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乳がんの基礎知識:1人ひとりに合った治療法を! ここだけは押さえておきたい乳がんの基礎知識

監修●黒井克昌 都立駒込病院副院長
取材・文●半沢裕子
発行:2013年3月
更新:2019年11月

  

「焦らず正しい情報を得てから治療へ入りましょう」と話す
黒井克昌さん

乳がんは年間約6万人が罹患し、年々、患者数は増え続けています。これまでは、閉経前後の40代後半~50代前半に多かったが、閉経後の患者さんも増えています。ここでは初期治療の基礎知識について、わかりやすく解説します。

Q1 がんは乳房のどこにできるの?

乳房は乳腺と脂肪などからなり、じん帯によりその形が保たれています。乳腺は、乳汁(母乳)を作る小葉と乳汁を運ぶ乳管からできています。 乳頭には15~20個の乳管の開口部があり、それぞれの開口部から乳管、小葉がブドウの房のように分布しています。

乳がんのほとんどは、乳管を構成する乳管上皮細胞から発生します。がん細胞が乳管のなかにとどまっている状態のがんを非浸潤がん、がん細胞が乳管や小葉を包む基底膜を破り外に出ている状態のがんを浸潤がんといいます。浸潤がんの場合、血管やリンパ節へと広がり、血液やリンパ液の流れにのり、他の臓器へと転移していく可能性があります。

Q2 乳がんかどうか、どうやって確定するの?

診断は視触診、次に画像診断(マンモグラム=乳腺X線撮影と超音波検査)を行います。最近はMRI(磁気共鳴画像検査)を撮る病院も増えました。部分切除か乳房切除か、手術の判断にも有用なためです。

さらに、乳房のしこりなどに細い針を刺して細胞をとる細胞診や、局所麻酔をして少し太い針でまとまった組織をとる組織診(針生検)を行います。組織診はとれる組織の量が多いので、診断が正確につく可能性が高いだけでなく、抗HER2感受性があるか(=抗HER2療法薬が効くか)、ホルモン感受性があるか(ホルモンの影響で大きくなるがんかどうか)などが確認でき、治療選択に大変役に立つことから、最近では主流となっています。

Q3 乳がんの治療法にはどんなものがある?

治療法は大きく2つに分けられます。局所療法と全身療法です。局所療法とは乳房にできたがんに対する治療で、手術と放射線治療がこれにあたります。

全身療法は薬剤を使った治療で、文字通り、全身に行きわたることを期待して行います。別な場所に飛んだ可能性のあるがん細胞を退治したり、増殖を抑えるために行います。全身療法に使われる薬剤にはホルモン薬、抗がん薬、抗HER2薬などがあります。

ホルモン療法や抗HER2療法は今日、事前に病理検査を行い、効果があると判断された患者さんにだけ使われます。それにより、治療効果が確実に得られるだけでなく、効果の得られない患者さんを不要な副作用で苦しめずにすみます。

Q4 「私の治療」はどうやって決まりますか。

最近では、最新の研究報告に基づいたガイドラインが作成されています。ガイドラインとは治療の有効性と安全性を確認し、「このような症例ではこの治療が現時点で最善と思われる」とする治療(これを標準治療といいます)をまとめたガイドブックのようなものです。世界の研究成果も踏まえ、日本では日本乳癌学会が日本人向けの『乳癌診療ガイドライン』を作成し、3年ごと(最近では2年ごと)に改訂版を発表しています。

患者さんに対しては、がんの病期(ステージ)、つまり、がんの広がりと悪性度、抗HER2療法感受性、ホルモン療法感受性、遠隔転移(離れた臓器への転移)のリスク、さらに心臓病や糖尿病など合併症の有無、患者さんの年齢や体調などを考慮してガイドラインに照らし、適切と思われる治療が選ばれます。さらに、「治療後すぐ仕事に復帰したい」、「入院でなく通院でできる治療を」など、患者さんの希望も聞き、決定するのが一般的です。

Q5 病気の病期(ステージ)はどう分けられていますか?

病 期 しこりの大きさ リンパ節転移 がんの種類
0期 ごく早期、がんが発生した乳腺内にとどまっているもの 非浸潤がん
Ⅰ期 2cm以下 なし 浸潤がん
Ⅱa期 2cm以下 あり 浸潤がん
2.1~5cm以下 なし
Ⅱb期 2.1~5cm以下 あり
Ⅲa期 5.1cm以上 あり。リンパ節同士が癒着したり、周辺組織に固定しているもの 浸潤がん

(局所進行がん)

Ⅲb期 大きさや転移の有無にかかわらず、しこりが胸壁に固定しているか、皮膚に顔を出したり、皮膚が崩れたりむくんでいるような状態。炎症性乳がんも含む
Ⅲc期 大きさにかかわらず、腋の下のリンパ節と胸骨内側のリンパ節両方に転移あるいは、鎖骨上下のリンパ節に転移
Ⅳ期 骨・肺・脳などの臓器に転移しているもの 遠隔転移がん 遠隔転移がん

 

Q6 温存を希望したいのですが?

手術にはがんと周辺部分だけを切除する部分切除(乳房温存術)と、乳房全体をとる乳房切除術があります。患者さんは残すことを希望されることと思いますが、がんのできた場所や病状によっては残せないこともあり、また、せっかく残しても変形が著しいことがあります。

変形が著しい場合、あとできれいに治すのは困難です。むしろ、再建を前提に乳房切除を選択したほうが、美容的にも優れていることが少なくありません。再建を希望する場合、治療の初めから医師に伝えることが大切です。

Q7 がんと診断されました。治療法は?

非浸潤がんはがんが発生した場所(乳管・小葉)にとどまったがんです。ごく初期のがんで、病期(ステージ)も0期と呼ばれます。治療の基本は手術。非浸潤がんは局所療法(手術・放射線)が完結すればあとは「経過観察」のみとなります。

一方、浸潤がんの治療の基本は局所療法と全身療法で、同時に腋の下のリンパ節に転移があるかないかを調べる必要があります。画像診断などで転移がないと思われる場合でも、実際に切除してみると転移のあることがあります。そのため、センチネルリンパ節生検を行い、転移の有無を調べます。転移のある場合は腋の下のリンパ節の切除術を行いますが、転移がない場合は乳房の手術のみを行います。全身療法は、手術の前に行う場合(術前化学療法)と、手術後に行う場合があります。非浸潤がん、浸潤がんとも症例により、部分切除も可能で、その場合は放射線療法も行います。

センチネルリンパ節

リンパ液は、体内の不要物質や疲労物質などをリンパ管を通して回収・排出する役割を持っています。リンパ管は全身に広がっていますが、その途中に異物を食い止める働きをするのがリンパ節です。センチネルリンパ節生検とは、センチネルリンパ節(初めにがん細胞がたどりつくリンパ節)を切除して、がん細胞の有無を調べる検査方法。センチネル(見張り)リンパ節にがん細胞がなければ、その先にあるリンパ節にも転移はしていないと判断します。

Q8 ルミナルAタイプと言われましたが、何のことですか?

ホルモン感受性あり(ER, PRいずれも陽性、もしくは一方が陽性) ホルモン感受性なし
HER2陰性 低増殖能 ルミナルA(ホルモン療法) トリプルネガティブ(化学療法)
高増殖能 ルミナルB(HER2陰性)(ホルモン療法+化学療法)
HER2陽性 ルミナルB(HER2陽性)(ホルモン療法+化学療法+抗HER2療法) HER2タイプ(化学療法+抗HER2療法)

ER=エストロゲン受容体 PR=プロゲステロン受容体

浸潤がんは最初にできた場所から周囲に広がっている可能性があります。治療はがんの塊に対する局所治療(手術・放射線)を行い、全身に飛んだかもしれないがん細胞を叩く全身療法(薬物療法)を併用します。

薬物療法の決め方は近年、大きく変わりました。がんがホルモンの刺激で大きくなるタイプ(ホルモン受容体陽性)か、いわゆるがん遺伝子のHER2をもつ(HER2受容体陽性)か、術前の検査で見極められるようになったのです。さらに、ホルモン受容体陽性のタイプを、がんの増殖能力を表すKi-67という数値が高いもの、低いものに分け、この5つの分類(サブタイプ)を治療選択の目安とします。

たとえば、ホルモン受容体が陽性、HER2受容体が陰性で、Ki-67が低いルミナルA型は、ホルモン薬がよく効く一方、分子標的薬の抗HER2薬は効かず、がんの増殖能力が低い(=悪性度が低い)ので、一般に副作用の強い抗がん薬治療は不要、つまり、結論は「ホルモン療法を中心に選択する」になります。

サブタイプ分類で調べる女性ホルモン受容体にはエストロゲン、プロゲステロンの2種類があります。ホルモン療法と抗HER2薬がすべて陰性のタイプをトリプル(=三重に)・ネガティブと呼ぶのはこのためです。サブタイプ分類に加え、がんの大きさ、年齢、がんの悪性度、リンパ節転移の有無といった予後因子を考慮し治療法を選びます。

予後因子=判断材料

Q9 術前化学療法はなぜ行うの?

術前化学療法とは手術や放射線治療の前に行う薬物療法のことで、第1の目的は、手術前にがんを小さくすることです。結果、乳房切除でなく、部分切除にできる可能性があります。第2の目的は薬が患者さんに効くか確認すること。手術を先に行った場合には薬が効いているかどうか判断できませんが、術前化学療法では薬が自分に効いているかどうかがわかります。基本的にはリンパ節転移があるなど、再発リスクが高い人、つまり術後に薬物療法が必要な人に行います。

術前化学療法には抗がん薬が使われ、抗HER2薬が併用されることもあります。最近はホルモン療法を試みる場合もありますが、まだ標準治療とは呼べない段階といえます。

Q10 ホルモン療法では何をするの?

乳がんのなかには、女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)の働きでスイッチが入り、がん細胞が増殖するタイプがあります。そのようなスイッチが入らないようにする薬を投与するのがホルモン療法です。

患者さんが閉経前か閉経後かで、薬は異なります。閉経の前後で体内のホルモン状況が大きく違うためです。使う期間は5年が基本ですが、10年の場合もあります。つまり、長く飲み続ける薬です。

閉経前は通常、ノルバデックスを単独で使うか、ノルバデックスとLH-RHアゴニスト製剤を併用します。閉経後は最初にアロマターゼ阻害薬を5年投与する方法、ノルバデックスからアロマターゼ阻害薬に乗りついで5年投与する方法、ノルバデックスを5年投与したあとにアロマターゼ阻害薬を5年プラスする方法などがあります。ノルバデックスについては5年10年の比較が行れており、今後、10年服用という選択肢も増えてくる可能性もあります。

ノルバデックス=タモキシフェン

Q11 抗HRE2薬ってどんな薬?

HER2とは細胞の表面にあるタンパクで、細胞の増殖や分化にかかわっています。HER2がたくさんあると、細胞の増殖が盛んになります。ハーセプチンはHER2にくっつき、HER2が働かなくなるようにする抗体です。従来、HER2受容体をもつがん(HER2受容体陽性という)は、悪性度が高く、予後が悪いとされていましたが、この薬の登場でイメージがガラリと変わりました。「薬の効くがん」になったのです。

抗HER2薬は抗がん薬と併用します。抗がん薬の中でもアンスラサイクリン系は、心不全を起こす確率が高まるため同時には使用しませんが、タキサン系の薬とは同時に使用可能です。投与期間は1年間です。

ハーセプチン=一般名トラスツズマブ

Q12 乳がんの抗がん薬治療とは?

乳がんの標準治療で使われる抗がん薬は多く、使い方や使う順番、組み合わせ方もさまざまです。主な薬剤にアンスラサイクリン系のアドリアシン、ファルモルビシン、タキサン系のタキソテール、タキソール、アルキル化剤のエンドキサン、ピリミジン系の5-FUなどがあります。

今日、標準的な組み合わせがガイドラインで決まっていて、薬剤の商品名や一般名の頭文字をとって、AC療法、FEC療法などと呼ばれています。治療期間は3週間ごとに4回、毎週12回など薬により異なりますが、3~6カ月くらい行われます。

抗がん薬は殺細胞薬と呼ばれ、正常な細胞にもダメージを与えます。このため副作用がでます。次の治療は副作用からの回復をみてから続けることになります。「副作用があるけれども、効果が期待できるので使う薬」ということです。

主な副作用は吐き気、嘔吐、骨髄抑制(白血球減少など)、口内炎、皮膚の発疹、脱毛など。しかし、制吐剤のイメンドなど、最近は副作用を和らげる優れた薬が増えています。気になる症状があったら、医師や看護師に早めに相談しましょう。主治医だけでなく他科の医師、看護師、薬剤師など、さまざまな職種の専門家が相談に乗ります。

意外に見落とすのが、口腔内のケアです。虫歯があると感染症のリスクが高くなります。治療前に治しておくことをお勧めします。また、脱毛を起こしやすい抗がん薬を使用する場合は、事前にカツラなどを準備しておきましょう。

アドリアシン=一般名ドキソルビシン ファルモルビシン=一般名エピルビシン タキソテール=一般名ドセタキセル
タキソール=一般名パクリタキセル エンドキサン=一般名シクロホスファミド 5-FU=フルオロウラシル
AC療法=アドリアシン+エンドキサン FEC療法=5-FU+ファルモルビシン+エンドキサン イメンド=一般名アプレピタント

Q13 乳房再建はどのように行うの?

乳房再建には自分の体の組織(自家組織)を使う方法と、人工物(インプラント)を使う方法があります。再建の時期も最初の手術時に同時に行う一期再建と、術後に一定の期間をおいて行う二期再建があります。

自家組織は、おなかの組織を移植する方法と背中の組織を移植する方法があります。

人工物を使う場合、エキスパンダーと呼ばれる袋を筋肉の下に入れ、少しずつふくらませて皮膚を伸ばし、乳房の形が完成したら、シリコンでできた人工乳房と入れ替えます。人工乳房の代わりに自家再建を行う場合もあります。

乳頭も作れます。再建を希望する場合、治療の当初から医師に伝えておくことが大切です。

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