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乳がんは「全身疾患」と考えて、全身治療をすることが大切
これだけは知っておきたい乳がんの基礎知識

監修:福田護 聖マリアンナ医科大学外科学教授
取材・文:半沢裕子
発行:2008年10月
更新:2019年7月

  
福田護さん
聖マリアンナ医科大学外科学教授の
福田護さん

乳がんは今日、罹患率は第1位、死亡率は5位という、最も多くの女性が罹患するがんとなってしまいました。
しかし、その一方で、乳がんは様々な治療法が存在すること、治療法の進歩が早いこと、進行がゆっくりであることなどから、比較的よく治るがんと言えます。乳がんのことをよく知り、早い時期に適切な治療を受けることで、多くの方が病気を克服したり、進行しない穏やかな時期を長く過ごしたりしてほしいと思います。

早い時期にきちんと治療すれば、治る可能性の高いがん

乳がんは今日、女性の罹患数が第1位、つまり、日本で最もたくさんの女性が罹るがんになりました。罹患のピークは40歳代後半、死亡のピークは50歳代前半にあります。30歳から64歳の年代では、胃がん、肺がん、子宮がんなど女性が罹る多くのがんの中で死亡率が第1位です。

40歳代後半から50歳代前半といえば、女性が人生の中で最も忙しく、社会や家庭で必要とされる時期にあたります。この年齢にたくさんの女性が乳がんで亡くなるのは、社会的に見ても無視できません。

[がんの部位別に見た死亡原因(女性上位10位]

年齢
区分
25~29 30~34 35~39 40~44 45~49 50~54 55~59 60~64 65~69 70~74 75~79 80~84 85~89 90~
がん
死亡率
18.1 27.7 40.5 46.9 52.8 57.1 55.7 52.1 47.1 40.9 33.1 25 18.4 11.1
順位 1 白血病 乳房 乳房 乳房 乳房 乳房 乳房 乳房 大腸 大腸
2 その他 大腸 大腸 大腸 大腸 大腸
3 子宮 子宮 子宮 大腸 大腸 大腸
4 子宮 その他 大腸 大腸 卵巣 その他
5 大腸 大腸 卵巣 卵巣 子宮 卵巣 子宮 乳房 その他
6 乳房 卵巣 その他 子宮 卵巣 その他
7 卵巣 白血病 その他 その他 その他 その他 その他 その他
8 悪性リンパ腫 白血病 その他 その他 子宮 乳房 乳房 乳房 悪性リンパ腫 乳房
9 口唇 中枢
神経系
中枢
神経系
白血病 白血病 卵巣 子宮 子宮 悪性リンパ腫 悪性リンパ腫 子宮 子宮
10 悪性リンパ腫 悪性リンパ腫 悪性リンパ腫 白血病 卵巣 卵巣 子宮 子宮 乳房 膀胱
(厚生労働者 人口動態統計2004年)

その一方、乳がんはゆっくり成長するがんですし、今ではいろいろな治療法があります。早くがんを見つけて治療をはじめれば、治る可能性は決して低くありません。実際、最も多いがんにもかかわらず、全年代で見ると死亡率は第5位です。

[部位別がん死亡数と罹患数]

    1位 2位 3位 4位 5位
男性 死亡数 肝臓 結腸 膵臓
罹患数 結腸 肝臓 前立腺
女性 死亡数 結腸 肝臓 乳房
罹患数 乳房 結腸 子宮
2005年にがんで死亡した人:325,941人(男性196,603人、女性129,338人)
2001年に新たに診断されたがん:568,781人(男性325,213人、女性243,568人)
(がんの統計’07(財)がん研究振興財団)

生命に影響があるのは転移のため。「乳がんは全身疾患」と考える

[乳腺の組織]
図:乳腺の組織

(出典:NPO法人乳房健康研究会「乳がんQ&A」より改変)

乳がんはまず、できる場所に特徴があります。乳腺組織は体表臓器、つまり体の表面にあり、そこにがんができただけでは生命に影響しません。肺がんや大腸がんなど、体内の臓器にできるがんと最も違っている点です。

生命に影響するのは、乳がんの細胞が肺や脳など別の臓器に転移し、大きくなったときです。ですから、かつては、転移を防ぐためにがんの周辺をできるだけたくさん切除したほうがいいと考えられていて、乳房はもちろん、大小の胸筋、腋の下のリンパ節まですべて切除する大きな手術が行われていました。

ところが、残念ながら、乳がんは乳房にがんが見つかった段階で、目に見えない小さな細胞が、すでにあちこちに転移していること(微小転移)が少なくありません。

そして、転移した先でゆっくり大きくなり、中には手術後10年以上たってから再発・転移するものもあります。せっかく苦痛やさまざまな後遺症に耐えても、再発・転移を防げない可能性があるのです。

このことは乳がんの治療法を根本から変えました。20年ほど前から、「大規模な手術を行っても、また、しこりの部分だけを小さく切り、術後にその周辺に放射線をかけても、生命予後(治療後の余命)には違いがない」とする報告が相次ぎ、乳がん治療の世界標準は「できるだけ小さく切り、放射線をかける」、いわゆる乳房温存療法にシフトしたのです。

さらに、全身にがん細胞が散らばっている可能性のある症例については「全身疾患」ととらえ、その治療(全身治療)を術後に、徹底的に行うことが当たり前になりました。

「きるだけ小さく切り全身治療」は、他のがん治療でも常識に

余談ですが、乳がんはこの大転換以来、がん治療全体を根本から変え、その後もがん治療の新しい流れをつくり続けています。

たとえば、直接命にかかわらない臓器だからこそ、医師は大きく切ることに疑問をもちませんでした。しかし、大きく切れば、後遺症はともないます。

最も患者さんを悩ませたのは、リンパ節をとることにより、体内のリンパ液の流れがとどこおり、手がパンパンにむくむ「リンパ浮腫」でした。

さらに、大規模手術でも乳房温存療法でも、生存率は変わらないことを知った患者さんの多くは温存を望みました。これは医師の考えを変えさせる力になりました。乳房は美容的にも精神的にも、かけがえのない臓器だということを、直接命にかかわらなくても、決してなくなってかまわないものではないことを、患者さんたちが教えてくれたのです。

そして、乳がんの新しい世界標準、つまり「できるだけ小さく切り、術後に全身治療を行って再発・転移を防ぐ」という考え方でほかのがんを見直せば、これこそががん治療の基本とわかってきました。手術は体に大きなダメージを与える治療法です。ならば、がんの塊だけを確実に取り、あとは薬で全身に散らばっている可能性のあるがん細胞を叩く治療をきちんとやるほうが、効果が高く、ダメージが少ないということになります。

このほか、がんの告知も乳がんでいち早く始まりました。乳房を残すためには、患者さんが自分の状態を知っている必要があるためです。治験(臨床試験)を元にしてつくられた標準治療をガイドラインにそって行うのも、乳がんから始まり、ほかのがんに波及しました。

我田引水ですが、乳がん治療ががん治療全体に果たしている役割は大きい、と思います。


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