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乳がん治療にジェネリック抗がん剤を導入した三井記念病院
ジェネリック、患者さんにとっての3つのメリット

監修:福内敦 三井記念病院乳腺内分泌外科科長
取材・文:江口敏
発行:2008年10月
更新:2013年4月

  

福内敦さん
三井記念病院
乳腺内分泌外科科長の
福内敦さん

日本ではジェネリック医薬品の普及が遅れているが、2年前にいち早く乳がん治療にジェネリック抗がん剤 パクリタキセル注「NK」を導入したのが、三井記念病院である。同病院乳腺内分泌外科科長の福内敦さんに、ジェネリック抗がん剤のメリットを聞いた。

パクリタキセルは術前・術後・再発に有効

写真:三井記念病院
千代田区神田和泉町にある三井記念病院

抗がん剤に限らず多くの薬は、医薬品メーカーが莫大なお金と時間をかけて開発し、臨床試験を行い、所管官庁の認可を受け、治療に使われている。開発メーカーの創業者利益は、特許で10年間程度保護されているが、特許期間が切れたときには、ほかのメーカーが同じ成分の薬をつくることが認められている。

そういう後発の医薬品をジェネリック医薬品という。開発期間は短く、開発費用も少なく抑えられるため、価格は先発医薬品に比べて3割ほど安い。欧米ではすでに、ジェネリック医薬品が数量ベースで全体の50パーセントを超えているが、日本では2006年時点でまだ16.9パーセントにしか達しておらず、欧米より普及が遅れている。

そんな中で、乳がん治療にジェネリック抗がん剤を積極的に使用しているのが、三井記念病院乳腺内分泌外科である。同科長の福内敦さんは、「私どもが他の病院に先がけてジェネリック抗がん剤を使い始めたのは2年前からです」という。

福内さんが使っているのは、タキサン系の抗がん剤で、静脈注射で投与するパクリタキセル(一般名)である。「乳がん治療には術前治療、再発を予防する術後治療、そして再発治療と3つの局面があります。パクリタキセルはどの局面の治療にも使える抗がん剤です。アントラサイクリン系の薬とともに現在の乳がん治療のキードラッグです」と、福内さんはいう。

[各国のジェネリック医薬品のシェア]
図:各国のジェネリック医薬品のシェア
出典:日本ジェネリック製薬協会(2005年度)改変(2006年実績、日本は2005年度実績)

ジェネリック抗がん剤パクリタキセル採用の3つのメリット

パクリタキセル注「NK」を使い始めた当初は、患者さんにジェネリック抗がん剤を使うことについて広く案内を行った。その案内の文書は今でもロビーの掲示板に貼り出されている。

「パクリタキセルによる治療を受ける方へのお知らせ」と題するその文書には、《乳腺内分泌外科では、患者さんの経済的負担軽減を目的に、タキソール(商品名)注射液のジェネリック医薬品、パクリタキセル注「NK」(商品名)を採用することにしました》として、パクリタキセル注「NK」採用の3つのメリットが解説されている。

まず第1は「お薬代が安くなります」である。薬価が従来製品の約70パーセントで、毎回会計窓口で支払う薬剤費が軽減されることが明記されている。その下に天秤ばかりのイラストが描かれ、パクリタキセル注「NK」と従来製品タキソールの、100ミリグラム1バイアルの薬価が比較されており、タキソールが3万9089円に対してパクリタキセル注「NK」は2万8402円と書かれている。

第2は「品質は従来の製品と同じです」で、パクリタキセル注「NK」が厚生労働省の品質基準をクリアし、従来製品と同等の品質・有効性・安全性を持っていることが示されている。

第3は「パクリタキセルのジェネリックは世界的に使用されています」という点で、同様の製品は世界50カ国以上で使用されており、アメリカのパクリタキセル市場では、2005年時点で、82パーセントがジェネリック品に移行していることを示す円グラフが掲載されている。

要するに、乳がん治療にジェネリック抗がん剤を採用した理由は、「先発品に比べてコストが安い、先発品と効果が同じ、各国で使われており安全性も確か」の3点である。ジェネリック抗がん剤だからといって、効果や安全性に問題はなく、患者さんにとっては、薬価が安いという大きなメリットがある。

再発率、副作用ともに従来製品と差はない

三井記念病院ロビーの掲示板に貼り出されているジェネリック抗がん剤の案内

三井記念病院ロビーの掲示板に貼り出されているジェネリック抗がん剤の案内

福内さんも「患者さんのメリットを考えてジェネリックを導入しました」と明言し、続けてこう語る。 「昨今、エビデンス(化学的根拠)に基づいたガイドラインが示されるようになり、薬の使い方、治療法など、医師の裁量の幅は狭くなっています。一方、エビデンスがある一定の水準を満たすものの中であれば、選択の幅は逆にひろがり、コストが安いという点も選択の重要な条件になるでしょう。もちろん患者さんにメリットがありますし、また、年間30兆円といわれる医療費の、これ以上の増大を抑制するためにも、使えるジェネリック医薬品は使っていくという姿勢が、医療側として必要ではないかと思います」

パクリタキセル注「NK」の投与方法は、「3週間に1回、3時間かけて210ミリグラム(体表面積1平方メートル当たり)ずつ投与する方法」で行われている。

「患者さんにもよりますが、副作用は脱毛、末梢神経障害などの症状が多く、吐き気は少ないようです。ジェネリック抗がん剤を採用したこの2年間で、再発率や副作用についてみるかぎり、従来製品との差は全く見られません。これからも乳がん治療にはジェネリック抗がん剤を使っていきます」と、福内さんはきっぱり。

大手病院の中でもいち早く、乳がん治療にジェネリック抗がん剤を導入した三井記念病院の今後が注目される。


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