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タモキシフェンによる再発予防に
さらに継続治療を行うと効果的

監修:内海俊明 藤田保健衛生大学病院乳腺外科教授
発行:2007年4月
更新:2013年4月

  
内海俊明さん
藤田保健衛生大学病院教授の
内海俊明さん

乳がんの新しいホルモン療法剤として注目されるアロマターゼ阻害剤。

術後の再発予防として、タモキシフェンを5年間服用の後、フェマーラを継続する治療には、優れた効果が認められている。

フェマーラの長期処方が可能になることで、わが国の術後ホルモン療法が、また1歩前進することになりそうだ。

術後の治療に関して注目の新しい情報

乳がんの手術後には、再発防止のための治療を付け加える必要がある。手術で乳房の腫瘍をきれいに切除できても、目に見えないほどの微小ながんが、全身のどこかに転移している可能性があるからだ。もしそうだった場合、転移した微小がんは気づかれないまま増殖を続け、いずれ再発を起こすことになる。乳がんが全身病と呼ばれるのはこのためだ。

手術後の再発を防ぐ治療には、ホルモン療法、化学療法、放射線治療があり、ホルモン療法で使われる薬にはいくつかの種類がある。これらの治療を加えることで目に見えない微小ながんを攻撃し、再発を防ぐのである。

藤田保健衛生大学病院乳腺外科教授の内海俊明さんは、治療法を選ぶ際には、患者さんがどうしたいかを最優先に考えるという。

「手術が可能な乳がんなら、放射線治療や、ホルモン療法や化学療法などの薬物療法を加えることで、治癒を目指すことができます。標準治療は1つだけではないので、いろいろな治療法があることを説明し、よく理解してもらったうえで、治癒を目指した治療に取り組むようにしています。大切なのは、患者さん自身が治癒を目指す気持ちを持っていることですね」

内海さんが治療の指針としているのは、「ザンクト・ガレンのガイドライン(治療指針)」と「NCCN(National Compre-hensive Cancer Netwark=全米総合がん情報ネットワーク)のガイドライン」だという。患者さんに話をするときには、ザンクト・ガレンの内容を用いることが多いそうだ。

再発防止の治療として、女性ホルモンのレセプター(受容体)を持っているがんに対しては、ホルモン療法がとくに重要な治療法となっている。一般に、ホルモン療法より抗がん剤のほうが効果的だと思われているが、決してそうではない。ホルモンレセプターを持たないがんに対しては、ホルモン療法が効かないので抗がん剤による治療が行われるが、ホルモンレセプターを持つがんに対しては、ホルモン療法を受けることが推奨されているのである。

[ザンクト・ガレン国際会議による乳がん術後治療ガイドライン]

リスク
カテゴリー
内分泌反応性 内分泌反応性不確実
低リスク タモキシフェン orアロマターゼ阻害剤or治療なし(1) タモキシフェン orアロマターゼ阻害剤or治療なし(1)
中リスク タモキシフェン
or アロマターゼ阻害剤
or 化学療法(3) →タモキシフェン(2)
or 化学療法(3) →アロマターゼ阻害剤
タモキシフェン投与後のアロマターゼ阻害剤へのスイッチ:
タモキシフェン2~3年後
   →エキセメスタン
   →アナストロゾール
タモキシフェン5年後 →レトロゾール
化学療法(3) →アロマターゼ阻害剤
or 化学療法(3) →タモキシフェン(2)

タモキシフェン投与後のアロマターゼ阻害剤へのスイッチ:
タモキシフェン2~3年後
   →エキセメスタン
   →アナストロゾール
タモキシフェン5年後 →レトロゾール

高リスク 化学療法(3) →タモキシフェン(2)
or 化学療法(3) →アロマターゼ阻害剤
タモキシフェン投与後のアロマターゼ阻害剤へのスイッチ:
タモキシフェン2~3年後
   →エキセメスタン
   →アナストロゾール
タモキシフェン5年後 →レトロゾール
化学療法(3) →アロマターゼ阻害剤
or 化学療法(3) →タモキシフェン(2)
タモキシフェン投与後のアロマターゼ阻害剤へのスイッチ:
タモキシフェン2~3年後
   →エキセメスタン
   →アナストロゾール
タモキシフェン5年後 →レトロゾール
(1)提示されている治療が適応できない場合(副作用、合併症など)、患者や医師が希望(または、その治療を拒否)する場合の代替の選択肢となる
(2)化学療法を受けている患者は、化学療法が終了するまでタモキシフェンの投与を開始しない
(3)内分泌療法に化学療法を追加するかどうかは、内分泌療法に対する反応性が確実か不確実かの程度に依存することになる

[NCCNの乳がん治療ガイドライン]
図:NCCNの乳がん治療ガイドライン

NCCNのガイドラインでも、継続治療にはフェマーラ(レトロゾール)が推奨されている

女性ホルモンの作用で増殖する乳がんがある

ホルモン療法を理解してもらうためには、乳がんと女性ホルモンの関係について、簡単に説明しておく必要があるだろう。

乳がんの中には、女性ホルモンの働きを利用して増殖するタイプと、女性ホルモンには関係なく増殖するタイプがある。乳がん全体の約6割は、女性ホルモンを利用して増殖する。ホルモン療法は、女性ホルモンががん細胞に作用するのを防ぐことで、がん細胞の増殖力を失わせる治療法。女性ホルモンをがん細胞のエサだと考えると、わかりやすいだろう。がん細胞にエサを食べさせずに弱らせる兵糧攻めのような治療法なのだ。

女性ホルモンを利用して増殖するがん細胞は、女性ホルモンと結合するレセプターを持っている。したがって、ホルモンレセプターを持っているかどうかを調べることで、ホルモン療法が効くかどうかを判断することができる。ホルモンレセプター陽性なら、ホルモン療法が勧められるわけだ。

乳がんのホルモン療法で、これまでよく使われてきたのが、エストロゲン(女性ホルモンの一種)の働きを抑えるタモキシフェン(商品名ノルバデックス等)である。過去20年余り、乳がんの術後再発予防の標準治療薬として、世界中で使われてきた。

「手術後にタモキシフェンを5年間服用すると、服用しなかった場合に比べ、再発リスクが47パーセント減少することがわかっています」

再発をほぼ半減させるのだから、大きな効果であることは間違いないが、タモキシフェンには、ごく低い頻度ではあるが、子宮に内膜がんを発生させる危険性もある。そこで、より安全で効果的なホルモン療法薬の登場が待ち望まれていた。

閉経後はアンドロゲンをエストロゲンに作り替えて分泌される

最近、アロマターゼ阻害剤という薬が、乳がんのホルモン療法薬として注目されている。とくに閉経後の人の乳がんの場合、タモキシフェンを凌駕する働きをすることがわかってきた。なぜ、閉経後の女性に効くのだろうか。

閉経前の女性は、卵巣からエストロゲンが分泌されている。閉経すると、卵巣からはエストロゲンが分泌されなくなるが、副腎皮質で分泌されるアンドロゲン(男性ホルモン)を材料にして、アロマターゼという酵素の働きでエストロゲンが作り出される。アロマターゼは、脂肪組織、肝臓、筋肉、乳がん組織にあり、これがアンドロゲンをエストロゲンに作り替えてしまうのだ。

アロマターゼ阻害剤は、アロマターゼの働きを阻害することで、エストロゲンを作れなくする。閉経後のホルモン量は閉経前の10分の1から100分の1に減るが、アロマターゼ阻害剤を使うと、それをさらに10分の1から20分の1に抑えることができるという。そのため、閉経後でホルモンレセプターが陽性の場合には、アロマターゼ阻害剤を使うことで、がん細胞の増殖を抑えられるのである。

[エストロゲン産生とホルモン療法]
図:エストロゲン産生とホルモン療法


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