5個以内の転移なら治癒の可能性も 乳がんのオリゴメタスタシスに対する体幹部定位放射線療法SBRT
がんの遠隔転移があるとステージ4と診断され、全身治療が行われることになる。しかし、少数の転移であるオリゴメタスタシスなら、体幹部定位放射線療法のような局所治療を加えることで、長期生存が可能になり、場合によっては治癒も期待できることがわかってきた。
とくに原発巣が制御されているオリゴ-リカランスは、原発巣が制御されていないシンク-オリゴメタスタシスより治療成績がよい。転移・再発乳がんの治療でも、オリゴ-リカランスなら体幹部定位放射線療法が保険適用となる。治癒の可能性もある新しい治療法として期待されている。
局所治療を加えると長期生存が期待できる
がんが原発臓器から離れた部位に転移することを遠隔転移と呼ぶが、遠隔転移を起こしたがんは、多くの場合ステージ4と診断される。そして、がん細胞が全身に広がっていると考えられることから、抗がん薬などによる化学療法が行われるのが基本である。乳がんの治療においても同様である。
ただ、近年になって、〝オリゴメタスタシス(oligometastases)〟という少ない個数の再発・転移がんが、注目されるようになってきた。オリゴは少数を意味する接頭語で、メタスタシスは転移のことである。この分野で世界をリードする研究を続けてきたOligometastases研究所代表の新部譲さんは、オリゴメタスタシスについて次のように説明している。
「オリゴメタスタシスは、1995年にアメリカの研究者であるヘルマン(Hellman)らによって提唱された再発・転移がんの概念です。近年の画像診断や生化学検査の進歩によって、単一部位の転移や、数カ所だけの転移が見つかるようになってきました。
転移があれば、通常は抗がん薬などによる化学療法が行われますが、それに局所治療を追加したところ、長期生存を期待できる症例があることがわかってきたのです。腫瘍量が少ない場合は、たとえ転移があっても、必ずしも全身性の病気ではなく、ある部分までは行っているが、そこまでに収まっているのではないか、というのがヘルマンの重要な視点なのだと思います。
とはいえ、オリゴメタスタシスは局所の病気ではないので、全身治療を行うことを否定はしていません。全身治療と局所治療を併用することで、予後(よご)がよりよくなることがわかってきています」
新部さんらは、オリゴメタスタシスを2つに分けて考えるべきだと提唱してきた。〝オリゴ-リカランス(oligo-recurrence)〟と〝シンク-オリゴメタスタシス(sync-oligometastases)〟の2つである。
オリゴ-リカランスは、原発巣が手術や放射線治療法などによって制御されていて、1~5個の転移が存在する状態である。いずれの転移巣にも局所治療が行われ、全身治療を併用するかどうかは問わない。
シンク-オリゴメタスタシスは、原発巣が制御されておらず活動性で、転移巣が1~4個(原発巣を含めて5個)存在する状態である。原発巣を含めてすべての部位に局所治療が行われ、全身治療を併用するかどうかは問わない(表1)。
「従来はオリゴ-リカランスとシンク-オリゴメタスタシスが混在する状態で研究が続けられてきました。私たちがこれを分類しようと考えたのは、オリゴ-リカランスとシンク-オリゴメタスタシスでは臨床成績に差があることがわかってきたからです」
どのように差があったのかを、次に紹介していこう。
オリゴ-リカランスの5年生存率は50%以上
2020年1月、新部さんを筆頭著者とする「肺のオリゴ-メタスタシスに対する体幹部定位放射線治療」と題する英文論文が、『Anticancer Research』という医学誌に掲載された。
この論文にまとめられた研究は、68施設が参加し、1378症例の肺にできたオリゴメタスタシス(転移性肺腫瘍)を対象に、体幹部定位放射線(SBRT)療法が行われている。オリゴメタスタシスに関する研究では、世界最多の症例数を誇る研究だという。
症例の内訳は、オリゴ-リカランスが1,016例、シンク-オリゴメタスタシスが118例、分類不能が121例だった。原発部位は、肺が422例、結腸・直腸が345例、頭頸部が114例、食道が114例、その他が383例だった。その他の中には、56例の乳がんが含まれていた。これらの患者に対し、体幹部定位放射線療法を加えた治療が行われた。
体幹部定位放射線療法は、ピンポイント照射と呼ばれることもある治療法で、複数の方向から照射することで、腫瘍に放射線を集中させる治療法である。
すべてのオリゴメタスタシスの全生存率(OS)を見ると、5年全生存率は45.5%となっている。遠隔転移が起きているにも関わらず、半数近くの人が5年間生存していることになる(図2)。
全生存を、オリゴ-リカランスとシンク-オリゴメタスタシスに分けてみると、両者には明確な差があることがわかった(図3)。
5年全生存率で比較すると、シンク-オリゴメタスタシスが30.5%なのに対し、オリゴ-リカランスは50.2%と高くなっているのだ。また、オリゴ-リカランスは10年以上が経過しても、2割ほどの人が生存している。
「治癒していると言ってもいいでしょう」と新部さんは言う。
無再発生存率(RFS)のデータもある。
再発せずに生存している人がどれだけいるかを示している。すべてのオリゴメタスタシスで見ると、5年無再発生存率は19.5%である。細かく見ると、オリゴ-リカランスが20.8%、シンク-オリゴメタスタシスが12.9%だった。
「オリゴ-リカランスについては、治癒し得る病気という疾患概念になると思います。シンク-オリゴメタスタシスはオリゴ-リカランスに比べると厳しい成績になっていますが、治療する価値はあるでしょう」
ハザード比(HR)は1.601だった。オリゴ-リカランスとシンク-オリゴメタスタシスの死亡リスクには統計学的有意差があり、シンク-オリゴメタスタシスの死亡リスクが約1.6倍高いことを意味している。
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