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運動はメンタルへのデトックス効果も高い がん治療後に元の生活に戻れることが大事、運動はその第一歩

監修●広瀬眞奈美 一般社団法人キャンサーフィットネス代表理事
取材・文●伊波達也
(2018年12月)

  
「社会に復帰するのが一番大事。10秒動いただけでも気持ちも動く。自分で動かせることができるのは喜びです」と語る広瀬さん

治療の選択肢が多く、予後もよいと言われる乳がんのみならず、近年では、各がん種で、治療および経過観察期間が長い、いわゆる〝がんサバイバー〟が増えており、その数約500万人を超えているという。そんながんサバイバーたちが治療後に抱える心身のストレスに対して、運動を軸とした様々なメソッドで支援にあたるのが「キャンサーフットネス」という団体だ。団体を立ち上げた代表理事の広瀬眞奈美さんに話を伺った。

自分のがん体験がきっかけで活動

「がんの患者さんは、がんと告知されたとき、そして手術などの入院中もとてもつらいのですが、退院後の現実の生活に戻った時期こそ、以前と違う自分の体に愕然とし、つらい思いをする方も多いのです。そんな方たちが少しでも元気で日常生活に戻っていただきたい、そんな思いでした」

そう話すのは、「キャンサーフィットネス」という一般社団法人を立ち上げた広瀬眞奈美さんだ。同団体は、がんサバイバーが運動などを通して、安心して社会復帰できるように支援をしている。

「がん患者のための運動教室」「がんサバイバーのためのヘルスケアアカデミー」「病院でのがん患者のための運動プログラム制作協力」「キャンサーフィットネス認定インストラクター養成」「リンパ浮腫ケア啓発支援」「運動によるがん予防啓発活動」という6本の柱を中心に、きめ細かい支援を行なっている(写真1)。

キャンサーフィットネスのパンフレット

広瀬さん自身も、乳がんからのサバイバーだ。2008年11月、左乳房にがんがあると告知された。

「ショックでした。最初は何の知識もなかったので怖かったです。ただ、自分なりの解決策を考えないと、絶望の渦の中に飲み込まれそうに思いました」

その解決策として浮かんだのが、ランニングだった。

「手術までの間、落ち込んでいてもしょうがないと思って、少しでも体力をつけようという考えで、とにかく走っていたのです。でも、今考えるとあのときやっていたことが、今の活動につながっていると思います」

もともとスポーツウーマンだったこともあり、がん患者が運動することの正当性を探して、海外の文献も読みあさったりもした。そして、がんでも運動している人のことを知り、文献からも運動しても大丈夫だとわかった。

翌2009年1月、左乳房全摘手術を受け、退院後に抗がん薬療法、放射線療法、ホルモン療法を行うとの説明を受けたが、退院後抑うつ状態に陥った。

「家に帰ると、周りは何も変わっていない、変わっているのは私だけ。体力は落ちているし、リンパ節も切除したので、しびれと痛みと違和感がすごくて、以前どおりの生活ができないと落ち込みました」

医師からは、すぐに術後補助療法の抗がん薬治療を始めるように勧められたが、こんな落ち込んだ状態では抗がん薬治療は無理だと感じ、自分を取り戻すために2カ月の猶予をもらった。

海外で次の目標をみつける

「それでハワイへ行って、イルカと泳いだら、泳ぐことができたのです。1つできることがあったと、だんだん気持ちが明るくなり、元気が出てきたのです。それまでは、できないことばかり考えていたのに、歩ける、走れる、泳げると、できることを考えるようになったのです。結局私にないのは胸だけ。不自由はあるけど、できることもいっぱいあるなと思ったのです」

その頃、たまたま雑誌で見た、ニューヨークの「Moving For Life」(MFL:がんサバイバーのためのリハビリエクササイズを行っている団体)の活動風景の明るさが眩しく、次はここに行くのを目標にしようと思った。

帰国後、化学療法治療中に、スポーツの専門学校へ入学し、20歳前後の若者に交じって、解剖学や運動理論、実技などを学び始めた。それで、前向きに抗がん薬治療にのぞむことができた。

「おそらく精神的には不安定だったと思うのですが、『がんでも負けるもんか』という意志が強く働いていたのだと思います。勉強しているときに、『がん患者は化学療法治療中でも有酸素運動(エアロビクス)を推奨する』というアメリカの論文にも出合いました。実際、自分で実践しても、体調も精神面もよくなったと実感して、これは絶対すごいと思いました」

1年後専門学校を卒業して、ニューヨークの「Moving for life」に行き、学んだ。インストラクターの資格を取るには100時間の講義が必要だったため、そのカリキュラムの一部は、日本で唯一教えられる人を紹介され、個人授業を受けた。現在「キャンサーフィットネス」の理事を務める杉本亮子さんだ。

その後、2人でニューヨークに行き、MFL認定インストラクターの資格を取り、日本で同じような団体を作ることを決心した。

アメリカのがん患者に対するフォローアップのプログラムの充実度はすばらしく、それを少しでも日本で紹介したいと、6年前に「乳がんフィットネスの会」を実験的に始めた。公共施設や老人ホームなどの場所を借りて、乳がん治療中の患者の運動指導を行った。

その後、他のがん種の患者も増え、理学療法士や看護師、薬剤師の人たちも興味を示し、訪れる人が増えてきたため、4年前現在の「キャンサーフィットネス」を立ち上げた。

運動療法を広げるため「キャンサーフィットネス」設立

「立ち上げた当初は、学会などで、医師から『エビデンス(科学的根拠)があるのか』などと追究されて、悔しくて泣いて帰ったこともあります。『患者がここまでがんばっているのに!』って。私はリンパ浮腫という後遺症が起きてしまいましたが、がんの後遺症を背負って大変な思いをして生きているがんサバイバーは多いのです」

しかし、日本における「がんリハビリ」は、外来の保険点数がつかないため、医療現場では導入しにくいのが実情なのだ。しかし、がん患者にとって治療中の運動が重要であるということは、今やグローバルスタンダードになりつつある。

広瀬さんは、がん診療連携拠点病院にあるがん相談支援センターから相談を受け、運動の大切さを講義することもある。日本でも、昨年(2017年)あたりからだんだん運動が必要ということがわかってきて、病院でフィットネスを取り入れるところも出てきた。

「ただ、現実には、厚労省のデータでは、運動習慣がない人は全体の約7割とのことですから、がん患者さんが運動するように言われても実際何をすればいいのかよくわからないのです。ですから〝体力作り〟というところから知識をつけてもらい、徐々に運動につなげています」(写真2、3)

運動教室での風景

広瀬さんは、がんサバイバーがセルフケアの知識を身につけるような講義を受ける場がないことにも気づき、運動教室以外にも、月2回、生活習慣や、睡眠、食事、メンタルケア、後遺症のケア方法などに至るまで、がん治療後の健康管理のために、様々な講座を行なっている。

「他にも、解剖学、生理学、呼吸、姿勢改善、体幹の鍛え方など、自分の体の機能の知識を得て、効果的に運動を行う方法について学ぶ講座も行っています。参加者にアンケートをとったところ、講座を受けて運動をするようになったという人が多かったので、いい啓発の場になっていると実感しています」

運動教室では、術後間もない方や、体力の状態に合わせて、様々な種類の教室を提供している。ウォーキングやキャンプなど、数々のイベントもある。現在「キャンサーフィットネス」の会員は600人にのぼる(写真4)。

運動以外にも様々な講座を設けている

「サバイバーの方にとって、私たちが必要なのは、ご自身がつらく苦しんでいるある一定の時期です。その後は、皆さん元気に社会へ復帰してくださり、ここへはもう来なくなる方が多いです。淋しくもありますが、それはとても素晴らしいことです」

「キャンサーフィットネス」は、グループで行うことが多いので、患者同士が相談し合えるピアサポートの場にもなっている。また、がんサバイバーの中から同会のインストラクターも育てている。

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