乳がんのホルモン療法最新ホット情報
抗エストロゲン剤5年間服用後、さらにアロマターゼ阻害剤5年間服用を
藤田保健衛生大学病院
乳腺外科教授の
内海俊明さん
乳がんの手術後に、再発予防のために抗エストロゲン剤のタモキシフェンを5年間服用するのが標準治療とされているが、最新報告によれば、その後さらにアロマターゼ阻害剤のフェマーラを5年間追加服用したほうがもっと効果が高くなることが明らかになった。その服用は、タモキシフェン終了後に間を置いてから服用しても効果があるという。
ホルモン感受性陽性なら手術後にホルモン療法
乳がんの手術を受けると、その後に再発を防ぐための治療が行われる。手術でがんをきれいに取り除いたとしても、画像検査で見つからないほど小さながんが、全身のどこかに転移しているかもしれないからだ。
もし、そのような転移が起きていると、小さながんは気づかれないまま成長し、いずれ再発転移がんとして発見されることになる。そうならないためには、手術した直後に、治療を加えておく必要があるのだ。このような治療は、アジュバント療法(術後治療)と呼ばれている。
このような手術後の治療として行われるのは、放射線療法や薬物療法である。薬物療法で使われる薬には、抗がん剤、ホルモン剤、分子標的剤がある。
藤田保健衛生大学教授の内海俊明さんによれば、これらの薬のうち、ホルモン剤と分子標的剤は、どのような人のがんに効果があるかがはっきりしている薬だという。
「抗がん剤はがんを死滅させるための薬で、とくに相手を選ばずに使われます。それに対し、ホルモン剤は、エストロゲン(女性ホルモン)に対するレセプター(受容体)を持っているがんに効くことがわかっています。分子標的剤のハーセプチン(一般名トラスツズマブ)は、細胞の表面にHER2というたんぱく質を多く持っているがんに効きます。分子標的剤による治療をターゲッティッドセラピー(targeted therapy)と呼ぶことがありますが、乳がんのホルモン療法も、やはりターゲッティッドセラピーなのです」
乳がんの手術が終わると、切除したがんの病理検査が行われ、どのような薬が効くのか、再発の危険性はどの程度か、といったことが検討される。その結果、ホルモンレセプターが陽性だった人に対しては、ホルモン療法を受けることが推奨されているのである。
閉経後の患者さんにはアロマターゼ阻害剤を使う
ホルモン療法が、どうして乳がんの治療に有効なのかを説明しておこう。
乳がんには、エストロゲンに対するレセプターを持つタイプと、持たないタイプがある。レセプターを持つ乳がんは、エストロゲンを利用して増殖する。エストロゲンをがん細胞の餌と考えるとわかりやすいかもしれない。乳がんのホルモン療法は、がん細胞にエストロゲンという餌を与えなくして、がんを弱らせる治療法なのである。
乳がんのホルモン療法で使われる薬には、LH-RHアナログ、抗エストロゲン剤、アロマターゼ阻害剤の3種類がある。
LH-RHアナログは閉経前の人に使われる薬で、ホルモン分泌の中枢である下垂体に作用し、結果的に卵巣からのエストロゲンが分泌されないようにする薬だ。
抗エストロゲン剤は、エストロゲンの分泌は抑えないが、エストロゲンが乳がんに作用するのを抑える働きをする。抗エストロゲン剤としては、タモキシフェン(商品名ノルバデックス等)がある。
アロマターゼ阻害剤は、閉経後の患者さんに使われる薬だ。閉経前の女性は、主に卵巣からエストロゲンを分泌しているが、閉経すると卵巣からの分泌がなくなる。しかし、副腎皮質で分泌されるアンドロゲン(男性ホルモン)を材料に、アロマターゼという酵素の働きを利用して、エストロゲンを作り出している。そこで、アロマターゼの働きを阻害することで、エストロゲンができるのを防ぐのがアロマターゼ阻害剤なのだ。
現在使われているアロマターゼ阻害剤には、フェマーラ(一般名レトロゾール)、アリミデックス(一般名アナストロゾール)、アロマシン(一般名エキセメタスン)という3種類がある。
閉経後の患者さんの手術後の治療としてよく使われているのは、抗エストロゲン剤とアロマターゼ阻害剤だ。かつては、タモキシフェンを手術後の5年間服用するのが標準的だったが、最近では、閉経後の患者さんには、アロマターゼ阻害剤も積極的に使われるようになっている。
「2005年のASCO(米国臨床腫瘍学会)によるアロマターゼ阻害剤に関する評価で、閉経後の患者さんの術後治療にアロマターゼ阻害剤を使うことが推奨されています。また、日本の『乳癌診療ガイドライン』の2007年版でも、閉経後の患者さんの場合、タモキシフェンよりアロマターゼ阻害剤のほうが無病生存期間を延ばすので、第1選択薬として用いることが勧められています」 閉経前ならタモキシフェンが使われるが、閉経後ならアロマターゼ阻害剤が選ばれる時代になっている。
タモキシフェンの後にフェマーラを続ける
かつては、閉経後の患者さんの術後のホルモン療法といえば、タモキシフェンを5年間服用する治療が行われてきた。それによって、再発率が大幅に下がることは間違いないのだが、それでも再発は起きてしまう(図1)。
実は、術後の最初の5年間と、5年後~15年後の10年間の再発率は、ほぼ同じだというデータがある。このように、再発が起こる可能性が長期にわたることから、術後の治療は5年間で終わりにするより、もっと長く続けたほうがいいのではないか、と考えられるようになった。
こうして、いくつかの大規模な臨床試験が行われることになった。タモキシフェンを5年間服用した後に、アロマターゼ阻害剤による治療を追加したほうがいいかどうかを調べた「MA・17」という臨床試験(無作為化2重盲検比較試験)がある。
この試験では、手術後にタモキシフェンを5年間服用した人を、かたよりなく2つのグループに分け、一方にはアロマターゼ阻害剤のフェマーラを5年間服用させ、もう一方のグループにはプラセボ(偽薬)を服用させた。このようにして、タモキシフェンによる治療を行った後に、フェマーラによる治療を継続するほうがいいかどうかを調べたわけだ。
「その結果ははっきりしていました。フェマーラを5年間追加して服用すると、プラセボを服用したグループに比べて無病生存率が改善し、再発のリスクが42パーセントも減少することが明らかになったのです」(図3)
このように継続して治療を行うことを、専門的にはエクステンディド・アジュバント療法(継続術後治療)という。現在、エクステンディド・アジュバント療法の臨床試験の中で、最もエビデンス(科学的根拠)レベルが高いのが、この「MA・17」試験だという。
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