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乳がんのホルモン療法最新報告
手術後にアロマターゼ阻害剤を服用する理由

監修:岩瀬弘敬 熊本大学医学部付属病院乳腺・内分泌外科教授
取材・文:松沢実
発行:2007年2月
更新:2013年4月

  
岩瀬弘敬さん
熊本大学医学部付属病院
乳腺・内分泌外科教授の
岩瀬弘敬さん

乳がんは、他のがんと違って、ホルモン療法が非常に大きな鍵を握っています。

とくにアロマターゼ阻害剤という新しいホルモン剤の出現によって、その重要性がますます高まっています。

その意味と理由について、サンアントニオ乳がん学会での最新報告を交えながら、わかりやすく解説します。

サンアントニオ乳がん学会の最新報告

写真:サンアントニオ乳がん学会
2006年12月に米国で行われたサンアントニオ乳がん学会

まずは、注目すべき乳がんのホルモン療法に関する最新報告から紹介しましょう。

2006年12月14~17日、第29回サンアントニオ乳がん学会が米国テキサス州のサンアントニオで開かれました。世界の乳がん治療に携わる医師や研究者が8000人余り集まり、乳がんに関する基礎研究から最新の臨床試験の結果まで幅広い内容が発表されました。

なかでも期待された発表のひとつに、ホルモンレセプター(受容体)陽性の閉経後早期乳がん患者を対象にしたNSABP(アメリカのがんの臨床試験グループ)によるB-33と呼ばれる臨床試験の報告があります。

「この試験は、乳がんの再発予防を目的とした術後のホルモン療法(補助療法)の効果を調べる臨床試験です。従来標準的治療とされてきた5年間タモキシフェンを投与する治療と、タモキシフェンの5年間投与後にアロマシン(一般名エキセメスタン)というアロマターゼ阻害剤を引き続き投与する治療の、どちらがより再発を抑えるのかを調べたところ、後者のアロマシンを追加投与したほうが再発をよく抑えるという中間報告の結果が発表されたのです」

と、熊本大学医学部付属病院乳腺・内分泌外科教授の岩瀬弘敬さんは述べます。

[術後補助療法の効果]
図:術後補助療法の効果

(サンアントニオ乳がん学会でのB-33試験結果)

この試験では、術後5年間タモキシフェンを投与した閉経後の早期乳がん患者を2つのグループに分けました。一方のグループには偽薬(プラシーボ)を、もう一方のグループにはアロマシンを服用してもらい、それぞれの再発抑制効果を調べたのです。その結果、5年間タモキシフェンを服用するだけよりも、以後も引き続きアロマシンを追加したほうが再発のリスクを56パーセントも低下させることがわかったのです。無再発生存率ではアロマシンを追加したほうが96パーセントに対してタモキシフェンのみが94パーセントで、2パーセントの差が認められました。

「すでに他のアロマターゼ阻害剤でも同じような臨床試験(MA-17)が行われ、5年間のタモキシフェン服用後引き続いてアロマターゼ阻害剤を飲み続けると、再発リスクが低減することが立証されています。今回の試験の結果も考慮すると、これからは、これまで標準的治療法であった5年間のタモキシフェン投与だけで終えるのではなく、引き続いてアロマターゼ阻害剤を投与していくことも選択肢のひとつになるものと思われます」(岩瀬さん)

乳がんを増殖させる養分を絶つ方法

乳がんという病気は、他のがんと少し違って、女性ホルモン(エストロゲン)を養分に分裂・増殖が促進されるという性質を持っています。この性質を「ホルモン感受性」と呼びますが、すべての乳がんにホルモン感受性があるというわけではありません。乳がんの細胞の表面にエストロゲンと結合するホルモンレセプターが存在する乳がんにホルモン感受性が認められるのです。

「ホルモンレセプターはエストロゲンレセプターとプロゲステロンレセプターの2種類があり、ホルモンレセプター陽性の乳がんは乳がん全体のうちの3分の2から4分の3を占めます。ホルモンレセプター陽性の乳がんはエストロゲンとホルモンレセプターの結合によってがん細胞の分裂・増殖が一気に高まるので、それを阻むことでがん細胞の勢いを抑えたり、死滅へ導いたりして治療に役立てようというのが乳がんのホルモン療法なのです」(岩瀬さん)

エストロゲンとホルモンレセプターの結合を阻むには2つの方法があります。1つはエストロゲンがホルモンレセプターと結合するのをブロックする方法で、もう1つはエストロゲンの分泌自体を抑え、それをなくしてしまう方法です。

ホルモンレセプターへの結合をブロックする

エストロゲンとホルモンレセプターの結合をブロックする方法は、タモキシフェンなどの選択的エストロゲン受容体調節薬(SERM)が使われます。

「タモキシフェンはエストロゲンに先回りしてホルモンレセプターと結合し、エストロゲンとホルモンレセプターの結合を阻止するホルモン剤です。閉経の前でも後でも効果が認められますが、閉経前より閉経後の患者さんのほうが高い治療効果を示します」(岩瀬さん)

タモキシフェンは乳がんの再発の予防を目的とした術後ホルモン療法で、5年間の服用によって乳がんの再発リスクが47パーセント、死亡リスクが26パーセント低下することが判明しています。そして、進行・再発乳がんの治療においても優れた治療効果を示し、長い間ホルモンレセプター陽性の乳がんに対する標準的ホルモン療法の地位を保持してきました。

「タモキシフェンはかつて抗エストロゲン剤といわれていましたが、乳房などの組織ではエストロゲンの働きを抑える抗エストロゲン作用を示す一方、骨などの組織ではエストロゲンの働きを促進させる作用を示すことから、最近はSERMと呼ばれています」(岩瀬さん)

閉経前と閉経後のホルモン環境の違い

ところで、女性の身体のホルモン環境は、閉経前と閉経後で大きく異なっています。閉経前は、主に卵巣からエストロゲンが分泌されますが、卵巣機能の停止した閉経後は、副腎皮質から分泌された男性ホルモンが脂肪組織などに存在するアロマターゼという酵素の働きによってエストロゲンに変換されます。

そしてこのエストロゲンの分泌を抑え、なくしてしまうのが、アロマターゼ阻害剤というホルモン剤で、他にも、LH-RHアゴニスト製剤があります。アロマターゼ阻害剤にはアロマシン(一般名エキセメスタン)、アリミデックス(同アナストロゾール)、フェマーラ(同レトロゾール)、LH-RHアゴニスト製剤にはゾラデックス(同酢酸ゴセレリン)、リュープリン(同酢酸リュープロレリン)という種類があります。

「LH-RHアゴニスト製剤は脳下垂体のLH-RH受容体に作用し、卵巣からのエストロゲンの分泌を抑える薬で、閉経前の患者に使用します。一方、アロマターゼ阻害剤は男性ホルモンをエストロゲンに変換する酵素(アロマターゼ)の働きを妨げ、エストロゲンをつくらせない薬で、閉経後の患者さんに使用します」(岩瀬さん)

[乳がんのホルモン療法の種類と仕組み]
図:乳がんのホルモン療法の種類と仕組み

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