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乳がん術前化学療法の効果、術前ホルモン療法の可能性
病理学的完全奏効率を高めると予後が改善される

監修:澤木正孝 名古屋大学大学院医学系研究科化学療法学講座講師
取材・文:「がんサポート」編集部
発行:2008年9月
更新:2014年1月

  
澤木正孝さん
名古屋大学大学院医学系研究科
化学療法学講座講師の
澤木正孝さん

直径3センチ以上の大きな乳がんでも、手術前に化学療法を行うことによって乳房を温存できる可能性がある。それを術前化学療法と呼んで、すでに知っている乳がん患者さんも多いと思う。
しかし、術前療法には実はもう1つある。
術前ホルモン療法で、これが今注目を集めつつある。

7センチ大の乳がんを化学療法で縮小

「これ、何かしら?」

名古屋近郊に住む20代女性の柴田里香さん(仮名)は、ちょっと前から悩んでいた。右側のオッパイに手が触れると、何か硬いしこりのようなものを感じたからだ。それもかなり大きそうだった。

当初は、まったくがんと思い及ばなくて、「何だろう、何だろう」と疑問が堂々巡りするばかり。あっという間に1カ月が過ぎた。

いろいろ調べたり、母親に聞いたりしているうちに、「もしかして」という思いが過ぎった。そこで、大病院で診てもらわなくては、と思って、名大病院(名古屋大学医学部付属病院)へ駆けつけた。

病院で彼女の診察をしたのは、乳腺・内分泌外科外来の澤木正孝さんだった。

「見ると、明らかに左右で乳房の大きさが異なっている。触診すると、硬いしこりに触れ、この形と触診ですぐにわかりましたね」

後日、針生検、超音波、CTなどの検査の結果、がんと確定。大きさは直径約7センチ。ホルモン受容体は陰性、HER2受容体も陰性。遠くの臓器への転移はなかった。

少し前なら、乳房全摘が必須だ。しかし、柴田さんは「まだ結婚前でもあり、なんとか乳房を残してほしい」と澤木さんに切望した。澤木さんは、それに応えて術前化学療法を実施することにした。腫瘍が大きいこと、若いことなどを考慮して、FEC→ウイークリーT療法を選んだ。FEC療法に、引き続きタキソール(一般名パクリタキセル)の毎週投与法を行う治療法だ。FECは、5-FU(一般名フルオロウラシル)、ファルモルビシン(一般名エピルビシン)、エンドキサン(一般名シクロホスファミド)の頭文字を取った3剤併用療法で、CEF療法ともいう。

まず、FEC療法を行った。これが非常によく効き、あんなに大きかったがんが3カ月で1センチ近くにまで縮小。引き続き、タキソールの毎週投与を12回行ったところ、さらに縮小し触診ではほとんどわからなくなった。

一方、副作用は思ったほどひどいものはなかった。脱毛は起こったが、吐き気、手先のしびれは多少あるものの、生活に支障を来すほどではなかった。熱もなく、骨髄抑制も強くはなかった。

こうして柴田さんは、6カ月にわたる術前化学療法により希望した乳房温存手術にこぎ着けたというわけだ。

術前化学療法の有用性が臨床試験で確立

このように、乳がんが大きくて以前ならとても乳房を温存することは無理な場合でも、最近では、術前に化学療法(抗がん剤治療)をすることによってがんを縮小し乳房を温存する手術ができるようになっている。澤木正孝さんはこう言う。

「しこりが大きくても、乳房を温存できる可能性は十分あります。我が国のガイドラインでも、『しこりが大きくても乳房温存術を希望される方には、術前抗がん剤治療を強くお勧めします』(『乳がん診療ガイドラインの解説』)と明記されています」

術前化学療法という治療法自体は、昔からあるにはあった。ただ、今日のように乳房温存を目的にしたものではなく、手術不能の局所進行乳がんに対して、手術ができるようにするために行われていた。

しかし、手術可能な乳がんに対して、このように術前に化学療法を行えば、その分手術時期が遅れることになり、かえって予後が悪くなるのではないかと懸念されてきた。そこで、本当に予後が悪くなるのかどうかが大規模な臨床試験で検証され、乳がんに対する術前化学療法の有用性が確立されたというわけだ(図1)。

[図1 乳がんの術前化学療法に関する主な臨床試験]

臨床試験 試験内容 結果
NSABP
B-18
術前化学療法(AC療法)
vs
術後化学療法(AC療法)
生存期間・再発までの期間=両方の治療法の間に差がなかった。
乳房温存率=術前に化学療法を行った群で割合が高かった。
pCR (病理学的完全奏効率)例は予後がよい。
NSABP
B-27
術前化学療法(AC療法)
vs
術前化学療法(AC→D療法)
vs
術前化学療法(AC療法)
+術後化学療法(D療法)
生存期間・再発までの期間=それぞれの治療法の間に差がなかった。
術前にD(タキソテール)を加えることにより、pCR率が倍になった。
pCR例は予後がよい。
Buzder 術前化学療法(T→FEC療法)
vs
術前化学療法(T→FEC療法
+ハーセプチン)
HER2陽性乳がんの術前化学療法にハーセプチンを加えることで、pCRが明らかに向上した。

病理学的完全奏効率と予後とが相関

その1つは、手術可能な乳がん患者1523名を対象に、化学療法のAC療法(アドリアシン、エンドキサン)4サイクルを術前に行う場合と術後に行う場合で予後がどうなるかを比較検討した臨床試験(NSABP B-18)だ(図3)。

これは実に16年にも及ぶ長期観察をした結果、再発率、生存率では差はなかった。乳房温存率でも、術前に行うほうが術後に行うよりも7パーセント(67対60)ほどよかったものの、有意差はなかった。と、ここまではそれほどの結果ではないが、澤木さんは次の点が大事という。

[図3 術前化学療法の効果]
図3 術前化学療法の効果

「術前に化学療法を行った場合、病理学的完全奏効率(pCR)が13パーセント出ましたが、この人たちの予後が非常によく、病理学的完全奏効率と予後が相関していることがわかったのです。これは、全身治療によって、局所でがん細胞が根絶している場合は、全身の微小転移の制御を示唆するという考えを支持するものです。そこで、病理学的完全奏効率が長期予後の代替指標(サロゲート・マーカー)になるのではないかという考えも出ました」(図2)

ここで、断っておかなくてはいけないのは、病理学的完全奏効といっても、欧米では乳管内にがんが多少残っていても、浸潤がんが消失していればそれに当てはまることだ。

[図2 病理学的完全奏効率(pCR)と予後は相関]

図2 A B-18
図2 B B-27




上記グラフの出典:VOLUME26 NUMBER5 2.10 2008 JOURNAL OF CLINICAL ONCOLOGY

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