多様な職種の連携で、骨転移患者さんのQOLを維持する 最期まで自分の足で歩けるように
骨転移は骨の病気であることから、運動器を専門にしている整形外科医による診療が有用だ。骨転移のがん患者さんが急増するなか、リハビリの必要性や他職種との連携など新しい診療体制が求められている。様々な科が連携して治療にあたる、東京大学医学部附属病院の骨転移キャンサーボードの取り組みについて伺った。
骨転移の適切な治療をめざす新しい医療体制を
骨転移とは、元の臓器で発生したがんが主に血液に乗って骨に流れ着き、増殖することをいう。東京大学医学部附属病院リハビリテーション部講師で、もともと整形外科医の篠田裕介さんは、「骨に新しいがんができたと誤解されることがありますが、骨転移はあくまでも、乳がんや前立腺がんなど原発のがん細胞が骨に行き、骨の中で増殖する状態を言います」と解説する。
近年、抗がん薬や分子標的薬をはじめ、骨転移を抑える*ゾメタや*ランマークなどの骨修飾薬の登場により、骨転移の治療法は進んできている。
「ところが実際の臨床現場では、治療が必要な骨転移が見逃されて骨折や麻痺を生じたり、麻痺があっても緊急治療が行われなかったり、骨折や麻痺を防ぐためにベッド上で安静にする生活を余儀なくされ、著しくQOL(生活の質)やADL(日常生活動作)を悪化させている例が少なくありません。がんと関係ない痛みが骨転移と診断されて、麻薬系の鎮痛薬が使われているケースもあります」(澤田さん)
骨転移が放置されがちになるのはなぜだろう。「骨転移は、肺転移や肝転移などと異なり、それ自体で生命を脅かすことが少ないため、主治医があまり重視しない傾向があるのではないでしょうか。また、骨などの運動器を専門とする整形外科医の中にも、骨軟部腫瘍(肉腫など)の専門医を除き、がん治療に詳しい人が少ないことが挙げられます。
骨転移治療の目標は、症状を緩和して運動機能を維持し、QOLを保つことです。そのためには、多くの整形外科医が骨転移を診られるようにすること、また、主科や放射線科、リハビリテーション科、緩和ケア科などが連携して治療にあたる新たな診療体制が必要です。治療と併行して骨転移のリハビリテーションを適切に行うことで、寝たきりを防ぎ、自立した生活を継続できる可能性が高まります」と篠田さんは強調する。
東京大学医学部附属病院では、2012年に多職種連携による「骨転移キャンサーボード」を設置し、篠田さんおよび同大学病院整形外科の澤田さんを中心に、リハビリテーションを含めた骨転移の治療にあたっている(図1)
*ゾメタ=一般名ゾレドロン酸 *ランマーク=一般名デノスマブ
骨折・麻痺になる前に発見し、適切な治療を
ここで、骨転移について少しおさらいをしておこう。骨転移を生じやすいがんには、肺がん、乳がん、前立腺がん、腎がん、甲状腺がんなどがある。骨転移を起こしやすい骨は、脊椎、骨盤、ろっ骨などの体の中心部(体幹)の骨や、上腕骨や大腿骨の体幹に近い部分に多い。
症状としては、痛み、骨折、麻痺、高カルシウム血症などがよく見られる。
「じっとしていても骨が痛い、痛み止めを飲んでもどんどん痛くなるというような場合は骨転移が疑われます。骨折が起こりやすくなるのは、腫瘍により正常な骨の構造が破壊され、強度が弱くなるためです。上腕骨や大腿骨などの長管骨は2層構造になっていて、内側にある海綿骨を外側の皮質骨が覆っています。皮質骨の欠損が大きいと、ほんの少しの外力で骨折します。
なかでも骨盤や大腿骨などの体重を支える骨が骨折すると歩けなくなり、日常生活が困難になります。また、脊椎への転移で脊髄(神経)が圧迫されると、四肢や体幹の感覚障害や運動障害、麻痺が起こります。このような骨折や麻痺を起こさないことが一番の目標であり、症状が悪化する前になるべく早く骨転移を見つけ、治療を行うことが求められます」(篠田さん)
骨転移の画像検査には、X線、CT、MRI、骨シンチ、PETがあるが、一番簡単に骨の強度がわかるのはCT検査だという。
「CTは30秒程度の短時間で全身を調べられるのに対して、MRIは転移の有無を見極めやすい半面、腰椎など一部の骨の検査であっても30分も時間がかかります。そのため、骨転移のスクリーニングはCTで行い、詳細な検査にMRIを用いるのが普通です。CTで骨転移が見つからないこともありますが、骨折や麻痺を起こすような病変はわかることが多いです。骨転移の診断時には腫瘍マーカーや、骨代謝マーカー(ALPなど)もチェックします」(澤田さん)
もし、骨の痛みが増す一方で鎮痛薬も効かないときは、主治医に相談し、骨転移の検査を検討してもらうとよいだろう。
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