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温存療法に次いで、「乳房全摘+乳房再建」が見直されている
「乳癌診療ガイドライン」をわかりやすく読み解く

監修:池田正 帝京大学医学部外科学教授
取材・文:祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2008年10月
更新:2013年4月

  
池田正さん
帝京大学医学部外科学教授の
池田正さん

「乳癌診療ガイドライン」は、エビデンス(科学的根拠)に基づいて乳がん診療の基本的方針を示すものです。
乳がんの場合は、2004年以来薬物療法、外科療法、放射線療法、検診・診断、疫学・予防と5つの分野ごとに、QアンドA方式で指針が示されてきました。しかし、乳がん治療は進歩が目覚ましく、すでに2007年には薬物療法の診療ガイドラインが改訂されています。
また、今年9月の日本乳癌学会では、外科療法を含む4ガイドラインについても改訂版が発表される予定だそうです。とくに、「かなり大幅に改定される」という外科療法を中心に、帝京大学医学部外科学教授の池田正さんに、乳がん診療の基本的な枠組みを聞きました。

日本は6割が温存療法で治療

「乳癌診療ガイドライン」
日本乳癌学会編「乳癌診療ガイドライン」

乳がんは、日本でも今や女性がかかるがんのトップ。しかし、幸い乳がんは早期発見も多く、治る率も高いがんです。治療の面でも乳房温存療法、センチネルリンパ節生検、分子標的治療薬ハーセプチン(一般名トラスツズマブ)の登場など、他のがんに先んじて先進的な治療が次々に取り入れられてきました。それだけ、治療法の進歩が著しいがんともいえるのです。

医師らの日常臨床を行うのを支援するために系統的に書かれた手引きである乳がんの診療ガイドラインは、エビデンスに基づく治療法が掲載されています。池田さんによると、これまで外科療法の診療ガイドラインには25の治療指針があげられていましたが、「2008年9月の改訂では、その項目が30になります。実際には、これまでの25の項目を整理して新しい項目が18加わるので、かなり大幅な変更になると言っていいでしょう。とくにセンチネルリンパ節の項目がだいぶ増えそうです。センチネルリンパ節生検が普及したことの反映と思われます」と語っています。

患者さんの希望がとても強い乳房の切除を最小限にする「乳房温存療法」に関しては、「9月の改訂ではあまり大きな変化はない」(池田さん)そうです。

つまり、基本的には病期(がんの進行度)が2期までのがんで大きさが3センチ以下のものが適応になります。海外では、4センチを目安としているガイドラインもありますが、日本人の場合はもともと乳房が小さいので、あまり大きながんは乳房を温存しても変形が目立ってしまうので、3センチが目安になっているのです。

少し大きながんについては、乳房とがんの大きさのバランスから美容的に意味があれば、抗がん剤で縮小させてから温存療法を行うこともかなり一般化してきました。

「乳房温存療法は、すでに確立された治療法で、欧米との差もほとんどなくなりました。米国でも、乳房温存療法を受ける人は、低い地域では40パーセントぐらいですが、日本では2006年の段階で、乳がん患者全体の60パーセントを超えています」(池田さん)

日本の乳がんは早期発見が多く、日本乳癌学会の統計によると、7割が3センチ以下で見つかっているといいます。ところが、こうした温存療法の広範な普及が、一方では「見直し」の時期を迎えているそうです。

[腫瘤の大きさと術式(遠隔転移なしのみ)]

腫瘤の大きさ(cm)/術式 なし 乳房温存療法 全乳房切除 胸筋温存乳房切除術 胸筋合併乳房切除術以上 その他 不明 合計
0 3 316 67 114 2 8 0 510
~0.5 0 135 19 37 0 2 0 193
0.6~1.0 0 1,214 58 290 1 17 0 1,580
1.1~2.0 5 3,347 235 1,391 8 56 1 5,043
2.1~5.0 6 2,580 343 3,217 13 37 0 6,196
5.1~10.0 3 119 50 615 13 8 0 808
10.1~ 0 11 10 53 10 1 0 85
不明 3 406 75 246 2 18 4 754
合計 20 8,128 857 5,963 49 147 5 15,169
(出展:日本乳癌学会 全国乳がん患者登録調査報告(暫定版))

見直されている乳房全摘+乳房再建

[海外におけるガイドライン(GL)とGLを討議する国際会議]

  • ザンクトガレン コンセンサス会議
  • NIH(米国がん研究所)コンセンサス会議
  • ASCO(米国臨床腫瘍学会)
  • NCCN(全米包括がんセンターネットワーク)ガイドライン

現在、温存療法に代わって米国を中心に見直されている治療法が、「乳房全摘術プラス乳房再建」という道です。最近の米国臨床腫瘍学会(ASCO)で、米国の総合病院メイヨークリニックの医師が、「乳房全摘術が増加している」と発表したそうです。これは、乳房全摘術+乳房再建がセットになっている影響だそうです。がん検査の面でも、「MRI(磁気共鳴画像装置)の普及で、これまでマンモグラフィやエコーなどの検査ではわからなかった多発乳がんや、周囲に広がっている乳がんがわかるようになってきました」と池田さん。乳房にがんがいくつも発生していれば、乳房温存療法で治すことは困難です。

日本では、2007年に、乳房再建にウォーターバッグ(拡張用バッグ)を使うことが健康保険で認められ、乳房再建を行う環境は良くなってきています。しかし、「日本ではまだ再建術は数少ない」(池田さん)そうです。

乳房全摘術は、胸筋を温存しても胸はペチャンコになってしまいます。それが、以前は米国などでも嫌がられていましたが、米国の場合、今ではかなりの人が全摘と同時に乳房再建術を受けており、再建術に熟練した医師もいます。ところが、日本の場合は、「まだ数パーセントというレベルの症例数」(池田さん)だそうです。

さらには、「『再建はどうしますか』と尋ねると、『面倒臭いからいいです』とか、『別の場所に傷がつくのは嫌です』という患者さんが多い。がんの治療で精一杯で、美容的なことまで考えられないのでしょう」と池田さんは語っています。

日本の場合は、形成外科の一部の医師しか乳房再建を行っていないというのも「数が少ない」現状となっているようですが、米国では、乳房とがんの大きさのバランスで変形が目立ってしまうのならば、温存に固執するより、全摘してきれいに再建する、という方法に注目が集まってきているのです。ちなみに、乳房再建が乳房局所に再発したがんの発見を遅らせないか、という心配があります。その点については、池田さんによると「文献的には遅れにつながらない」そうです。


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