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メスを入れない、麻酔もいらない「集束超音波手術」を使った乳房温存療法
第3段階を経て、現在、最終臨床試験を実施中

監修:古澤秀実 ブレストピアなんば病院副院長
取材・文:守田直樹
(2007年2月)

古澤秀実さん
ブレストピアなんば病院副院長の
古澤秀実さん

メスで傷つけず、麻酔も使わずに皮膚の上から超音波を当てることで、乳がんを死滅させる治療に取り組んでいる病院が宮崎県にある。「ブレストピアなんば病院」だ。

治療にはうつ伏せの状態で2時間ほどかかるが、いわゆるエコー検査のように熱くなく痛みもない。

治療後1時間ほど安静にすれば、外来で日帰りができるという。

いわば究極の乳房温存治療ともいえるこの「超音波療法」のしくみと最新成果を取材した。

集束した超音波ビームでがん病巣を熱凝固させる

乳房温存手術の先を行く方法は、超音波で乳がんを焼く「集束超音波手術」(Forcused Ultrasound Surgery)、略して「FUS」と呼ぶ。ブレストピアなんば病院の副院長・古澤秀実さんはこう説明する。

「集束超音波は、機械を使って208本の超音波ビームを集束させ、がん病巣の温度を上げて熱凝固させる治療なんです」

超音波は、人間の耳には聞こえない高い振動数をもつ振動波。安全で副作用もないので、医療現場でもさまざまな検査に使われている。肝臓や心臓の検査、胎児検査で扇型に影のような画像が浮かび上がるのもエコー(超音波)だ。

超音波は通過部分に障害物があると反射するため、その反射波が返ってくる時間や強度から画像化する。

「でも、集束させれば熱を生じさせられるんです。超音波というように実際は波なので、波の干渉の原理でゼロに、またある部分は増幅させられるんです」

[図(1) 集束超音波手術「FUS」は虫めがねの原理]
図(1) 集束超音波手術「FUS」は虫めがねの原理

右図(1)のように、日光を1点に集めて高温にする虫めがねをイメージしてほしい。治療台のなかにあるお皿のような装置から発する208本の超音波を、標的で集束させる。腫瘍までの深さや、その間の脂肪の量によって温度の上がり方は異なるが、コンピュータの計算によって腫瘍の一帯だけを60度から90度に温めて、がん細胞を死滅させる。いわゆる「温熱療法」と同じ原理の治療になる。

ぽかぽか温かい電気アンカなどに長時間素肌が触れたままでいると低温火傷になるのと同じように、がん細胞も熱に弱く、

「60度なら1秒くらい、43度なら4~5時間で死滅します」と、古澤さん。

説明を簡略化するため「焼く」という表現を使うことが多いが、生卵をゆで卵にするイメージの「熱凝固」が正しい。焼いて溶かすわけではなく、死滅させたがん細胞をそのままにするわけだが、外科手術などで取りのぞく必要はないのだという。

「がん細胞が死んでしまえば、ちゃんと分解されて正常な組織におきかわってくるんです。人間の生態というのはすごいんです」

MRIのガイドで行う集束超音波手術

図:治療台の装置から超音波を集束させ、標的にあてる
治療台の装置から超音波を集束させ、標的にあてる

図:治療の様子
患者は円筒状の機械のなかで、うつぶせの状態で治療を受ける

図:「スポット」
「スポット」と呼ぶ小さな超音波を積み重ねて治療する

超音波の照射を標的腫瘍に向けて正確に行うために利用しているのが、MRI(磁気共鳴画像診断装置)だ。

超音波画像を見ながら行う方法もあるが、がんの広がり方を知る上で、より優れていると、同院ではMRIを見ながら行う方法を選択。

集束超音波を組み合わせた機械で治療は行われるため、「MRガイド下集束超音波手術」(MRgFUS)と呼ばれる。

ガウン姿の患者は、MRI磁場をつくる円筒状の機械のなかで、うつぶせの状態で治療がはじまる。

時間の目安は2時間~2時間半。医師やMRI技師がリアルタイムでMR温度分布画像をモニタリングしながら治療を行い、患者が非常ボタンを押すと即座にエネルギー出力が停止する仕組みになっている。

治療の開始前から鎮痛剤と鎮静剤を静脈注射し、不安や閉所恐怖症を軽減。傷はまったく残らず、「治療後1時間ほど安静にすれば、外来で日帰りできる」

ただし、難点もある。ビームを集束させる必要から患者は治療中じっとしていなければならず、動けないのだ。

ブレストピアなんば病院は、2004年4月から翌年2月までに、第2段階目の臨床試験を終了した。

適応基準に合致した患者からインフォームド・コンセント(説明と同意)を得た30名に「集束超音波」を実施。その後、2週間以内に通常の乳房温存手術を行い(1名全摘)、切りとった腫瘍を顕微鏡で検査して病理学的な効果を判定した。

1回の照射に約2分かかり、90秒の冷却時間をはさんで40~50回繰り返す。治療時間は主として腫瘍の大きさで決まり、平均2時間20分だった。

臨床試験の参加者30人のうち、評価対象症例となったのは2名をのぞく28症例。対象外の1名は閉所恐怖症から治療を中止。もう1名はごく一部だけでプロトコール(臨床試験上の約束)違反があったために、治療は終了したが評価対象からはずれた。

切除後の病理検査では、28の評価対象症例のうち15症例では切除腫瘍は100パーセント壊死させることに成功。残りの10症例で95~97パーセント壊死、3症例で95パーセント未満の壊死となり、トータルの平均壊死は腫瘍体積の96.9パーセントだった。

一方、28症例で、悪性腫瘍は100パーセント治療照射範囲内にあったが、2症例だけで腫瘍の2パーセントおよび5パーセントが範囲外となった。

「その2症例は、遺残腫瘍が治療のマージン(辺縁部)上に位置していました。がん組織はかならずしもきれいな円形ではなく、いびつな形をしていることもあります。超音波の治療計画中は、全方向に5ミリのマージンを保障するため、標的腫瘍のMR画像をいかに正確に読影するかにかかっています」

また、乳房の4分の1円に複数ある場合には除外することになっていたが、腫瘍が2つあるプロトコール違反などもあり、これらを除くと切除腫瘍の平均壊死率は98パーセントになる。

「こうした症例を除外すると、1症例だけが95パーセント以下の壊死率になりました。ただ、治療を終えた時点でそれが明らかだったので、今後はそのような場合には外科手術を行うか、再び超音波治療を行うかなどで解決できます」

この第2段階目の臨床試験では、乳房温存手術などでも行われるように手術前に抗がん剤を使い、2.9センチの腫瘍を1.2センチにまで小さくして集束超音波で治療してから手術したケースもあった。

「この患者さんの場合、超音波治療でがんが完全に死滅していたんです。つまり、実際には外科手術の必要はなかったのです。このように局所治療に関して、温存手術と超音波治療が同じ効果を示すことを証明したいんです」

遺残腫瘍=治療付近から出てきた取り残しの可能性のある腫瘍


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