサン シクロホスファミド 静注
 
タキソール パクリタキセル 静注 1週間ごと12サイクル
EC→T ファルモルビシン エピルビシン 静注 3週間ごと4サイクル
エンドキサン シクロホスファミド 静注
 
タキソール パクリタキセル 静注 1週間ごと12サイクル
TAC タキソテール ドセタキセル 静注 3週間ごと4サイクル
アドリアシン ドキソルビシン 静注
エンドキサン シクロホスファミド 静注
CEF エンドキサン シクロホスファミド 経口 4週間ごと6サイクル
ファルモルビシン エピルビシン 静注
5-FU フルオロウラシル 静注

ホルモン剤や分子標的薬に比べると、一般的に副作用は強いのが特徴だ。

ホルモン剤

乳がんの約7割は、エストロゲンなどの女性ホルモンの影響を受けて増殖する。針生検や手術で採取した乳がん組織を、病理検査でホルモン受容体を染色する方法で検査する。ホルモン受容体を持つこうした乳がんを対象に、図2に示したようなホルモン剤で治療が行われる。

エストロゲンが卵巣から分泌されないようにする「LH-RHアゴニスト」、卵巣以外の部分でエストロゲンが合成されるのを防ぐ「アロマターゼ阻害剤」、エストロゲンががん細胞に働きかけるのを阻止する「抗エストロゲン剤」などがある。転移・再発後の乳がん患者に対しては、卵巣でエストロゲンが作られるのを防ぐ「黄体ホルモン剤」も使われている。

[図2 ホルモン療法、各薬剤の特徴]

商品名 特徴
LH-RHアゴニスト ・ゾラデックス
(一般名酢酸ゴセレリン)
閉経前に用いる
エストロゲンの分泌を抑える
・リュープリン
(一般名リュープロレリン)
アロマターゼ阻害剤 ・アロマシン
(一般名エキセメスタン )
閉経後に用いる
エストロゲンの合成を阻害する
・アリミデックス
(一般名アナストロゾール)
・アフェマ
(一般名塩酸ファドロゾール水和物)
・フェマーラ
(一般名レトロゾール)
抗エストロゲン剤 ・ノルバデックス
(一般名クエン酸タモキシフェン)
閉経前・閉経後どちらも用いる
エストロゲンの働きを阻害する
・フェアストン
(一般名クエン酸トレミフェン)
黄体ホルモン剤 ・ヒスロンH200
(一般名酢酸メドロキシプロゲステロン)
エストロゲンの産生を抑制する

分子標的薬

分子生物学の進歩を背景に登場してきた薬で、乳がんの治療にはハーセプチン(一般名トラスツズマブ)がある。がん細胞にHER2タンパクが過剰発現しているか、あるいはHER2遺伝子が増幅しているかどうかを調べ、陽性の場合に使われる。

以上が乳がんの初期治療で使われている治療薬である。


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