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福島県立医科大学乳腺外科のグループ療法
気軽で陽気なおしゃべりの場。だから生きるエネルギーがわく

取材・文:常蔭純一
発行:2005年4月
更新:2013年4月

  

温存療法のすばらしさをもっと伝えて

写真:福島県立医科大学付属病院
福島県立医科大学付属病院

「ママはね、怪獣にやられちゃったんだよ。ちょっと前に乳がんで亡くなった主人の身内の家を訪ねると、3歳になったばかりの男の子がそういうんです。その言葉を聞いて、もっと早く手術を受けてたら、がんとわかったとき温存療法を知ってたら、手遅れになる前に手術に踏み切れたかもしれないのに、そんなやりきれない思いがこみ上げてきたんです。情報ってほんとに大切。今さらながら、そう痛感させられましたね」

今年1月、福島県立医科大学付属病院で行われた乳がん患者のグループミーティング「楽しく話を聞いて、お茶を飲む会」の1コマである。これに先立って、専門栄養技士である中村啓子さんから「がんと食事」について講話があった。そして5年前、この病院で乳がんの乳房温存手術を受けた尾形由美子さんが口火を切った。尾形さんに触発され、参加者が次々に自らの思いを話していく。

「私の自宅は温泉が近くて2日に1度はお湯につかりに行くんです。その温泉場は県外の人もよく訪ねており、そのなかに胸のない人がいたんです。その人が私の体の手術跡を見て、失礼ですけど、乳がんの手術をしたのかってたずねてきたんです。何でこんなにきれいに手術ができるんでしょう。どんな手術を受けられたんですかって不思議がられましてね。温存療法ですよっていうと、『おんぞん』ってどんな字を書くの、どの病院でやってもらえるのと周りの人も集まってきて大騒ぎ。でも、温存療法って、ほんと、まだほとんど知られていないんですよね」

「テレビでね、化粧品やチョコレートとか、みんな知ってる商品のCMをいっぱい流してるじゃないですか。その合間にちょっと温存療法っていうのがありますよって案内してくれればいいのに。それだけでどれだけ多くの患者が救われるか」 1人が発言するたびに「そう、そう」「そうなのよ」といった同意の声やにぎやかな笑い声の渦が広がっていく――。

気の置けない仲間同士のサークル会

写真:乳がん患者のグループミーティング

福島県立医科大学乳腺外科グループが行っている乳がん患者のグループミーティング

がん患者の多くが、再発不安をはじめとしてさまざまな不安を抱き、周囲から途絶したような孤独感を感じている。同じ境遇にあるがん患者が集い、互いにホンネを吐露し合うグループ療法には、そんながん患者の心の負担を軽減し、QOL向上に高い効用があるといわれている。

福島県立医大学病院乳腺外科では、そんなグループ療法の効用をがん患者の予後(治療後の経過)のサポートに取り入れようと、1996年から、乳腺外科助手の相楽浩哉さんらが中心になって定期的に患者の集いを催している。

残念ながら、日本の病院内でこうした患者の集いが実施されているケースはほとんどない。その場でどんなことが話し合われるのか、参加者にはどんな気持ちの変化が現れるのか、それを確かめるために会を見学させてもらうことにした。

広い会議室に四角に並べられたテーブルに向かっている患者は13名。そこに会の中心的役割の相楽さん、精神科医、それに臨床心理士などボランティアで参加している医療スタッフ、さらに今回のゲストである栄養士の中村啓子さんも含めると、集まった人たちは20名をゆうに上回っている。一般的にグループ療法のセッションは進行役のファシリテーターと8~10名程度の患者で行われるのが通例だから、かなりの大所帯である。

しかし、そうした規模の大きさよりも特徴的なのは、その場の空気の明るさだ。がん患者のグループミーティングというと、シリアスなイメージを抱きがちだが、この会の雰囲気はまったく違う。なごやかでどちらかといえば気の置けない仲間が集まった趣味のサークルの集い、といったおもむきだ。

大切な情報の受け止め方

写真:医師の相楽浩哉さん

グループミーティング終了後、インタビューに応じてくれる医師の相楽浩哉さん

患者同士のやり取りが一段落すると、穏やかな笑顔をたたえていた相楽さんが、福島弁特有の語尾を上げるイントネーションで親しみ深げに話し始めた。入局14年の働き盛り。野武士のような風貌だが、笑うと目もとに何ともいえない優しさがにじみでる。

「今まで、乳がん治療の情報の大切さを話してたよね。たしかに情報は大切。でも、逆にときには情報がマイナス作用を及ぼすこともあるんだな。それで今日は情報との接し方ってことをみんなで話してみたいと思うんだけど……」

一息おいたあと、今度は口調を早めてこう続ける。

「見た人もいると思うんだけど、昨日、テレビで乳がん患者のドラマをやってたじゃない。あの番組を見てオレ、これは危ないなと思ったの。だってさ、触診を患者さんを椅子に座らせてやってたじゃない。それに検査で採血したときは、血がドバーって感じで噴き出してたしさ。あのシーンを見たら患者さんは怖くてなかなか検査も受けられないんじゃないかな。おかしな情報が広がることで、医者と患者さんの関係がギクシャクしちゃう危険もあるんですよ」

ちなみに乳がんの触診は患者が診察台に横たわった状態で行うことが多く、血が止まるまでの時間を調べる検査で採取する血液の量はほんの1滴程度だ。この相楽さんの言葉を受けて、ある参加者が日ごろの疑問を口にする。

「サプリメントだってそうでしょう。体にいい、いいっていうけれど、同じものばかり摂っていて体にいいはずがないと思うんですけど」

「そうなんですね。がん患者さんの中にもビタミン好きな人がいるんだな。ちょっと前にも抗がん剤の治療を始めようと検査をしたら、肝機能のデータに異常が現れている。何があったのかと聞くと、サプリメントの摂りすぎでビタミンE過剰症になっていた。おかげで治療は1カ月延期になっちゃった」

ユーモアたっぷりに語る相楽さんの言葉が参加者の笑いを誘う。

「インターネットでも盛んに健康食品のPRをやっていて、うん蓄のあるような情報が掲示されてるけれど、よく考えてみると、家族の誰かに聞いたような話が少なくない。結局おばあちゃんの知恵袋のようなものなんだな。情報に振り回されて、ビタミン摂らなくっちゃ、ミネラル摂らなくっちゃとあたふたするよりも、ゆったりと構えて楽しいことを考えているほうが、体にもいいんじゃないのかな」

「テレビだけじゃなくって口コミにも簡単に踊らされちゃいますね。入院中にある患者さんが、どこかのクリニックでグレープフルーツジュースががんにいいって聞いてきたらしいんです。その情報が患者の間に広まって、あっという間に病院中のジュースが売り切れちゃった。みんな何本も買って病室の冷蔵庫に隠匿しているんです」

別の参加者がこう話すと、また爆笑の渦が広がった。


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