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診療ガイドラインの解説:『乳癌診療ガイドライン』から薬物療法をわかりやすく解説 乳がんは個々のタイプを見極めることが肝心!

監修●渡辺 亨 浜松オンコロジーセンター院長
取材・文●祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2013年3月
更新:2019年11月

  

乳がん薬物療法の第一人者である渡辺 亨さん

乳がんは、最も個別化治療が進んでいる疾患の1つといえる。個々の患者に適した治療を選択するためには、具体的にどのようにすればいいのだろうか。2011年に改訂された『乳癌診療ガイドライン』をもとに、乳がん薬物療法について解説する。

2011年にガイドラインが改訂

乳がんの診療ガイドラインが初めて登場したのは2004年。以後改訂を重ね、2011年には新たな改訂版が出版された。

しかし、その意味合いはだいぶ変わってきたようだ。浜松オンコロジーセンター院長であり、薬物療法の診療ガイドライン委員長を務めてきた渡辺亨さんは、「2004年当時は医師の間でもEBM(科学的根拠に基づいた治療)を作る、伝える、使う、という考え方を理解していない人が多かったのです」と語る。

少し解説すると、エビデンス(科学的根拠)を作る、とは臨床試験を行い、新しい治療方法が効く、ということを確かめることである。当時は、日本で行われた臨床試験の結果は少なく、EBMも欧米に依存していた時代だ。

「ガイドラインで伝えるエビデンスも、大部分は海外の臨床試験で得られたものでした」と渡辺さんは振り返る。

「2004年版では、EBMとは何か、ということも合わせて、日常診療でのエビデンスの使い方を広く医師に伝えよう」という意図のもとガイドラインも作成されたのである。

あれから約10年。乳がんに限らず各種がんの診療ガイドラインは整備され、標準治療も普及した。おかげで、EBMを無視した治療は少なくなってきた。

だが、渡辺さんは新たな問題を指摘する。

「今では、ガイドラインに頼り切りになり、とくに若い医師は経験知を無視し、自らの頭で考えない傾向があります。しかし、ガイドラインはプロとしての力量を支援するための1つのツール。患者さんの状態をみて、適応と限界を見極めなくてはならない」と話す。

エビデンスからの旅立ち

■表1 推奨グレード出典:日本乳癌学会編:『科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン ①治療編2011年版』(金原出版)

渡辺さんは、「ガイドラインにあるクリニカルクエスチョンのなかで、確固としたエビデンスがあるのは2割。あとの8割をいかに経験知などで補完するかが重要」と語る。

クリニカルクエスチョンに対する回答は、科学的根拠のレベルに応じてAからDまで5段階の推奨グレードに分けられている(表1)。このうちAとBは科学的根拠のもとに、実践が推奨されるもの。しかし、それは2割にすぎないというのである。C1には細心の注意が求められ、C2になると十分な根拠がないので「基本的に勧められない」、Dになると「科学的根拠のもとに実践しないよう推奨」されている。

だが、ガイドラインの範疇に適切な治療法がないからできない、ではすまされない。「ガイドラインをいかに補完して治療を組み立てるかが重要です」と渡辺さんはいう。

ガイドラインの普及から、応用へ。新たな段階に入った現状を、渡辺さんは「エビデンスからの旅立ち」と表現する。では適切な治療を受けるためには何が大切なのだろうか。EBM実践には患者を評価し、問題点を整理して、文献を調べ、吟味して応用する、というステップがあるという。

なかでも、渡辺さんが重視するのは、PECOを立てることだ。患者をよくみて問題点を評価した上で、「どういう患者に」「どのような治療を行った場合」、「他の治療を行った場合と比べて」「どんな結果になるか」。例えば、その患者に、放射線療法を行った場合、ホルモン療法に比べて、生命予後やQOL(生活の質)などの治療結果はどうなのか。疑問点を洗い出して、その答えを文献で調べ、適切な治療法を選択して実践する。

しかし、現実には世界中の論文にあたって問題点を調べるのは難しい。その代わりになるのがガイドラインだと、渡辺さんは説明する。

ガイドラインはクリニカルクエスチョンにエビデンスを引用して答えるという形で構成されているが、これがまさにPECOなのである。

PECO=Patient Exposure Comparison Outcome

初期治療は治癒を目指す

■図2

「初期治療」の目的
1. 完治(救命)
2. 乳房温存
3. QOL(生活の質)の維持

乳がん治療は、基本的に「初期治療」と「転移・再発治療」に分けられ、全く方針が異なってくる。

「初期治療は、先発完投型。0で抑えることが目標です」と渡辺さん。まず命を救うこと、次に可能なかぎり乳房を救う、そして生活の質を維持することが目的になる(図2)。

乳がんは、乳汁を作る小葉やその通り道である乳管の組織から発生する。がんが、そのなかにとどまっているのが「非浸潤がん」、周囲にしみ込むように広がった状態が「浸潤がん」だ。

非浸潤がんの場合、手術、たいていは乳房温存術だけで治療は終了する。これが浸潤がんになると、微小転移があることが治療の前提になる。

乳がんは小葉や乳管の外に染みだした途端、タンポポの綿毛のように全身にがんの種が散らばり成長して、やがて転移や再発として見つかると考えられている。

そのため、治療も局所療法である手術と放射線療法に加え、全身療法であるホルモン薬、抗がん薬、分子標的治療薬を組み合わせて行うことが必要になってくる。再発を防ぐため、最初から転移の芽をつぶすことを考えて治療を始めるのだ。だからこそ「最初にしっかりと治療の全体像を計画することが大事なのです」と渡辺さんは強調する。

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