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乳房温存療法の新しい武器「小線源治療」

取材・文:黒田達明
撮影:向井渉
発行:2009年3月
更新:2023年1月

  
大川智彦さん
放射線診療部門長・
オンコロジーセンター
推進責任者の
大川智彦さん
佐藤一彦さん
乳腺腫瘍センター長の
佐藤一彦さん
繁永礼奈さん
乳腺腫瘍センター医師の
繁永礼奈さん


写真:小線源治療

小線源治療を行う際、外科医師、放射線科医師、放射線技師が立ち会う

放射線技師がディスプレイを見ながらコンピュータを操作する。ディスプレイの隣にはモニター。別室のベッドに横たわる患者さんの様子が映っている。白い布に覆われた患者さんの胸の辺りからチューブが3本伸びて、ベッドの横にある小さなタンクの先につながっている。

「それでは、始めます」。技師が治療の開始を宣言し、キーボードを叩く。モニター画像に変化は見られない。一方、隣のディスプレイでは碁盤目のように並んだ点の1つが点滅し始める。

「点滅している点は、今その場所に放射線源イリジウム192が滞留していることを示します」。それぞれの点は、患者さんの体内の1カ所に対応する。タンク内に貯蔵されていた直径0.9ミリほどの小さな線源が、チューブを通って患者さんの体内へ輸送され、患部を照射しているのだ。

線源の操作はすべてコンピュータ制御。治療部位以外の線量を最低限に抑えるため、高速で輸送され、プログラムされた部位のみに滞留する。1カ所の滞留は10秒から数秒で、この日の治療は5分ほどで終了した。

線源を体内に入れる小線源治療

写真:マイクロセレクトロン

放射線の線源が貯蔵されているマイクロセレクトロン

乳房温存療法では腫瘍周辺のみを手術で摘出して、放射線治療や化学療法を組み合わせるのが一般的だ。とくに、再発防止には乳房への放射線照射は欠かせない。切除断端に発見されなくても、微小ながん細胞が残る可能性は排除できないからだ。

しかし、術後の外部照射による放射線治療は通常6週間にわたり、その間、毎日通院して治療を受けなくてはならない。この点が患者さんにとっては大きな負担であった。とくに働く女性や、病院から遠く離れた地域に住む患者さんにとっては厳しい要求だ。

現在、この問題を解消する画期的な放射線治療法の治験(臨床試験)が進められている。東京西徳洲会病院(東京都昭島市)では、2008年10月から放射線治療を術後5日間で完了させる治療法に取り組み始めた。

それが冒頭で治療シーンを紹介した「小線源治療」である。すでに子宮頸がんや前立腺がんなどの治療においては採用が進んでいるが、乳がんへの採用はまだ日本では珍しい。

なぜ安全に早く完了できるのか

CT画像

CT画像などから、事前にアプリケーターを留置する位置が計画される

この療法の特徴は、線源を体の中に挿入して、腫瘍床(切除される前に腫瘍のあった場所)付近にのみに放射線を当てるところにある。そうすることで治療を早く完了できるのだ。

だが、これまでの治療では乳房全体に照射してきたのに、腫瘍床付近のみの照射で再発は防げるのだろうか? 同病院の放射線医学センター長、大川智彦さんはこう説明する。

「欧米での治験により、全体照射でも部分照射でも、再発率に有意な差はなく美容的に優れているというエビデンス(科学的根拠)が出ています。局所再発のほとんどは腫瘍床から生じているので、そこだけに照射をすれば十分なのです」

では、なぜ部分照射なら治療が早く終えられるのか。それは小線源による部分照射なら、1度に多くの放射線を当てることができ、線量を稼げるからだ。

放射線治療では、照射した放射線の電離作用によりDNAに損傷を与えることで、がん細胞を殺す。DNAが破壊されている細胞は、細胞分裂期が来たときに分裂できずに死んでしまう。

全体照射の場合は正常な組織にも放射線が当たってしまうので、正常細胞のDNAも損傷する。とはいえ、正常細胞には、がん細胞よりも、損傷したDNAを回復させる能力が大きい。そこでこの違いを利用して、放射線を毎日少しずつ当てて、正常細胞なら回復できる範囲でダメージを与えていくのだ。

だから、もし放射線が腫瘍床付近にのみ当たるのなら、1度に多くの線量を照射して構わない。この考え方を乳房温存療法に採用したのが「加速乳房部分照射(APBI)」で、欧米ではすでに約20年の歴史があるという。

「APBIは現在、アメリカとヨーロッパのそれぞれで第3相臨床試験が行われており、2009年春にはその中間報告が発表される予定です。私は、近い将来、標準的な治療法になると見通しています」(大川さん)

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