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進行別 がん標準治療
知っておきたい術前化学療法、センチネルリンパ節

監修:中村清吾 聖路加国際病院乳腺外科部長
取材・文:祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2003年11月
更新:2013年6月

  

お勧めしたいゴールドスタンダード

中村清吾さん
聖路加国際病院
乳腺外科部長の
中村清吾さん

この治療法が本当に今の自分にとって最善の方法といえるのだろうか。がん治療を受ける場合、医師から勧められる治療法を選択するにしても、他の治療法を考えるにしても、多くの患者さんがそんな不安を抱くのではないでしょうか。ここで、治療法を考える判断基準としてぜひ知っておきたいのが「標準治療」です。

標準治療とは、簡単にいえば、その時点で最も効果が高いと科学的に証明された治療法のことです。がん治療と一口に言っても、今はさまざまな治療法があり、化学療法ひとつをとってもいろいろな抗がん剤の組み合わせや投与の方法があります。

そこで、現状でどの治療法が最も効果が高いといえるのか、それを知るために世界では大勢の患者さんを対象に、治療法の効果を比較する臨床試験が行われています。

こうした複数の質の高い大規模臨床試験によって、現時点で最も効果が高いと評価された治療法は、「ゴールドスタンダード」と呼ばれています。がん治療の専門家が「このレベルの科学的根拠がある治療ならば、確実に患者さんに勧めたい」という治療法です。

実際には、全ての治療法にこうしたレベルの高い大規模臨床試験が行われているわけではないので、科学的根拠が不十分なところは専門家の意見やレベルの低い臨床試験の結果などによって穴埋めされることになります。こうして作られたのが、臓器別のがんの標準治療です。

そして、大規模臨床試験によってより効果の高い治療法が判明すれば、それが新たな標準治療となっていくわけです。欧米では、1990年代に入って、こうした標準治療をベースに各がん治療のガイドライン(治療指針)が作成されてきました。

日本では、これまで大規模臨床試験があまり行われてこなかったという事情もあり、欧米に比べて治療の標準化が遅れていました。これが、病院や医師によって治療法が異なる、いわば治療格差の問題の一因にもなっていたのです。

しかし、最近ようやく日本でも質の高い臨床試験が行われるようになり、各がん治療のガイドラインの作成という形で標準的な治療法が示されるようになってきました。

実際に標準治療を選ぶかどうかは、患者さん個々の考え方や人生観などに基づいて決められるものです。しかし、標準治療を知っていれば、自分の受ける治療法が標準治療なのかどうか、違う治療法であれば標準治療と比べてどういうメリットがあるのか、あるいは科学的根拠に乏しい治療法を避けることもできます。そういう意味で、標準治療は自分が受けるがん治療を判断する大きな基準にもなるものなのです。

まだ全てのがんに標準治療があるわけではありませんが、これから、臓器別のがんごとに現在の標準治療を紹介して行きます。今回は、乳がんの標準治療について聖路加国際病院乳腺外科部長の中村清吾さんに聞きました。

基本的に乳房温存療法が適応

[患者のための治療ガイドライン]
患者のための治療ガイドライン

中村さんによると、「乳がんは、科学的レベルの高い臨床試験が多く行われており、初期治療に関しては、かなり治療の標準化が進んでいる」といいます。

乳がん治療では、乳房を残せるかどうかが、大きな治療の分かれ目といえます。中村さんによると、最近は乳房温存療法の適応の幅がかなり広がっているそうです。

1期、2期の場合、基本的に乳房温存療法が適応になります。厳密な大きさの基準はなく、乳房を残すことができるかどうかは、乳房の大きさとがんの大きさの相対的なバランスによって決まります。「手術でがんの取り残しがなく、かつ美容的にも満足できる形で乳房を残せると予測できる状態」であれば、乳房温存療法の適応となります。

以前は、乳首から何センチ以上がんが離れていることといった条件が付けられることもありましたが、現在は「乳首を作ることもできるので、乳首にかかったがんでも乳房温存療法は可能」になっているそうです。

反対に、がんの大きさは同じでも手術でがんを取りきろうとすると乳房が小さくて変形が大きくなってしまう場合には、胸筋温存乳房切除術が行われます。これは、胸の筋肉を残して乳房のみを切除する方法です。

[乳がんの進行度(TNM)分類]
乳がんの進行度(TNM)分類

手術前に化学療法を行ってから乳房温存療法を

さらに、現在は少し大きながんに対しても手術前に化学療法を行い、がんを小さくしてから乳房温存療法を行うようになってきています。

具体的にいうと、2期でもがんの大きさが2センチ以上ある場合、あるいは3期(がんの大きさが5センチ以上)の場合には、手術前に化学療法を行ってがんを縮小させてから、乳房温存療法に持ち込むことが可能な症例が増えてきました。

「日本では、現在術前化学療法の臨床試験が行われている最中ですが、すでに世界では大規模臨床試験によってその有効性が示されています。今年のザンクトガレン乳がん国際会議で術前化学療法は最も注目された問題のひとつでした。そこで、術前化学療法という呼び名をプライマリー(一次)化学療法と改めることになりました」と中村さん。

つまり、世界的にはすでに術前化学療法が乳がん治療の標準治療と位置づけられているのです。

現在は、週に1回タキソールという抗がん剤を12回投与し、その後FACという抗がん剤治療を4コース繰り返す治療(MDアンダーソンがんセンター)、あるいはCEFを4コース行い、タキソテールを3週に一度4回投与する方法(聖路加国際病院)などが行われています。

こうした術前化学療法を行うことで、「聖路加国際病院でも、70~80パーセントの人が乳房温存療法に持ち込めるようになっている」そうです。

ザンクトガレン乳がん国際会議=2年に一度専門家が集まって乳がんの標準治療について検討する国際会議
FAC=5-FUとアドリアマイシン、シクロフォスファミドの3剤併用療法
CEF=シクロフォスファミド、エピルビシン、5-FUの3剤併用療法

[乳房温存療法と術前化学療法]
乳房温存療法と術然化学療法


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